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片っぽなくした! 

夕食の準備をほとんど終わりかけて、最後に野菜炒めを作っていたら、義姉が台所に立ってきた。夕食は私の当番なのだが、最後に 2人のご飯をよそる頃には、茶の間から出て来て、手伝ってくれるのだ。その時、ふっとつぶやくみたいに、姉が言った
「補聴器を片っぽ、なくしてしまった。すごく探したんだけど、見つからなかった」
「えっ、お姉さん、あれ、60万もした補聴器でしょ? 私が探してくるわ」
と、菜箸を置いて、外へ向かおうとしたら、姉は止めた。
「むりよ、今日は草取りをして、土の付いた草の山を、いっぱい捨てたり したから、まぎれ込んだらしく、見つからないよ」
「でも、探してみる。フライパンの炒め物、あと、ちょっとだから、そっちはお願い!」

言うなり、私は外へ飛び出した。台所の扉の外から、石畳づたいに、まんべんなく見わたしながら、姉に見せてもらった、残りの片方の補聴器と同じ形のものを探す。残っている方は、赤色の印のものがついていて、落したのは青色のがついているのだって。片方で30万だよ。探さないわけにはいかないよ、と私が言った時、姉は言った。

「買い直すとしたら、片方買うわけにはいかないから、ふたつ買うことになる」と。また大散財になるんだ。

私は庭の草を掘り返した後を伝って、ぐるぐると探し歩いた。やっぱり無理かな、見つかりそうもないよ、あの小ささでは、と思いながらも、とにかく家のまわりを一周してみようと、私のへやの外側から、玄関の方へまわる 木戸の処まで来た。木戸を開ける前に、木戸の四角い格子の隙間から外を のぞいた時、そこにも石畳が続いているのだが、その石の上に、青い色の ついた濃いグレーのものが転がっていた。

あったー!とわめきたいのを、隣家に丸聞こえだから我慢して、拾って台所側へかけこんでから「あったよー」と、ほんとに大声でわめいた。

姉の喜んだこと! 私もお役に立てて、ほんとに嬉しく得意だった。
「どこにあったの?」
「玄関に近い木戸の外側よ」
「あんなとこ、見なかったわ」

「畑や草取りは、補聴器ははずしてやって」なんて、生意気言っておいた。
「今日はテレビを見ていて、そのまま忘れて、庭に出てしまった。いつもははずしてるんだけどね」
と言った後で、
「今度買うとしたら、うんと安いのにするわ」と姉。
「そうよ、そうよ」
と、2人で笑い合って、やれやれと夕食のテーブルについたのだった。


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