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3章-(1) 麻薬店と運河清掃船

運河沿いを歩いて〈デ・ヤーレン〉というカフェに入った。
ハトルの話では、アムスでは〈コーヒーショップ〉と看板の出ている処      へは、入らないこと。〈レストラン・コーヒーショップ〉もだめ。そこでは〈ドラッグ〉が売られている、という合図の看板なのだそうだ。ときどき  警察が抜き打ち検査に押しかけている。〈カフェ〉ならOKだそう。

カフェの外の川に張り出したテラスの席で、カプチーノ(イタリア風コーヒー)の温かくクリームの浮いたものを頂く。ウイルはビール。川風が快い。

ツバメの話が面白かった。オランダでは〈春告げ鳥〉だという。日本では「一燕夏を知る」と言う言葉があるように、夏鳥で巣を作り子育てをする。swallow というのは、あんなに大きな口を開けて、何でも丸呑みするから じゃないかしら、と私が言うと、エリサがメキシコでは、11月から春まで滞在する冬鳥で、大きく育ってから訪れるので、めったに子育てはしない、と言ったのだ。燕だけでも、国によって、季語は違ってくるのだ。

また町へ出た。運河の橋の上から、変わった船を見かけた。汚れた自転車や ゆがんだポールを満載したトレーラーボートを、2人の男性が操縦して、橋の下を直角に曲がろうと、四苦八苦しているところだった。川の中に落してしまったり、捨てられた自転車や、酔っ払った勢いで、引っこ抜いたポールなどが川底に積もるのを、週に一度こうして浚って、遊覧船の運航をスムーズにさせているのだ。

狭い運河の曲がり角を、長くつながった2隻の船が、うまく曲がり終える までを見つめていた私は、終った時思わず拍手をした。すると見物人みんなが大きく拍手をし、2人の老若の男性船員は得意そうに手を挙げて応えた。

未婚の老婦人達の老後の住まいとなっている静かな一郭を見た。最初は引退した尼僧のための施設だったのが、一般女性にも枠が広げられたとか。狭い庭も小ぎれいに花園にしてあった。観光の人たちで賑わいすぎて、迷惑がられることもあるそうだ。

さらに歩き回って1:30 OIBIBIO で昼食。パンと野菜サラダだけだった。

ダイアモンドショップの前にある桟橋から、船に乗った。70代以上に見える老婦人が、たくさん乗っていた。ウィルの話によると、月に一度、70歳以上の老人は、どんな交通機関に乗ってもすべて無料という日があり、この日がちょうどその日だったのかも、とのこと。彼女の母上もこの日に11人の子どもたちの家を、順に訪ねることにしているそうだ。

船内はテーブルを囲んで座る形になっていて、テーブルごとに花瓶に花が 飾られ、感じよくしつらえてある。若い男性ガイドが、左右の建物などに ついて、オランダ語と英語で交互に説明している。私は夫と一緒に、一度 聞いていたせいか、気がゆるみ、歩き疲れもあって、眠ってしまった。

降りるとき、ウイルが2Gのチップを渡しているのが見えた。チップを上げるのを見たのは、この時が初めてだった。

船を下りると4時。美術館は4時半閉館で諦めることにし、駅近くの裏通りの花マーケットを見て歩き、土産を買ったりした。私は〈ミニオランダ靴〉のマグネットを2つ買った。
このマーケットで、仲よさそうな50代の日本人夫妻が、私の隣で物色中 だったので、ハトルに聞いたばかりの〈コーヒーショップ〉の看板の店に 入らないよう、と伝えてあげると、喜ばれた。私って、お節介ね。

夕方7時頃、夕食のため、〈キャプテン・クック〉へ。ボリュームたっぷりだった。私はマスの姿バター焼き、温野菜付き。サラダ。フライドポテト・ティーが食べきれないほど。皆がデザートをどっさり頼むので、私は軽い物を、と「フルーツとアイスクリームを」と頼んだら、大皿に6種類の果物(イチゴ・メロン・キウイ・ブドウ・パイナップル・マンゴー)がどっさり。それに3種のアイスが盛り合わせてあって、見ただけで、私はおなかがパンパン。
「ミコは果物だけでよかったのね」
と、ハトルは言いながら、私がほとんどを食べ残したアイスを向こう側から突き崩して味見していた。


  (画像は、蘭紗理かざり作)

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