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ツナギ3章(2)別の仕事って!

イカダを見送って、洞へと帰りかけた皆に、じっちゃとオサが呼び止めた。皆が2人のまわりに集まると、オサがまず口を切った。

「ひとまず送り出せたな。皆よくやってくれた、疲れたろう。今日だけは休める者は休むことにしよう。後は首尾よい帰りを祈るほかないが、わしらには山ほど仕事がある。

2のカリヤとトナリは、オババたちが寝込んでいて大変だが、明日からは狩の獲物と船用の木を頼むぞ。4のオリヤとモッコヤも、いっしょに木を集めてくれ。わしも手伝うが、ウオヤも頼むぞ。女子どもは、これまで通りを続けてほしい」

そこまで言うと、オサはじっちゃに話をゆずった。

「わしは明日、山の北側の八木村へ行く。米や食料と布をできるだけ手に入れて来たい。ツナギにサブ、2のオリヤのシゲとジン、いっしょに行って くれるか?」

「行きますっ、行きますっ!」

ツナギとサブは跳び上がって叫んだ。そうか、これが別の仕事か!

八木村は3年ぶりだ!亡き父の妹のタヨ叔母と従兄姉たちに会える!それにじっちゃの遠い親戚もいて、歓迎してくれるはず・・。笑顔にならずにいられないほどわくわくした。

すると、4のオリヤの9歳の娘が口を出した。

「ジンはいつも水汲みの先頭だけど、いなくなるの?」

じっちゃが、おっと声を上げ、口ごもって、考えこんだ。

以前じっちゃに水汲みを頼まれた、9歳から6歳までの7人は、2の池の水が減ったので、最近は洞の1番奥の3の池から、水を汲み出す手伝いを続けていた。

そこはじっちゃが禁じた、大岩の印を越えた奥にあるのだが、やむを得ず 子どもたちに許した。ただし、何にも触れず、まっすぐに歩くよう命じた。

ジンは11歳だが小柄なので、低い天井の下を身をかがめて進み、池から 直接小さなカメに水を汲むという、最も危険な仕事を引き受けていた。

そのカメを高い岩天井の下で待つ、年下の子に渡すと、次の子に順に渡していき、最後は9歳の2のカリヤ息子が、外の炊事場のカメに水を移す。

水汲みがすめば、連れ立って森でどんぐり拾いをした。そんな時、揺れが来ると、皆がジンにしがみつくほど、ジンは慕われ頼りにされていたのだ。

「そうだったな。はて、どうしたものか」

すると、4のオリヤの息子が手を上げた。

「オレ、ツナギと同じ12歳だから、行ってもいいでしょ」

「行ってくれるか。ありがたい!ではそうしよう。ただし、山登りはきついぞ。荷は背負うし、米が手に入れば、帰りはぐんと重くなる」

じっちゃは脅したが、ツナギを初め、皆嬉しそうにそわそわして、笑いっぱなしだった。

暗くなるまでに、すべての荷物が整えられた。八木村は海から遠いので、海の魚を干したものが、珍重される。竹林もないので、竹カゴも喜ばれる。それで背負いカゴは3重に重ねるように作ってあった。

ツナギが差しかけ小屋の片隅で、水を竹筒に詰めていると、おばさんたちの声がかまどの方から聞こえた。

「海行きの5人分の弁当を3日分やっと作った後に、また5人分だよ。ドングリ粉が足りるかねえ」                      「これじゃ冬は越せないねえ。この大人数だもの」              「だから、手に入れるため、出かけるんだろ」            「行っても無理じゃないかい。どこも大揺れしたろうし、海辺はもっとひどい大波を受けてるよ」                       「分けてもらえるどころじゃないよね」

ツナギはガツンとくらった気がした。そこまで考えていなかった。行けば、何か手に入ると思ってた。揺れはどこもかしこも襲ったのだ。行って見て 来るしかないんだ。

ジンの母親は、墓参りで疲れた様子で戻っていた。ジンはその母親と残る ことになった。ジンの代わりの4のオリヤの息子と、シゲが八木村行きと決まった。

シゲの包帯は取れていたが、右腕は元通りには使えないらしく、焚き木拾いは左腕で集め、他の者に束にしてもらい、背に縛ってもらっていた。重い 荷物も軽々運ぶ力持ちだから、じっちゃはそれを見込んだのだろう。

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