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3章-(5) 疑問・質問・困りごと

村の船旅から、やっと岸に上陸し、短い小旅行を終えて、バスで全員で、 大学へ戻った。

今夜から毎日、大学内にある最も古い〈城〉が、食事会場になる。これが 最上のもてなしだったのだろう。部屋は豪華絢爛。天井や壁に、優美な天使や聖女、花や小鳥が描かれ、シャンデリアや年月を思わせる、重々しい家具調度類、暖炉などが雰囲気を盛り上げてくれる。

ディナーそのものも豪華で、フランス料理が次々に運ばれてくる。    若いエリサ夫妻、アンナ夫妻と私たちの6人が同席で、ひとしきり道に迷った午前中の話で笑う。それぞれの国の気温のこと、白夜のこと、名前の話。
話題は尽きない。

アンナはアニィ、アニャとも呼ばれる。エリサの夫君は、トマス・ギルス ドルフで、ドイツ出身。語尾の〈ドルフ〉というのは、〈村〉という意味だそうだ。

コンコウ氏が日本人からEメールをよくもらうが〈中村〉〈山村〉〈木城〉のローマ字が読めない、というので、漢字で書いてみせ、ひと文字ずつの 意味を説明した。コンコウ氏は目を丸くして、言った。
「日本文字をマスターするには、100年かかりそうだ」と。

食事がすむと、夫は歩きたくて、ひと足先に帰って行き、私は外のベンチでバスを待った。

すると、ドラゴーヴィッチ、ボロヴィッチ、ウラジミーロフ氏の3人が、 私に色々質問をしかけてきた。仕事は? 何が専門? 子どもは? 大学で    何を講義?と。

それぞれお答えした。児童書の物語を書き続けていて、十数冊出版された。仕事は長く高校で英語を教えてきたが、今は短大で、イギリスの児童文学を扱っていると話すと、グリムやアンデルセンの名前と物語は、彼らもよく 知っていて、世界的に知られているのだと、あらためて思った。ロシアの 作家の作品は、英語版を見つけられなくて、まだ取り上げたことはない、と答えた。子どもは3人、上の2人は男女の双生児だと話すと、珍しがられて話がはずんだ。


その後、強く印象に残ったのは、バスを待っている間、すぐ近くの広い芝生の上で、中学生くらいの男の子たちが、サッカーボールを蹴り合って、楽しそうに遊んでいたこと。9:15分だった。日本ならこの時間、ほとんどの中学生が、塾か自室の机に向かっているはずの時間だったから。

昼間、ジュィィットと話をした時、スペインは貧しい国だから、1Gは80ペセタだと言ったのが、印象に残ったが、日本も1Gが63円なのだから、似たり寄ったりではないだろうか。

オランダはどうしてこんなに豊かな感じがするのだろう、と夫に問いかけたら、「オランダは昔、植民地が多くて豊かだったから、たとえ今は外地での土地は失ったとしても、その間に培った文化的知的財産と言うものは、侮れないものだ。それが文化を維持し支え、経済を生み出すことにもつながっているのでは・・」と言う答をくれた。

なるほど! でも、本当に何が経済の中心なのだろう? それに福祉の行き届いていること、国民が政府を信頼して、税金が高くても納得して、支払うことで国を支えている、そのシステムがしっかりしているからだろうか。

夫は口は元気だったが、やっぱりジンマシンが体のあちこちに現れていた。唇の腫れも少しひっこんだ程度で、まだ残っている。

夫の朝食には、日本から持参した〈ひみこがゆ(玄米・五穀などのおかゆ)〉を食べてもらっている。ビタミンCも毎朝飲みあっている。少しやつれが 目立つので、梅干しや海苔など日本から持ってきたものを、活用しているが、食事が口に合わないのは、ほんとに困ったものだ。病院で見てもらい ましょうよ、と何度も誘ったけれど、帰国したら人間ドックにかかるから、それまでは病院はやめとく一点張りで、これも困ったものだった。

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