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 彼の暇つぶし電話 4

色気のある声聞きたくなって・・という電話がかかってきて、一瞬、間違い電話ではと思った。私、声ひどくなってるもの。暇つぶしのT君だった。 5日前にかけてきたばかりなのに、と驚くと、明日 明後日も土日で、朝8時半から夜9時半までの、しんどい仕事が入ってるよ、だって。

Y君が昨日亡くなってね、と急に言い出した。前日に彼がY君にTELした時、奥さんが出たので「Y君、元気ですか?」と訊くと「ええ」と答え、「病院に行ってます」と言われて、いつもの通院だと思い、「じゃ、また」と、すぐにTELを切った。今日、以前3人で私を訪ねて来たうちのひとりのI君から連絡があり、Yの死去を知らさえw、T君はよほどショックを受け、私に話さずにはいられなかったらしい。前日TELした時「入院ですか?最近の状態は?」とか訊けばよかった、と後悔のつぶやきが聞こえた。

Y君は何年か前、胃と十二指腸を手術で取った話を、Tは聞いていたので、頑張って82歳 まで生きてきたんだなあ、と感慨深い口ぶりになった。Y君はとても頭のいい人だったのに、「酒飲み6人の会」の1人で、11月の会の時、何年も通っている会場の飲み屋に辿り着けず、2時間さまよった末に、交番の助けで、息子に迎えに来てもらったのだとか。Y君としては、最後の頑張りも効かなくなってきていたのだ。

「最近ではこれで2人目だな。W君の場合は、悲惨だった。カメラ好きで 全国を回り、野菜作りが好きで畑もよくやっていたのに、奥さんが24時間酸素吸入を必要とする病となり、傍で介護と見守りで数年過し、妻を見送った後、独居老人になってしまった。家でゴロゴロするうち、体重が100キロ越えの異常増加のため、入退院をくり返していたんだ」

ある日、一人で亡くなっているのを、不仲で追い出した娘が見つけたのか、別暮らしの息子が見つけたのか、ともかく身内だけの葬儀をすませた。彼らは父親がどんな友人を持ち、どんな団体や会合に関わっていたか、何も知らず、私たち同期の1人が、たまたま彼の身を案じてTELした時に、たまたま後始末に来ていた娘とつながり、同期の私たちに伝わったのだ。それはW君が亡くなって、3ヶ月後のことだったそうだ。それで、何もしてあげられないままになった、とT君は無念そうだった。

私はW君とはTELで何度も30分近い話をしていたので、最初に知らされた時、痛恨の思いで娘さんにTELしてみたが、何度かけてもつながらず、墓がどこにあるかも知らないままになっている。

気になって、T君に「あなたの体調はどうなの?」と訊いてみた。
「見た目は元気そうだから、小中校の警備員の仕事がよく入るよ。去年の 11月の検診で、高血圧と言われ、薬もらうことになって飲んでる。前立腺も危ないと言われた。男が5人集まると、4人は前立腺の話が出て、手術したやつもいるよ」
「気をつけてよ。前立腺は気づかない人多くて、夫はステージ4の余命3ヶ月の時に見つかって、転移が多くて手術はできず、でも4年近く保って・・だったんだから」

などと、今日は年に相応しい話題が続いたが、9時20分すぎ、彼にTELが入り、最後まで職員室に残っていた小学校教員が、帰るので門を閉めて欲しいと言われたのだと。

「あの先生、これから1時間半かけて自宅へ戻るんだよ。朝8時から来て  いて、この時間だから、学校の先生はそりゃあ大変だよ」

2人でその先生の大変さを思いやりながら、電話を閉じたのだった。



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