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#10 「要件」を整理する / JINENコトハジメ

・ Podcast「JINENコトハジメ」の文字起こしを中心としたpostです
・【文字起こし】の部分は無料でお読みいただけます
・【解説】【参考文献】の追記後は、その部分は有料公開にする予定です

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【Podcast #10】

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【文字起こし #10】

山田:
皆さんこんにちは。JINENコトハジメのPodcast、第10回を始めたいと思います。このPodcastは、「自然経営って何?」っていうのを、自然経営研究会の発起人の1人である私山田の立場から語っていこうというシリーズです。
今日の聞き役は、前回に引き続き松井さんにお願いしています。よろしくお願いします。

松井:
お願いします。

松井 健太郎(まついけんたろう)

フリーランスで複数企業の業務に従事。
領域は人事や事業開発など。
東大工学部卒業後、3社にて勤務を経て独立。個人事業主・法人成りなど、自らの実践も通じつつ様々な働き方を研究。

2017年に社員シェアリングサービス「Tonashiba」の立ち上げ・運営を行い、そこから派生し「越境学研究会」の立ち上げも行い、組織と個人の新しい関係性を追求している。
自然経営研究会には立ち上げから携わった後「いち参加者」の満喫を経て、2020年7月から17人いる代表理事の1人に。

山田:
お願いします。
今日から3回はテーマとして、自然経営を「実践する方法」について扱いたいと思っています。その一つ目が「要件を整理する」ということ。要件ってインフラと言い換えてもいいかもしれないですが、組織の基本の土台、枠組みを作ろうということです。その中に3つあって、「情報の透明性」と「力の流動性」と「境界の開放性」、この3つを扱っていきたいと思います。

この3つの話、武井さんや僕がよく昔から言っているので、松井さんはある程度知ってるなと思いますが、自然経営という言葉をつけた当初ぐらいから本当に大事だなって言い始めていて、変わらず大事だと思います。

簡単に先に説明をした上でまた松井さんと話をしたいなと思います。

1つ目の「情報の透明性」。私の捉え方でいくと、自然経営を実践するって何かっていうと、一人一人の関わってる人がそれぞれ自律的とか主体的に判断をしていくと、結果的に組織全体にとって良い方向に進んでるよ、という運営がされていることだと思っています。
だとすると、可能な限り、ある種の「部分」である1人の「人」、と組織「全体」の情報量が一致してればしてるほど、その人が良いと思うことと、全体にとって良いことが一致しやすくなる。なのでなるべく情報をお互い知ってたほうが良いよねってことだと思っています。

目指す方向はすっごいシンプルで、いかに全体の情報を一人一人がより多く受け取れるかっていうことを徹底するということだと思っています。

もちろん、とはいえ人は限定的にしか情報に触れられないし、その中で一人一人が合理性を発揮しようとする。あと、人には感情とか信念とかバイアスとか思い込みとかこだわりとかいろいろあるので、必ずしも「良い」が一致するとは限らないけれども、組織の要件、インフラを考えると、情報の透明性をなるべく高めるっていうことは大事だなと思います。

2つ目、「力の流動性」っていうことは、言い換えると、組織の設計の仕方として、権限とか権力とかはどれだけ固定化しないかっていうことがすごく大事と思っています。

もちろんどれだけそれを固定しないようにしても、人の持ってる影響力みたいなものはそれぞれ変わらないというのが前提になります。
影響力っていうのも、切り口いろいろあって、例えばそれが何らかの場面の専門能力とか専門性かもしれないし、論理的に課題解決の道筋が立てられることかもしれないし、とにかく前に進められる実行力が超あるということかもしれない。あとは単純にこの人いい人だなあとか、この人好きだなっていう人間的な魅力かもしれないし、場合によっては年長者であるか、年上であるからとか、逆に一番年下だからっていう影響力が発揮されることもあるじゃないですか。ここが一番若い人の意見だったかとか、場面場面で影響力の源みたいなものがいろいろあるんだと思います。

ただ、今挙げたようなどれであっても、絶対にどの場面でも影響力の効果を発揮するみたいなことって、冷静に現実を見るとあんまりない気がする。そのときどきに合わせて、そのときに一番発揮された方が良い影響力がうまく使われるっていうことがすごく大事なんだなと思っています。

これって一般にある会社組織とかだと、あんまり馴染まない考え方で、その役割の人、社長が言って決めたとか、最後社長の意向に沿うかみたいなことに組織の力学としてなりやすいので、そことはちょっと違った捉え方かなと思います。

あと、人間は環境に馴染む生き物なので、その組織で「社長の言うことを聞かないと」「誰々さんの言うことを聞かないと」っていう習慣が一回付いちゃうと、結構それをアンラーニングするって大変だなと思っている。それをいかに固定化しないかっていうことは、最初から徹底していることが自然経営の実践、インフラを整理する上では大事だなと思っています。

最後3つ目、境界の開放性。これは「組織は現象である」って言ってることにすごく通じているんですけど、組織の境界線が曖昧というか無い、という状態でやるっていうことは自然経営を実践する上では大事だと思っています。

いろいろ捉え方はある中で、一番シンプルだなと思うのは、組織の開放性がない、言い換えれば閉鎖的な状態だとすると、一人一人が熱量に委ねて、やりたいことを好きにやることを奨励することが難しくなっていく。
なぜかというと、「やるべきこと」「やりたいこと」が先にあって、「やれる人」が固定されて決まってるんだとすると、誰もやりたくないけどやんなきゃいけないことって発生しやすくなる。そうなった瞬間に「やるべき」「やらなきゃ」になってしまって本人の熱量から活動が進まなくなる。

このときに境界が開放的になっていることで、今いないけど、これやりたい人っていないかな?っていうことをすごく自然に振る舞えるっていうことが、自然経営の実践の上では大事だと思っています。

具体的にどうやるの?っていうと、やることは結構シンプル。日々その中の活動でやってることをなるべく外に見えるように垂れ流す。「こんなことできる人いないですか?」ってとりあえず呼び掛けてみるとかは、そういうこととか、あと境界が開放的になるということは入りやすくするも必要なので、オンボーディングのプロセスみたいなことだったりとか、入ってきたときに案内人みたいな感じでちょっと促してくれるとか。
やれることは結構積み重ねると一杯あるなと思うんですけど、出るも入るもすごくしやすくしておくのがすごく大事だなと思っています。

一方で前回の会で話してましたけど、どうしても境界線できる力学が働きやすいじゃないですか。意図せず、壁を作りたいわけじゃないんだけど、コンテキストの共有が増えれば増えるほど、中のチームがどんどん良くなっていくと、そこに情報量も関係も蓄積されていく。
そこの良さを図りつつ、無自覚でやってしまうとその壁が厚くなってしまうので、いかに境界を開放的にしていくかっていうことを意識し続けていくっていうことは大事かなと思っています。

大きく言うとこの「情報の透明性」と「力と流動性」と「境界の開放性」っていう組織の要件を意識しながらどう作っていくかっていうことをやっていくと自然経営は実践しやすくなっているかなと思っています。

松井:
ありがとうございます。
最初に感想から入っちゃうんですけど、「情報の透明性」って言ったときに、確か武井さんが3つ思いついたんだって言って、あるとき、図に書いて持ってきたのをすごく鮮明に覚えているんですけど(笑)
そのときにもう1個のエピソードとして、「情報の透明性」を徹底するときの1丁目1番地にあるのって社長の給料だよねって言ってたのが結構生々しい記憶としてはある。

透明にするって、通常の力学で言ったときに、いわゆるヒエラルキーの下の人たちは全部オープンにしなさいよ、上の人はオープンクローズを選べるよみたいなことって、割となりがち。確か自然経営の実践支援のコンサルの中で、社長の給与をオープンにしてねって言って最後を手放せなかった、みたいなのもすごい鮮明に覚えている。
改めて、山田さんが今だったらこう捉えるみたいなところってあったりしますか?

山田:
そうですね、確かに言い始めた当時は、特に給与の情報が一番ブラックボックスになりやすいし、そこを開けることによっていろいろ起こるのもわかっているので、そこが1丁目1番地でもあり、最後のラスボスでもあるみたいにやっていたなと思います。
そこの大切さは変わらないなと思うのは、持ってる情報が非対称だと、「最後は社長しか決められないじゃないですか」っていう、さっきの力の権限とか権力の固定化に繋がっていくので、それをなくす上でも、いかに同じ情報を持って判断できるかっていうことが大事だと思っています。

一方で、当時よりもちょっと、僕も、武井さんは多分ですが、態度が軟化しているのは、いきなりそれ開けることがそれまでの組織の培った歴史からして一番良いとは限らないじゃないですか。

よくベンチャーとかだと前職の給与に引っ張られて現状の給与が決まってる場合とか、部下の方が上司より給料の高いとかあったりするとか、そういう歴史がある中で「いいから全部公開だ!」ってやって、全てがハッピーになるかというと、そうではない可能性もある。目指す方向性を持っておきつつ、必要な段階を見てやるっていうことかなと、今は思っています。

松井:
なるほど、ありがとうございます。
もう一個、情報の透明性っていったときの観点として、オープンになるってことはそれだけ流通する情報の総量が増えるっていう話になると思っています。
情報って受け手がいて、受け手がこの多くなった情報を扱いきれなかったりとか、「それはここにあるでしょ」みたいなのを「ほら解放してるじゃん」って言われても「いやそんなん見てないし」みたいなことってすごく起きる気がする。
そういう意味では、自然経営の実践において、そこの会社だったりとか組織における一人一人の構成員の人たちの情報の扱いのリテラシーというか、どういうのを持っていたり整えたりすると、透明性ってうまく活用できるんですかね?

山田:
そこが本当難しいなと思っていて、「情報の透明性だ!」って言って、全部が見えることイコール透明性では全くないじゃないですか。
処理できる要領もあるし、受け取れるリテラシーもあるので、常にそこにいるメンバーとか流れる情報の量とかによって、どうすれば良い透明性が高まるかっていうことは意識して変え続けていかなきゃいけないと思います。

一つ、どこかのタイミングでやっぱり情報を編集する機能、加工して受け取りやすく流してあげるっていう機能が、やっぱりどこかで発生してくるんだなと思うので、そういう中で情報を受け取りやすくしてあげるということは大事かなと思っています。

イメージとしては「流れと形」っていう本があるんですけど。ハブ&スポークっていう飛行機の仕組みで主要な空港同士をつないで、主要な空港からローカルに飛行機を飛ばすっていうやり方とか。植物の葉っぱの葉脈とかが、大きなのがあって、だんだん細かくなっていくみたいなのとか。それと一緒で、大きなインフラを作るのは、どこかのタイミングで意図して設計することになるんだろうなと思います。
自然経営っぽくいえば、そういうことが必要だと言い始めてやり始める人がどっかで出てくるとか。そういうことが、結果とても必要だなという気はします。

松井:
感覚的に、自然経営っぽい経営をしてる会社があるとしたら、情報のキュレーションというか、キュレーターみたいな人がいて、こういうふうに上手くまとめたり、こういうのを流通させるといいなみたいな、気配り気遣いというか。
ここに変なバイアスが掛かって恣意的だと全然駄目な方向に行くんですけど、そこにちゃんと透明にする、良くも悪くも正確な情報をわかりやすくみんなに届けようみたいな意識付けをすごくできる人がいるとかが、すごい肝になってくるなと聞いてて思いました。

山田:
すごくそうだと思いますし、今言われてた中で「気配り」みたいなレベルで、適切というか、適任者がいるんだなという気がします。ロジカルに大事な要点をつかめることも大事だし、「気配り」みたいなレベルで、「どうすればみんなが気持ち良く受け取れるか?」を考えることはとても大事なんだなと今聞いてて思いました。

松井:
そうですね。
あと力の開放性って今の3つの中で一番捉えづらい概念なという気はしていて。ここに対する、今んところの効果的な解というか、ここをうまくワークさせる上で、やった方が良さそうなこととか。ちょっと幼稚な質問になっちゃうんですけど、山田さんの中でどう捉えてらっしゃいますか?

山田:
「力」の話?「情報の透明性」と「力の流動性」と「境界の開放性」の3つだと、流動性の話ですかね?

松井:
逆だごめんなさい、力の流動性の話です。

山田:
万能の解は全然ないです、という上で、株式会社でいくと、武井さんは当時ダイヤモンドメディアで役員を選挙で決めてましたよねとか、自然経営研究会も一応法的に代表理事がいるので、それを2人だったのを8人にしてみて17人になりました、とかもそうだと思う。
その時々で、それが変わり続けるものにしておくのは大事だと思っています。

一方で、とはいえ代表者、社長とか代表理事とかじゃなくなったからといって、立ち上げた人の影響力がゼロになるわけではないので、そこは結構難しいチャレンジだとも思います。

ちょっと突っ込んで話すと、西洋的に組織を作るときって、ソースっていう言い出しっぺが1人いて、その人が一番パーパスを聞けて、その人の言うことに耳を傾ける。これが「1人」いるっていうことになってる。けど東洋的に、組織を現象として捉えるとか、河合隼雄さんの言うような中空均衡構造みたいなことで言ったときに、言い出しっぺであるソースっていう存在が「1人」じゃなく「たくさん」いて、その真ん中あたりにあるような状態の方が、東洋的な組織作りに向けてるんじゃないかと思っています。
それをどうやって共同所有というか、共有して担っているみたいな状態にできるかっていうのが、あるんじゃないかなと個人的には思っています。

松井:
ありがとうございます。
最後の問いなんですけど、開放性って言ったときの、入ってくるっていうのって比較的いい話というか、扱いやすいんですけど、出るとか、正しく出す「代謝」みたいなところって、人の感情としても難しい。企業とか組織で言ったときって、その人が社員じゃなくなるというと「その人の生活が」とか、いわゆるその会社とか組織がやりたいことを運営する上でのノイズ要素、ノイズって言い方がいいかわからないけど、要素いっぱいあるじゃないですか。
ここって多分すごく難しいところだと思ってますが、そこに対する、今のところの暫定解というか見解ってどんなふうに捉えてますか?

山田:
暫定解は結構明確に持っていて、1社、1つの組織で完結しないっていうことに尽きるんだなと思っています。これはTonashibaというサービスを立ち上げのときの思想にもすごく通じるし、嘉村賢州さんがちょっと前からよく言っているのは、ティール組織も1社がやるんじゃなくて、会社群、生態系としてできていくことがすごく自然な発展の仕方としてあるんじゃないかと言っています。
感覚的にはすごい近い気がしていて、出るんじゃなくて、半分出るみたいなこととか。片手だけ違うところに入るみたいなことがもっと自然にできるのが良い状態の気がしています。

松井:
なるほどっすね。そうすると自然経営ってやっぱそこ1社で完結するのはすごく難しくて、グラデーションで半分出たときに、そのはみ出た半歩で入れてくれるっていう、そこの濃度というか自然経営企業群みたいな、何かある種、銀河系みたいな。

山田:
本当にそうだと思います。例えばITベンチャーでちょっと活躍できなくなった人でも、IT化を全然してなくて、社内のITインフラを整えるところをゼロからやるみたいなところだと、めちゃくちゃ活躍できるじゃないですか。
そうやっていろんなところで活躍の機会を作れることが、本当に開放性を追求すると大事になってくる世界の気がするので、そこは企業群が作られるといいなと思います。ってTonashiba始めたときから言ってますよね。(笑)

この話三つ、「情報の透明性」と「力の流動性」と「境界の開放性」って、昔から言ってきていることでも有り、やっぱり僕らもいろいろ実践をしてる中でより深まってきたこともあることが、今日改めて松井さんと話す中で感じました。
ということで今日はこのあたりで終わりたいと思います。松井さん今日もありがとうございました。

松井:
ありがとうございました。

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