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【連載小説】一途な気持ち 7話 気持ちの確認と親父がいない痛手

#一途な気持ち

 最近、大好きな田下律子に会っていない。どうしているかな。メールもこっちから送らないとこない。それはそれで寂しい。きっと、俺のことなど気にも留めてないのだろう。俺はこんなに好きなのに。もしかして律子は人より馬の方が好きなのでは? そんなことを考えてしまう。

 律子の出身地は東京。中学を卒業してから今の牧場に就職したらしい。現在、年齢は26歳で俺と同い年。どこで出逢ったかというと、居酒屋だ。俺は呑み友達の田原啓介たはらけいすけと呑みに行っていて律子は職場の男性の同僚と呑んでいた。出逢って1年半くらい経つだろうか。

 思ったことがある。もしかして律子は一緒に呑みに来ていた男性と付き合っているのではないだろうか。そんな気がする。そのことを訊くのも怖いし、もし、交際していたらこの俺の一途な気持ちはどうなるのだろう?

 俺は律子以外に心が揺らいだ女性もいないし、そんな相手もいない。だから尚更、律子が大切な女に思えてくる。本人に直接訊いてみるかな。確かに怖い。でも、1年半も片思いでそろそろどうしたらいいかはっきりさせたい。正直、こんな気持ちでいるのもだんだん辛くなってきた。さて、どうしようか。

 ここは勇気を振り絞って、ダメ元で律子の気持ちを確認してみるか。まずは彼女にメールをしよう。真面目に話したいから、お酒は抜きで。
<明日の夜、話したいことがあるから会えないか?>
 時刻は20時15分頃。夜飼いに時間がかかっているのだろうか。なかなかメールがこない。でも、何度もメールは送らない。1度だけ。それから約30分経過してからメールがきた。確認してみると、
<話したいこと? うん、いいけど>
 俺はすぐにメールを送った。
<じゃあ、夜飼い終わって用意できたらメールくれ>
 今度はすぐきた。
<わかったー。多分、9時までにはメール送れると思う>
<了解!>

 次の日、俺は母親と2人で親父の見舞いに10時頃病院に向かった。俺は朝6時に起きた。母親は5時半に起きて炊飯器のスイッチを押して朝食の準備に取りかかった。じいちゃんも6時頃起きて居間にあるソファに座り、リモコンでテレビの電源を入れた。ニュース番組を観るのは長年の習慣だ。ばあちゃんは7時に起きてきた。7時30分頃、テーブルを囲んで朝ご飯を食べた。卵焼きと味噌汁と漬物とライスが今朝のメニュー。

 ミニトマトも仕事だが、米を作る仕事がある。コンバインという稲の刈り取り、脱穀、選別の機能を兼ね備えた大型の農機具がある。これは毎年親父が乗って仕事をしていて、今年、俺に教えてくれる予定だった。じいちゃんはコンバインの操作はできない。俺は母に言った。
「コンバイン乗るの近所の農家の仲間に頼むかな。どう思う?」
 母は暗い表情をしている。
「お隣の明智さんの主人に頼むかい。あんまり気が進まないけどね」
 明智さんは見返りを求めてくる人なので、あまり関わりたくない。でも、親父がこうなった以上、頼むしかない。困った時はお互い様なのに。そんなこと言えないけれど。

                             つづく……

 


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