無職日記3 よなす求職す

司書講習を受けることを決めたのは「友達が出来るよ」とそそのかされたからで、しかし今のところ一言も声を発しないまま二か月の講習が残り二週間になった。講習会場にいるめちゃくちゃ見た目が好みの人との会話はもう一億通りくらいシミュレーションしたのでそろそろこれで一本小説が書ける。

一生働きたくはないが、失業保険を受け取るには求職活動をしたという実績が必要になるので映像制作の会社を受けた。何故か面接はとんとん拍子に進み、残すは適性検査と社長面接になった。なってしまった。

面接前に受けるように言われた適性検査を受けると、「理想の方が現実よりもあこがれる→あてはまる・あてはまらない」という言葉の定義を聞いてるのか?という質問に始まり「怪我をしても痛みを感じない」というサイコな質問を経て「自分が没頭できる仕事なら収入が保証されなくてもいい」というブラック臭のかぐわしい質問に辿り着いた。あほすぎたので半分でやめて、社長面接に行った。

聞かれるままに淡々と答えていたら「怒ることとかあります?」と聞かれ「ないです…かね…」と答えたら「でも世界とかには怒っていそうですよね」と言われて笑ってしまった。「世界には怒っています」と答えた。

「最後に何か質問はありますか?」と聞かれたので「適性検査の質問項目を見たことがありますか」と聞いたら社長はなかったらしく、僕はいくつかのおかしな質問を教えてあげた。社長は笑いながら「あーそれは、戦闘力を見ているんですよ。よなかさんは怪我をしたら痛いですか?」と聞いた。「そりゃ痛いですよ」と答えながら僕も笑った。外部に委託している適性検査の質問にそんな風にぺらっぺらの安っぽい説明をつけるところが、なかなかいいなと思った。

後日、制作職で受けていたはずが何故か映像プログラマ?として働かないかという連絡が来ていた。細かい説明も含めて相談したいので一度面談をとのことで、とりあえず話だけ聞くかと日程を決めた。普通に働きたくなかった。

面談当日。講習の昼休みに木陰のベンチで一人パンをかじりながら爪の色を可愛くしたいなとぼんやりと思った。東京は35度を超える猛暑日だったらしい。何故かわざわざ暑くむわんとする屋外で飯を食いながら、爪を可愛くしたくてたまらなくなった。それが今一番大切なことに思えた。職とか別に今は要らん。

「すみません、選考は辞退します」

シンプルなメッセージだけ送って、もうメッセージボックスは見なかった。

帰りにマニキュアを買って帰ろうと思った。百均のやつじゃなくて、発色が良くて塗りやすいちゃんとしたやつ。群青がいいな、と思った。