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ツナギ2章(6)イカダだ!

夕日が沈む頃、ツナギたちは12個のカメに、フキやヨモギを満杯に詰めて戻って来た。食べられるヘビも棍棒で1匹捕まえてきて、ヤマジたちに喜ばれた。

岩場いっぱいに広げてあった魚などの品々は、里芋やハスの葉に乗せて、奥の岩屋にしまわれた。夜露とケモノと虫にやられないように。また明日干し直すように。

その日の皆の働きはすばらしいものだった。差しかけ小屋の長い斜面の外形は、かなり大きく仕上がっていた。焚き木置き場、水のカメ置き場、かまどなどを仕上げれば、立派な飯炊き場になる。

竹やぶの中には、便所の囲いもでき上がった。三方を低く囲っただけの簡単な作りだが、そこにあるとわかって、誰も落ちることはないだろう。いずれ今の穴を埋めて別の場所に穴を掘れば、囲いを移動することもできた。

2と3のカリヤたち親子4人は、犬のモロの助けもあって、なんとシカを 1頭、ウサギを2匹捕まえてきた。ナメシヤがすぐに皮をはいで、干し始めていた。

娘たちは木の実を、男の子たちは燃料集めをした。

宵明かりの中、洞の外といろり部屋に、皆座った。シゲは、壁際のムシロの中で、母親に粥をもらっている。

焼いた魚や蒸した里芋、肉入り雑炊の匂いが、洞の内外に充満していた。  じっちゃのひと声で、食事が始まった。とりたての魚のうまいこと!里芋のとろける甘さ。ツナギは雑炊をかっこむと、不安など吹っ飛んでしまった  気がした。

「酒がなー。せっかくできてたのに、流されちまってよー」

ヤマジのぼやきが聞こえた。すると、シオヤがじっちゃに向かって、もっと重大なことを言い出した。

「なんとか船を作って、塩を買いに行かないと・・。今日だけでも、相当 塩を使ったろう。冬まで持たせるには、大量にいる。歩いてでは、とても 多くは持ち帰れまい」

じっちゃはゆっくりうなずいた。ツナギはまた不安に取りつかれた。

魚やケモノの肉の保存にも、毎日の食事にも塩が必要なのに、洞の備蓄だけでは、どう見ても不足だ。まして、この人数なのだ。                                   誰より先に口を出したのはヤマジだった。                        「船を作る木は、山崩れの跡に、何本も埋まっているよ」

山崩れを受けて、家をつぶされたヤマジは、大木を目にしていたのだ。      ウオヤが続ける。                            「魚のハラワタは、塩をまぶせば、うまい魚びしお(味つけ用の汁)が取れるが、塩なしでは肥料にするしかない」

すると、若いカジヤも声を上げた。                 「船ができたら、オレも海辺の村へ行く。鉄の物を何でも欲しい。何もかも流されて、鉄の鎌は2本残ってるが、木を割るには、石斧が何本あっても、船作りには何ヶ月もかかるぞ」

今度は、モッコウヤが続けた。                   「木を割るには、人手もいる。まずカジヤが石斧を何本か作ってから、できるだけ大勢で手伝ってほしい」

道具から作るとしたら、船を作るなんて先の先の話じゃないか!     塩を手に入れるなんて、できないよ! ツナギはじれったくてたまらなく なった。カメ運びが終れば、自分たちも手伝うにしても、あの土に埋もれた木を掘り出してから船を作るとは、大変な作業だ!

大人たちもそれを実感したのか、皆いっしゅん黙りこんだ。

オサが女や子どもたちを見回しながら、別の話を始めた。            「2と3のカリヤ4人は、森での狩を続けてもらおう。食料集めと燃料集めが大事だが、これは女たちと子どもたちに頼みたい。雨にならないうちに、木枯らしや雪が来ないうちに、なるべく早くにやっておかねば・・」

そうだ、イカダだっ!ふいにひらめいて、ツナギは居ても立っても居られずオサの話に割りこんで、口を出した。興奮して言葉がもつれそうだった。

「船を作るのは、すごく時間がかかるでしょ! 出来上がるまでに、雪が降れば、塩が手に入らないことになる。今は大急ぎでイカダを作って、イカダで行った方がいいと思うけど・・船は冬の間に作ることにして・・」

ツナギの言葉が終らないうちに、ヤマジが半立ちになって、大声で言った。「そりゃあいい! それだ。ぜったいそれだ! 丸太を並べて、ツルで縛って頑丈なイカダを作ろう。それなら早いぞ」

オサもじっちゃまで大きくうなずいている。ツナギはサブに背を叩かれて、首をすくめた。胸がくすぐったくて、頭まで熱くなった。嬉しかった。

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