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●着物のことなど

このところ着物にこり出した孫娘に、男物の羽織か何かない?と聞かれて、桐箱に収めている夫の着物を取り出してみた。羽織はなく、半纏みたいだった。着物を着るのはお正月頃で、夏は浴衣だから、ゆかたに羽織は不要なのだ。

数着しかないのを取り出しているうちに、これは手放したくない、とふいに思った男物長襦袢が見つかった。裏付きの絹?らしいチャコールグレイというか、紺色に近い、微妙な色合いに、縦筋が入り、一部が欠けた円形の中にウメの花が5~7個、連なっている。亡き姑が縫ったもので、袖口の始末や、袖付け根の糸止めもきちんとしてある。この着物を活かして、私の七分丈コートか上着にしよう、と思いついて、取り置いた。結局、孫娘が欲しがった羽織は、虫喰い穴がいくつか見つかり、その手当てをしなければ使えず、諦めることになった。

やることいっぱいで、そんな余暇はないのに、作り直しを思いついたのは、先日、バスの中で私の目の前に立っていた女性が、地味な大島紬をゆったりとした上着に縫い直したらしいのを着ていて「ステキですね」と声をかけたことがあったのだ。その人はにっこりして「自分でぬいましたのよ。駅ビルの10階に、着物の教室があって、習いに行ってるうち、私もいっしょに教えるようになって・・」と教えてくれた。「月に2回、やってますけど、どうぞいらしてください」と言われた。たいていの女性がタンスに眠らせている着物を持っていて、ほとんど着ることもなく、買取りに出せば、何十万の品でも「100円引き取り」などにされるのだから、活用した方がいいですよねとその人はつけ加えた。その教室へ、私のこの長襦袢を見せに行ってみよう、と思い立った。

私も今までに12枚ほど、ある知人の方に作り直してもらい、半コートや、ロングスカートと上着、リバーシブルコート、ブラウスなどに変えて便利に使っているが、着物姿に戻る気持ちはもうない。着物を着るまでに、時間がかかってしまうし、バッグ、履き物にも気を遣う。だいたい、自転車に乗れないのが、私には一番の問題なのだ。次男を身ごもっていた27歳の頃、私は着物姿で高校勤務をしていたことがあるが、その頃は、5分間で着物を着られていたのに、いつしか着物と縁遠くなると、帯を締め上げるまでの時間がもったいない。

孫娘は先日の来宅のおり、15分で着物が着れた、と嬉しそうに言ってた。前夜に練習をしたのだそうだ。デニム生地の「ミシン縫いだね」と和裁のできる義姉が、見破った。亡き母のような手縫いをする人も、少なくなっているのだろう。それでも、着物姿は今でも町中で見かけるし、若い人も地味な柄を好んで着ているようだ。着物が好きな人が今もおいでになることが、嬉しい、やっぱり民族衣装は消えて欲しくないから。私はなんと矛盾したことばかり言ってることやら。

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