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7章-(1) 6/25 南部ダウンズ(草丘)と露池

● 9:00 ホテル出発。バスでイギリス南部サセックス州へ向かう。エリノア・ファージョンやローズマリー・サトクリフの作品に登場する地域だ。120㎞まで出せる自動車道路をひた走る。今日もフットパスを歩くことになる。

サセックスのワシントン村の人家は少なく、ひなびた場所でバスを降りる。

フットパスへ入ったばかりの所で、馬に襲われそうになる。緊張しながらも、大声は立てないよう自制して、急いで駈けぬけた。あとはゆるやかな山道を辿るのみ。空は青く、風は涼しく、陽射しは強い。丘の稜線がなだらかな心地よいカーブをえがいていて、絵の中に入ったよう。これぞエリノア・ファージョンの描く『マーティン・ピピンの物語』の「ダウンズ(イギリス東南部の丘陵地帯)」だった。

●『三匹のこぶた』の三匹目がオオカミを避けようとして、バター作りの樽に入って丘を下って逃げる場面が、この草丘を目にするまでは、納得がいかなかった。樽が転がっているうちに、木や切り株、灌木にぶつかって、樽は壊れるはず。丘の上から家まで一気に転がり落ちるなんて、とイメージを描けないでいたが、この地を見れば納得だった。一面、芝生を敷き詰めたような草丘の長い長い丘が、目の届く限り広がっているのだから。
昔はオークの深い森が広がっていたのが、イギリスがインドやオーストラリアなど世界各地へ広がって行くにつれ、オークは伐採され続けて、跡地が羊を飼うための草場となっていったのだ。

Yさんが「これならゴルフも簡単にできるね」と言ってた。

上り道だが急傾斜ではなく、息を切らすほどでもない。また歌が自然に流れ出し、皆声を合わせて元気づく。

● 頂上近くの標識のある所で、中年のイギリス人の一行と出会った。彼らは丘登りが趣味の中高年グループらしく、リュックと靴などきちんと装備していた。「こんにちは」「さよなら」を日本語で教えて、しばらく語り合う。毎月丘登りをしている、わりあい近くの人たちだった。

● 遠くにまばらな林が見えてきたあたりで、私は〈お花摘み〉に行きたくなり。OさんとYさんもつきあってくれた。すぐ近くの高台に登り、草陰ですますと、目の下に沼の様な池のような、小さな丸い水たまりがあった。なんとなく気になったが、何しろ一行のどん尻になるのは初めてのことだから、焦ってあとの2人と交代した。3人揃って皆を追いかけながら、あれは何かの名所じゃない?と口々に言い合った。

● 一行に追いついてみると、まばらな林というのが『チャンクトンベリー・リング』で、木々が丸く生えていて、他には何もなかった。

「この近くに『露池』があるはずだが・・」と添乗員の吉松さんが探し回る姿に、やっぱりあれよ、と私たち3人は顔見あわせた。女性陣にはこっそり打明けて、くすくす笑いしつつ、道を引き返して先導した。先程の池のところで写真を撮り合った。私たち3人には、少々居心地の悪いひとときだった。

露池 全景


● 帰り道、近道するつもりが大回りになり、フットパスへの出口がわからなくなった。とうとう柵を乗り越えることになった。スカートの人もお上品な人も、文句を言える場合ではなかった。馬たちは隙あらば駆けて来ようとしているようで、とにかく村の道へ出たときはほっとした。

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