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1章-6 賑やかな町なかで・・

10:30  観光案内所  へ行って、明日の 「マルメ行き」 の時間などを尋ねバスでニュー ハフンの港に出かけて、乗船券を早々と買ってきた。この券もコペンハーゲン・カードで2割引となり、1人77クローネだった。

ニューハフンの「琥珀美術館」に寄ってみた。ポーランドと違って、質の良い琥珀がたくさんあった。幹彦はひとつ買えば?10数万かかってもカードがあるからいいよ、と言ってくれたが、20数年前に幹彦がソ連旅行の時に買ってくれた琥珀のネックレスを、ほとんど使っていないので、いらないと断った。後になって、記念に買っておけば、娘の土産になるかな、とも思えた。そうは思っても、高い買物となれば、税金の扱いが面倒だし、やっぱりいいや。幹彦は、旅に出るといつも以上にめちゃくちゃ優しくなり、全てを私に合わせて、私のしたいようにさせてくれて、申し訳ないくらいだ。

ストロイエという最も賑やかな商店街に出た。土曜日とあって、たいへんな人混みで並足で進もうとしても、体が触れあうほどで、のろのろ歩くしかない。何かの祭でもあるらしく、若者や学生たちが、ハイキング姿で頭に角をつけたかっこうをして、国旗を振り回したり、顔に国旗の模様を描き混んだりして、あちこちで奇声を上げている。歓声や楽隊の音も賑やかだ。

昼食のためにどこかに入ろうとしたが、適当な場が見つからず、座る場所もなさそうだ。「サンドイッチ店」に入り、紅茶ですませた。スープなどは置いていなかった。パンが大きすぎて、幹彦は食欲がなさそう、私より少ししか食べなかった。朝も少しだったのに、と私は心配でならない。

10歳くらいの女の子が近くの座席から、私のメガネストッパーのカラフルなビーズの鎖に目を留め、にっこりした。話題にしているらしく、母親を見たり私を振り返ったり・・デンマーク語がわからなくて残念。でもきっと、きれいね、とか言っていたのだ。

また人混みの中を戻りながら、時々店に入り込んだりした。ある琥珀店に 入った時、浅黒い肌の東洋人らしい男の人が、私の袖をひっぱって注意を 促した。その視線の先を見ると、幹彦の紺色の上着の肩から袖にかけて、唾が吐きかけられていた! 私はその人に礼を言って、いそいで拭き取ったがぞうっとしていた。人混みを歩いている間に、誰かが意図的にしたのだ。面と向かって罵倒されるより薄気味悪く、後味の悪さが尾を引く。東洋人への侮蔑、さげすみなのだろうか。何に対してなのだろう。

幹彦はずっと黙っていたし、私もひと言も発しなかったが、2人ともひどく傷つけられ、しばらく重苦しい気分に陥った。後になって、幹彦は「あんなことをされると、その国そのものが嫌になる」とぽつんと言った。私は人混みに紛れてこっそりやったことに、根深い悪意を感じて動揺していた。そんなことをする人の気持ちが掴めない。何か別の鬱憤を晴らしただけなのだろうか。たまたまその場に行き会わせた、運の悪さにすぎなかったのか?  忘れよう、忘れよう、と自分に言い聞かせる。

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