読書感想:山がわたしを呼んでいる!/浅葉なつ

今回は、私のもう一つの趣味「登山」も絡めた、山岳小説の感想です。

 「山岳小説」というと、新田次郎氏の「孤高の人」のような、山の険しい、荘厳なイメージを想起させる小説が思い浮かぶ方もいらっしゃると思います。「孤高の人」も読了済みなので、いずれ感想をアップしたいと思いますが、今回はちょっと、趣の違う作品をご紹介します。
(そういえば最近、趣味の登山ができていないなぁ…)

 また、今回は初の試みとして、だいぶ昔に読んだ小説の読書ノートを、今、もう一度当該書籍を見返しつつ、まとめなおしたものをアップしたいと思います。

〇タイトル:山がわたしを呼んでいる!/浅葉なつ

〇読み始めから読了までの期間:2012.2.22~3.1

〇読み始めたきっかけ
 まだ結婚前(というか妻との出会いすら前)実家で暮らしていたころ、地元の本屋で購入したことを覚えています。何気なく「ライトノベル」の棚を見ていたところ、ふとこのタイトル・表紙の絵が目に留まりました。これはどんな内容なんだろう…萌え系山岳小説?あるいは山岳ライトノベル??いずれにせよ、これは「漫画・アニメ」「登山」ともに趣味としている私にいかにも向いていると思い、即決購入しました。

〇読み終わった感想・意見
 読書ノートには「現在 3/1 AM1:00 明日も仕事だというのに…とても面白くて、ついつい読み切ってしまった」と記されていました。当時の私にとって、それほどどっぷり、はまり込める話だったということです。

 学生時代、同じく登山を趣味とする友人が、山岳小説を何冊か貸してくれたこともあったのですが、ほとんど手を付けず(失礼!)この当時に至るまで、なかなか手を出す気にはなれずにいました。というのも、私の登山趣味はやはり広く浅くの一環で、そこまでガチな感じではなかったということで、荘厳で険しい山の物語にひかれなかったためです。
 しかしながらこの物語は、とっかかりこそ軽めであるものの、山のポジティブな面(山の景色の美しさ、山小屋の雰囲気の楽しさetc.)、ネガティブな面(登山客のマナー、ごみ問題、山岳遭難etc.)両面を、丁寧に、かつリアルに描写しており、登場人物の個性も相まって、とても面白く、読み進めることができました。

 主人公の女子大生・あきらは、登山に関しては特に知識も、興味もなかったズブの素人であるにも関わらず(キャリーケースにフリフリのワンピースで登山する程度には!!)、ひょんなことから、山にある種の「幻想」を抱いて、バイト先の山小屋にやってきます。しかし、山小屋に到着して早々、ある人物との出会いによって、その幻想を木っ端みじんに打ち砕かれてしまいます。
 たまらずバイトの撤回を申し出るあきらですが、そこでまたとある事件に巻き込まれ、不本意ながらも、山小屋でアルバイトを続けることとなった…という、導入だけを見れば、特に奇抜なところもなく、すんなりと話に入っていけると思います。

 この物語にはあきらのほか、そのあきらを初日怒鳴りつけた(まあそれはしょうがない)口の悪い山男・大樹、行動・言動ともにややセクハラ気味な山小屋の主・武雄、武雄とつるんであきらをからかう謎の山伏・宮澤、そして気弱な「マニュアル人間」のバイト仲間・曽我部など、個性豊かな人物が大勢登場します。加えて、それぞれの人物描写はとてもリアルで、いかにも「こんな人、いそうだよなぁ」と感じる人ばかりです。
 あきらは、そんな彼らに対して、時に反発し、時に共感し、時に感動し…と、様々な影響を受けながら、自身がとらわれていたコンプレックスから、徐々に解き放たれていきます。また一方、あきら自身も、気づかないうちに、山小屋の人物たちに対し、様々な影響を与えながら、物語は進んでいきます。
 その経緯の詳細についてはネタバレとなるので記しませんが、時折、あきら自身のモノローグを織り交ぜながら、とても丁寧に、その心情の変化がわかるように書かれているように感じました。

 でもやっぱり、私としては、一番注目すべきはその「山」の描写だと思います。美しい山の情景はもちろんのこと、登山における常識や専門用語(「キジ打ち」→「〇〇〇(とある食事のメニュー)」のコンボには思わず笑ってしまいました…詳細を知りたい方はググってください。責任は持ちません)、山が見せるときに危険な顔など、この作品の山の描写は、登山好きな方も、そうでない方も、思わず「ニヤリ」としてしまい、また感動もできるものだと思います。著者・浅葉なつさんが、とても丁寧・綿密に取材をされたことがうかがえました。

 ラストも、本書のタイトルと見事にシンクロした、とてもさわやかな、すがすがしい締め方で、まさに大団円だったと思います。本書を読んで、少しでも登山に興味を持ってくれる方が増えればいいな、と思います。


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