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ライトオンに聴くリアル・タイム・フィードバックシステムの導入からVOC・NPS活用までの軌跡 ~顧客満足度No.1ブランドになる!~

株式会社エンゲージのNPSシステムを導入し、その後繊研新聞アワードでCS部門賞を受賞するほど、驚くほどのスピードでVOC活用の実績をあげているライトオン。

ライトオンは一般的にセルフセールス型のストア、つまり、お客様が自由に買い回りをする前提に設計されたサービスで、スタッフの接客は、基本的にはアプローチ・声掛けを行なっているが、過度にお客様への接客を行わないスタイル。
このようなセルフセールススタイルで成長してきたライトオンが、過去の慣れ親しんだオペレーションを見直し、顧客ロイヤルティ向上をテーマにしてCSを上げていこうという取り組みをスタートしている。
スローガンとして顧客満足を掲げる小売業は非常に多い中、中期経営計画で実施をうたい、また実際にNPSを採用して運用しだして約1年半。
その間にデベロッパーが選ぶ、優秀テナントとしてCS部門賞を受賞した、裏側を取材させていただいた。

About:繊研新聞アワード
ディベロッパーが優秀なテナントを選ぶ「第24回(21年度)テナント大賞」は、大賞と16部門で53テナントが選ばれた。ベストセラー賞からの大賞は「ユニクロ」で20年度に続く連続受賞となった。
21年度も感染拡大のたびに緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が全国に出され、実店舗の集客は何度も落ち込んだが、ライフスタイルの変化に沿った商品開発と店舗スタッフによるSNSなどを駆使した情報発信、ECと実店舗の買い物環境を結ぶ施策が奏功したテナント企業にディベロッパーの評価が集まった。

株式会社ライトオンの高橋圭氏(店舗統括部 部長)と岩野友美氏(店舗統括部 東京ブロック ブロック長)をメインに、加藤清一氏(店舗統括部 CSES推進チーム・お客様相談室)、大森信一氏(店舗統括部 CSES推進チームリーダー)の4名に話を聞いた。

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左:高橋 圭氏  右:岩野 友美氏

NPSの導入

一先の決算説明会にて「中期経営計画」を発表され、その中にNPSへの取り組みが重要ポイントとして組み込まれていたのを拝見しました。数年前からNPSに取り組まれているとのことですが、NPSを導入する前の課題を、導入理由と合わせてお聞かせください。
高橋:弊社は今期で43年目を迎えるのですが、15年ほど前に売上高が1,000億を超えるという過去最高の数字をたたき出しました。ですが、その絶好調期を経て徐々に停滞し、客数も1,600万人ほどだったのが、10年前からどんどん減ってきていました。 どうしてそうなったのか原因を考えると、元々アパレルは競合が多くなってきた上に、アパレル以外の企業がアパレルに参入することも増え、競合他社が増えたことが一つ。そして今は店舗に行かなくても、スマホ一つで購入できてしまうECサイトも増え、それらは強力なライバルになりました。
 このままだとまずい、なんとかしなければと考えた時に、彼女(岩野)が独自でお客様の声を聞いて営業に反映しようという取り組みをおこなっていたことを知りました。”売上”、”客単価”、”買上点数”は、お客様の声と結びついているのではないかと。その取り組みの結果を確認すると、やはりアンケート回答数の多い店舗は売上数値も高かったんです。これを全店で行えば、顧客の満足度を上げられる上に、売上・利益にもつながっていくのではないかと考えたのが、導入の経緯です。

―岩野さん、独自でお客様の声を聞く取り組みをされていたということですが、やりはじめたきっかけや方法、効果はどうでしたか?
岩野:元々CS(顧客満足)をあげるために、モニター調査(ミステリーショッパー)などのシステムは取り入れていましたが、”この期間に行ってこれを評価する”というのが決まっており、実際の評価とは違うかもしれないというのもあって廃止されました。その後、実際にお客様は満足してくれているのか悩んでいた時に、エリアマネージャー達と話し合いをする中で「じゃあ実際お客様に聞こう!」と当たり前のようで盲点だったアイデアが出たんです。
 方法は、紙でアンケート用紙を作成し、回収ボックスを置いて記入した用紙をそこに入れてもらうというアナログ形式のものでした。期間は2020年の2月から約2か月くらいでしたが、お客様との接点も増え、お客様の記憶にもスタッフの記憶にも残るいい取り組みだったと思います。
 そして、効果もすごく感じることができました。店長やスタッフが積極的な店舗ではばんばん回収が入り、どんどん評価も出ました。もちろん、スタート時には会議を開き、取り組みの意図と目的を店長に話しましたが、ポジティブに感じる店長もいれば、ネガティブに感じる店長もいたと思います。ですが、こなしていく中で「お客様が時間を使って届けてくれた声だから、しっかり受け止めて今後に反映していかなきゃね」と、どの店長も気づいてくれるようになりました。2か月という短い期間でしたが、成功したと思っています。

―その成功がきっかけとなって、デジタルでのVOCプログラムの導入を検討したんですね?
加藤:はい。NPSを営業に活かそうという想いはずっとあったんです。自分は当時カスタマーサポートの窓口を担当していたのですが、そこで色んなVOCが集まってもなかなかその後に活かしきれていないなと感じていて、可視化をしてフィードバックできる環境を整えたいと考えていました。そしてどうしたら整えられるかを模索していた時に、エンゲージさんのセミナーを受け、「これだ!」と思いました。詳しく内容を聞くと、思い描いていたベースが既に創り上げられていたので、弊社でもスピード感を持って活かせると思いました。

―「こうしたい」という考えと、エンゲージのシステムがマッチしたんですね。その後、全店舗導入まで、導入店舗数の段階を踏まれたと聞きましたが、その最初の段階のお話を聞かせてください。
高橋:最初はスモールスタートで、コスト面も考え50店舗前後を目安に導入をスタートしました。コロナ禍真っ最中で、目標達成がなかなかできずやる気やモチベーションが低下してきたのが目に見え、このままでは皆が路頭に迷ってしまうと思い、何を目標にするかを考えました。そこで岩野のアイデアと、それを上手く吸収し提案してくれた加藤の話を聞いて、NPSが非常にいい取り組みだと考えました。
 ただ、経営陣に納得してもらうには、こういうことをしたいという抽象的な話だけではなく、プラス結果である数字が必要でした。先ほども言ったように、岩野が独自で行っていたアンケートの取り組みで30店舗分の結果があったので、それが店舗数が増えても同じように結果がでるのか、50,100,150店舗と増えていっても結果がでるのかを知り、その結果を持って経営陣にプレゼンしようと、段階を踏んだ導入を決めました。実際の第一段階は45店舗からでしたね。

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「このままではだめだ、なんとかしなければ」と共通の目標を掲げることを決めたのだと話す高橋氏。

―なるほど。その45店舗はどうやって選定しましたか?
高橋:一番大事にしたのは、熱意です。加藤もバリバリの営業だったので、その気持ちが分かると思い選定をお願いしました。あとは、やはり最初が肝心ということで本部の人間がどう取り組んでいるか確認しにいくために、単純に行きやすい場所という点も加味しました。
加藤:熱意という話がありましたが、こういう取り組みがあるんだ、頑張っていこう!と同じ想いを共有でき、仲間に引き込めるであろう人選でした。この店舗はCSに注力しているな、というところをピックアップしたんです。趣旨説明し、賛同を得るのはとても大事ですから。

―その45店舗の結果はどうでしたか?
高橋:2020年の9-10月に実践しましたが、率直に言うとポジティブな結果でした。実施していない約360の他店舗に比べて、実施した店舗は売り上げでいうと3ポイント、買上点数でいうと4ポイント上回るという差がでました。第一段階終了時、かなりいい感触だと思ったのを覚えています。

―素晴らしいです。それを踏まえて第二段階に移行したんですね?
高橋:はい。第二段階は2021年の1-2月に100店舗、そして第三段階は2021年の5-8月に150店舗で実施し、どの段階でも実施している店舗としていない店舗では常に3ポイントの差がついていました。結果がついてきましたので、その後、2021年10月から全店で導入が決まりました。

―おっしゃっていたとおり、数字の結果を持って経営陣にプレゼンをしたんですね。導入時上を説得するのに苦労するという会社も多いですが、経営陣の皆さんにアプローチした際の反応を聞かせてください。
高橋:経営会議に、実績を含めてプレゼンを行いました。スコアが1上がると売上・利益がこれだけ上がり、年間で何十億上がるという数字を出したのですが、「そんなに?」と素直に驚いてもらえました。
 顧客満足度というのは、経営陣のほうでもテーマであり気にしていた部分だったので、意外とすんなり受け入れられたと思います。と言っても、プレゼン前にこういう話がある、と会話の中で出た際には「お客様の声だけでどう変わるの?」という疑問もあったと思いますが、実際に数字を入れてプレゼンすると、是非やろうという話になりました。なので数値で目に見えるというのは一つのポイントだと思います。
 あと、うちは経営陣・本部の人間と、現場の人間のコミュニケーションがよく取れていると自負しており、双方の関係性が良いことが社風にようなものになっています。コミュニケーションをよく取るという観念は、社内だけではなくお客様との間でも同様に大事にしています。うちは店内が広いですが、セルフで買い物をするというよりも、今も昔もお客様とのコミュニケーションを大事にしています。そういう風土が、すんなり導入に至ったことに関係しているのかもしれません。

―確かに、ライトオンさんはどの店舗も売り場が広いですよね。そんな中で、お客様に声をかけて、声を聞くというのはハードルが高くありませんでしたか?
岩野:私は、よくぞ導入してくれた!とポジティブに捉えました。ですがもちろん、こういうことをやって意味があるの?とネガティブに捉える者もいました。実際、そういうネガティブな気持ちは広がりやすいので、その辺りは新しいことに対して賛同を得ることの難しさも感じますし、まだまだ改善余地があると考えています。
 ですがお客様の声イコール自分の接客スキルを磨けるチャンスだと考えるスタッフもいて、そういうスタッフはどんどんアンケートをお願いし、回収できています。良い声をいただけるとモチベーションも上がりますし。

―接客の場では「〇〇さんに会いたいから買いに来た」みたいな話もよく聞きますよね。
岩野:もちろんたくさんあります!最近、ある店舗ですごく嬉しいお客様の声をいただいて。自分に何が似合うのか分からなかったお客様が、スタッフの接客によって素敵な買い物ができ、その後その服を着るという喜びがあって、さらに職場で褒められて嬉しかったという体験をVOCに書いてくれていました。買った時の喜びだけではなく、そのあとあとに続く未来のハッピー体験も提供できたんだ、というこの上ない感動を味わいました。「これこそが接客において目指すべきゴールだ」と、すぐに全店に共有しました。
 今はECサイト等オンラインでの購入も増えていますが、接客が嬉しいから店に来る、素敵な接客をしてもらい接客自体が好きになった、コンプレックスがあったけど接客でのアドバイスによっていい方向に変えられた、など、店舗ならではの嬉しい声がたくさん届いています。VOCがなければこのお客様のハッピー体験をこちらが知ることはなかったので、非常に良かったです。

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「未来のハッピー体験まで提供できただなんて、接客として最高の喜びです」と顔を綻ばせる岩野氏。

―最高のお客様の声ですね。VOCでいただいた声をすぐに共有したとおっしゃいましたが、どうやって共有しているんですか?
岩野:毎週月曜日に、週報を作り配信しています。その中に、NPSのページを2ページ設けて、先ほど言ったようなグッときた話はもちろん、ご指摘いただいた内容も載せてどう感じるか質問を投げています。それは店舗に行った際、答えとして皆に聞いていますね。
加藤:今年の3月からCSES推進チームを発足したんですが、そこで行われる毎週月曜日の朝礼時にも、VOCでいただいた良い話を発表したり、月に一度行われるブロック長会議でも、1時間ほどVOCに時間を割いて共有しています。そうすることで、現場だけで終わらせず、働いている従業員全員に共有して、認知称賛を行っています。

ライトオンならではのスピード活用

―なるほど。ここまでVOCを活用できている組織はなかなかないと思います。たった2年でやられているというのは本当に素晴らしいです。何か成功理由みたいなものがあったりしますか?
高橋:先ほどコミュニケ―ションを大事にしている社風・風土という話をしましたが、何かやろうと決まった時の団結力があるのもまた、うちの社風だと思います。その団結力はやはり、スタッフ、役職者、そして上層部と、立場が違えどその垣根がないことから生まれていると考えています。社長の藤原も、とても話やすい雰囲気なんですよ。創設者のオーナーがそういう雰囲気だったのが起因しているかもしれません。
 会社が何かしよう、どうにかしようと考えている時ほど、現場の声を大事にしてくれます。店舗の中でも、お客様と一番触れ合っているのは実際アルバイトの方なので、コミュニケ―ションをとって話せば話すほどヒントをもらえます。反対に、アルバイトのスタッフも自分の話を聞いてくれて、大事にしてくれているなと感じてくれていると思います。双方信頼し合っているからこそ、スピードを持って取り組めたのだと思います。

―垣根がない、素晴らしいです。次に、NPSの習慣ができ、マネジメントスタイルに変化はありましたか?
岩野:統括部内で、『3か年の計画』という中長期の目標を掲げ取り組んでいるのですが、その中にNPSも組み込みました。短期の取り組みで終わらせるべきではないと。
 あと、今までは”指示命令型”というかこう決まったからこうしよう、と指示を下ろすことが多かったのですが、お客様が思っていることと、こちらが思っていることにギャップがあることに気づき、話し合う場ができました。「スタッフはどう思うだろう?なら、聞いてみよう!」という時間が増え、それによって何か新しいことを始める際も、スタッフの意見も聞いて取り入れてみようという考えになったのが、大きな変化です。
 それは今行っているコーチングリーダーシップの研修にもフィットしていて、相手がどう思っているかを話し合って理解することで、相手も安心し、信じてくれる。そういう環境が作れました。今まで自ら動くタイプではなかった店長が動くようになったり、店長やエリア長も自分の意見だけではなく周りの意見を聞くようになったり。でもそれはやはり、認知称賛があった上でのことなので、やったことを認め、相互理解を深めるのは大事だなと思っています。
大森:やはり、結果に対する振り返りというのは今までもありましたが、それだけではなく過程に対する振り返りができるようになったことも大きいです。結果かどうだったのか、ではなく、その結果に至るまでどういう過程を経たのか。そこにスポットをあてて認知称賛ができるようになったのは、すごく良かったと考えております。
加藤:例えばお客様の声で「良かった」という声があって、何が良かったのかそこを振り下げていくのは其々マネージャー達の仕事ですが、NPS習慣が出来たことでそのコメントを見たスタッフが、「その方を担当したのは私です」と名乗り出てくれることも増えました。どういう対応をしてどうアプローチをしたのか、そこからどうつながったのかを自発的に申し出てくれ、それを成功体験としてプログラムの閲覧権限のある者に一瞬で共有できるのですが、内容を打ち込んで共有するという作業は労力と時間がやはりかかりますので、その辺りは改善余地がまだあるかなと考えています。

―ちなみに、離職率に変化はありましたか?
加藤:今はまだ数字としては出ていませんが、そこは一つのゴールだとも思ってます。来期は取りまとめようと考えていますが、肌感覚では皆のモチベーションが上がっているなと感じているので、離職率は下がっているように思います。離職率が下がると、生産性が上がっていくということなので、その辺りにスポットを当てて、効果検証をしていくのがポイントだと考えています。

取り組みを経て、繊研新聞アワードで特別な賞を受賞

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左:繊研新聞アワードでCS部門賞、受賞の喜びを分かち合う皆さん。
右:社内アワードでGood VOC社長賞を受賞した姫路花田店の皆さんと藤原社長。

―そして、繊研新聞のアワードでCS部門賞おめでとうございます!この賞を受賞した理由の中に、NPSを導入したことは関連しているとお考えですか?
岩野:関連していると思っています。今までライトオン教育の過程にロールプレイングで「こういう時はこうしよう、ああしよう」というのはありましたが、リアルなものではありませんでした。NPSが始まって、リアルな、本当のお客様の声をもらい、皆でそれについて考えることが増えました。ご指摘があれば改善しよう、嬉しい声が入れば共有し、皆がそう言ってもらえるようにしようというマインドになっていったんです。そういうスタッフの表情や動きを見て、良い接客に繋がっていると評価してくださったんだと思います。
高橋:コロナ禍で、お客様に声をかけるということに、うちだけじゃなく世の中がネガティブになっていました。NPSを導入して、実際に来店されるお客様は声をかけられることを求めている、接客を求めているんだということに気づいたんです。そこが、コロナ禍において他社よりも接客・販売力がいち早く上回ったのかなと。そこを評価していただいたという認識です。

―求められているという声を、上手くNPSでフィードバックされた結果だったんですね。では最後に、今後についてお伺いします。テーマである「顧客満足度ナンバーワン」に向けて、ここに熱を入れたいというポイントはどこでしょうか?
岩野:そうですね、接客というのは受ける側次第で評価は変わってくる難しいものだと思っています。今取り組んでいるものが必ず正解だとは限らない。VOCでも「程よい距離感がよかった」という声が多く出てきますが、それは人によって、また時代によって違ってきたりします。お客様の声によっては、本部を巻き込んで改革していかなければならないものもあります。お客様の声を着実に拾っていき、会社全体がお客様の声に寄り添っている、変化しているんだということが伝わるようにしていきたいです。
高橋:僕はシンプルに「また来たい」と思ってもらえる店舗にするというのが、一番のポイントだと考えています。株主総会の中期経営計画に「2030年にありたい姿」として発表していますが、モノの魅力、そしてヒトの魅力でお客様と深くづながる関係を築き、お客様に第一想起される顧客満足度No.1の企業を目指しています。お客様の愛着度を上げ、ライトオンのファンになっていただく。そしてそのファンをいかに増やしていくか。そのためには、店舗だからこそ味わえる感動体験をいかに作っていくかが重要だと考えております。

人々の生活を楽しく豊かなものにするために…

オンラインで参加していた株式会社エンゲージ代表 藤谷氏も、「CS・ESは自分たちのテーマでもあるので、今日の話を聞いて改めて一緒に頑張っていきたいと感じた」と述べた。

誰もが知っている大ブランド「ライトオン」。
その地位に慢心せず、常に前を向き、時代に沿い、そしてお客様に寄り添うことを第一に考える姿勢。世代を超え、愛され続けようという理念。

これこそが、ライトオンがライトオンたる所以なのだと感じる、有意義なインタビューでした。