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ツナギ2章(7)塩・鉄の交換品

カジヤもイカダ作りに賛成の声を上げた。              「イカダで海辺の町へ行って、鉄斧を手に入れたら、冬に船を作るのも楽になるぞ」

ヤマジが半立ちのまま、叫ぶように言った。             「明日から始めよう。がっちり部隊でやろう。やさ男は里芋掘りや小屋作りを続けてくれ」

ヤマジの言葉に、皆がどっと笑った。というのも、村男の半分あまりが、背は低くがっちり系で、5のシオヤ、4のオリヤ、9のウオヤたちは、やせて背が高く、顔立ちも細面だ。先祖は大陸から来たのだとか。

ツナギは、がっちり組のじっちゃの血筋と、大陸系の母親のせいで、混じりだった。

オサはがっちりだが、妻の方が大陸系で、ゲンとサブは母親似のせいか、 ゲンは父親より、サブはツナギよりも背が高い。村には混ざり合っている者も半分ほど目につく。

「わしはがっちり組だが、カゴ作りくらいですまんな」         とじっちゃが言うと、またどっと笑いになった。なんのなんの、親父さんは洞にいるだけで、宝だ、と叫ぶ者もいて、拍手になった。ツナギはまた胸がほっこりした。

じっちゃは子どもたちを見回しながら言った。            「今日は皆で働いてうまい物も食えて、よかったな。これからは、雨や雪で森へ出られん日もある。それでも工夫して、楽しいことを見つけろ。思いついたら、ツナギみたいに、口に出して言ってみろ。皆でほめてやるぞ」

大人たちが拍手して賛成した。じっちゃは続けた。          「この洞穴の一番奥は低くて、わしは一度入ってみたが、大人には入りにくい。そこに3の池と呼んでいる深い池があって、周りに物を置けるのだが、背の低い子しか入れん。大岩の目印より奥になるが、2の池の水が足りなくなれば、奥に入るのを許そう。3の池を使うしかないからな。子どもたち、その池から水を汲んだり、やってくれるか?」

子どもたちは顔を輝かせて、うんうんうなずいた。ジンまでもいっしょに うなずいている。じっちゃは続けた。                「大事にしてた物を失くした者も、多かろう。つらいよな。この洞では足りないものばかりで、我慢するしかないが、でも、生きていかねば。    わしらには、まだ森や山や川がある。先祖たちも色々困ったことがあっても、何とかやってきた。森や岩場で、大きめの石を見つけたら、拾っておけ。堅い物をつぶせる。いろりの火で少し温めれば、寒い夜には眠る時に抱いて眠れるぞ」

と、両手で子どもの頭ほどの大きさを作ってみせた。それから、じっちゃはカリヤたち4人に、イカダを組むために、ツルや麻を大量に集めてくれるように頼んだ。

「塩や鉄を買うには、交換品を相当持って行かねば。イカダが出来上がるまでに、 急いで準備せんとな。シカの皮は3枚になったが、他の品もいる」

「親父さんの竹カゴは絶品ですよ。魚籠 (びく) もいいし」        という声に、また拍手が起こった。じっちゃは苦笑いしながら言った。

「今年は日当たりがいいから、どんぐりやトチの実が多い。これも貴重な 交換品になるから、子どもたち、頼むぞ」

すると、壁際からヤマジのババサがしわがれ声で続けた。       「薬草も海辺の連中が、欲しがる貴重品だ。ヨモギや、白いキクの花、ネムノキの木の皮、ミコシグサとか、何でも採ってきておくれ。乾かして持ってってもらおう」


その夜、サブが寝床の中で、ツナギにつぶやいた。          「ここに住むの、いつまで続くのかな。元の村に戻れるのかなあ」

ツナギは答えられず、考えこんだ。もう一度村を建て直せる日が来るとは、とても思えなかった。塩水の湿地が乾くまでに、長い年数がかかるという。他の地に移るか、高台に移るしかないのでは・・。この洞穴に、大人数で どれほど住み続けられるのか。不安がまた心に広がった。

6代前のドンじいの時には、8年後に海の方から5家族がやってきて、洞に避難して後、今の野毛村ができたそうだ。そんなに時がかかったのだ。  

ということは、今11歳のサブと12のオレは、ここで嫁さんをもらうってこと? とたんに、ツナギは吹き出しそうになって、ククククと体を震わせて笑った。

「何がおかしいんだよ」 とサブがとがめるように言った。       

「オレら、ここで嫁をもらうことになるかもね」

とたんに、サブまで身をくねらせて笑った。そうなのだ。14や15になれば、たいていの男は嫁さんをもらう!そして娘は12になれば、嫁候補なのだから。

2人でしばらく笑い合った。それから、相手となるだれかれを、それぞれに思い描いていた。ツナギはジンの妹のキクを思い出す。あの子は、9歳だった、見るたび見とれてたほど、かわいかった・・海にもっていかれてしまったのだろうか・・、胸がきゅーんと痛んだ。もう笑う気になれず、気が沈んでしまった。

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