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幾何学おばけ『微睡』 のクロスレビュー

まだ、無名の劇団の知名度向上のため公演を観に行き一人10点満点でクロスレビューをするこの企画。

今回取り上げるのは2021年から活動開始した幾何学おばけ
ちょっと不思議で奇怪な体験を届ける演劇ユニット。そのコンセプトに違わない作品を作り出しているが、過去作見ると不気味の幅があり一辺倒じゃないのかも。
そんなホラー劇団。本公演では3回目となる作品をレビュワーがどう評価したか。

          幾何学おばけ『微睡
        作・演出:パキケファロ長崎
        会場:中板橋新生館シアター
出演: 紙谷宥志、内柴楓、中村有来(EARLYWING)、越路隆之、
    水落涼太郎(劇団maKuaKi)、岸鮫子、日和しい(幾何学おばけ)
            【あらすじ】
 行方不明になった恋人を探して旅する男はとある廃墟でノートを見つける。そこに書かれていたのは自殺志願者たちの話。集まったかれらは薬を飲み死ぬ直前に自殺を選ぶまでの身の上話をかたる。しかし、かれらの死ぬ理由には何故か男の恋人ココが関わっていて。

レビュワーは公社流体力学、ヤバイ芝居の二人です。

公社流体力学(美少女至上主義者)
 
男の話があり、その中で集まった志願者たちの話が展開される。いわゆる枠物語(『千夜一夜物語』のように、作中の登場人物がさらに別の話を語る形式)。
語り手が次々変わり、関連性が不明の物語によって構成される凝った構造の中で真実が錯綜するホラーミステリー。恋人であるココは早々と現れ、自殺志願者との関連性をのらりくらりと交わされる。
中々にテクニカルな構造だが、自殺志願者達の話が大して面白くない。中学生の話は学校の怪談を巡る綺譚でそれなりだが特に妻を殺された話は単なる死ぬ理由の説明でしかなく。この大して面白くない部分が長いのダレる。こういう構造をするならば短編としての強度を持った作品にするべき。いやこういうのをやりたいんです、と言うのなら短くした方が良い。
勿論、本が悪くても演出で何とかなるが。やりたいことはわかるも真っ当なドラマ演出で面白くない話を気を衒うことなくそのままやるので、視覚的にも面白くない。
そして、志願者達を集めた黒幕が手記を書いた語り手の伊織。これはもうバレバレ。(隠すつもりはなかったかもしれないけど)、明らかに手記の語り手である伊織だけ浮いている。他の4人の自殺志願者に溶け込んでいない。
さて、大仕掛け。恋人だと思っていた女の正体と、真の恋人が伊織だったことが明かされる。二人が組み、幽霊であるココを人々の脳内に刻み込む計画。黒沢清監督の『CURE』(主演:役所広司)のような、操りを巡る話が展開されるもあまり乗れない。
 なぜなら喋りすぎてるから。優秀なホラーというのは正体不明である。説明をしてもし過ぎず最低限にとどめる。そこに生まれる空白が恐怖を掻き立てる。こんなに丁寧に説明されたら恐怖の色気が減る。(だから前半ののらりくらりと男の説明をかわすココが怖かった)
要素は好きだけど、出来が甘いから4点付けようと決意した。
しかし、最後に牙を剥く。
男と伊織が再会した瞬間、男に強力な洗脳をかける。この時操り人形と化した志願者達の生ける屍のような立ち方。中々良い演出。
そして動かぬ男に向かって言うのだ「この人の自分が主人公だと思ってるところが嫌いだった」
我々は男こそ主人公だと思っていた。この作品を支配していたのは伊織であって男は脇役でしかない。この非情な転落劇。物語構造とセリフの見事な融合。
動かぬ姿を見て初めて好感を持つ女、それを見てココの方がヒく。
 出来は甘い。しかし最後、狂気にアクセルが入った速度。好き。
5.5点

● ヤバイ芝居(観劇者)
  
ひさしぶりの演劇クロスレビューだ。参加できていない間の方がクロレビの目的であると考えている「まだ世に知られていない若手劇団を世に知らしめる」に合致しそうな演劇を観る機会が多かった。トホホって感じよ。今回は公社流体力学に推された幾何学おばけを観る。だからホラー(後、世の中の大部分)に疎いんだってば、俺。まあ演劇だから観てもいいだろうけどさ、ホラーに疎い理由ってシンプルに怖がりだからそのジャンルの表現を見ないからなのに何故にわざわざ怖い思いをしなきゃいけないんだ!。始めます。
 
『微睡』
そんな俺にとってホラーを見る意味に関する唯一のクリシェは「真の恐怖とは自らの想像力に対して抱く恐怖」(©︎村上春樹)なので今作はその意味で範疇内で助かる。想像力によって発生して想像力で広がっていく恐怖。ココという少女だけは範疇外で不可思議な存在なのであんまり怖くはなくて現実の行為者である伊織(廃墟にあったノートの筆者)の脳内の方が想像したくなくておっちゃない。ので伊織の劇中における位置(いまどこからの視点か)がいまいち不明でアンフェア(頭が悪い俺には)ぽいのは構成的に惜しいと思った。そこ以外は達者な台本で自殺志願者たちの複数のエピソードの散らし方も上手い。ただ、この「達者な台本」てのが最近の俺の観劇体験で引っかかるところ。(『微睡』から話は逸れるが)演劇の面白さにあんまり文字のテキストは重要ではなく今観ているモノが(だから観劇)眼前や脳内で何を起こしてくれるか派なのでバランスとして演技・演出も達者である必要な部分がある時に抜けがあると微妙な気持ちになる。『微睡』は演出的には音への拘りは分かって全ての事象に対するSEを律儀に出しているのなんか昔のサウンドノベル的にホラーの手触りが強化されていたのは(MEに頼らないのも。なので1曲だけ流すとこの選曲が勿体ないけど)良かった(逆に照明は限られた手数なので律儀が過ぎた。舞台装置も雰囲気のある家具を調達したのはいいのだが構成的に想像の足枷にもなる)。で、「達者な台本」に話を戻すと作家の(戯曲の)文体が確立されているなら同じくらい舞台としての文体も意識して欲しくて。このホラーの文脈に必要な演技って?と考えたら……
4点 (次は短編集らしい。作家の資質的に面白そうなので観たい)


という訳で幾何学お化け『微睡』の点数は20点満点中
9.5点

2人とも、美点は認めるもまだまだ未熟な部分があるという評価。
しかし何しろ旗揚げして3年目。美点があるのならば伸びしろを伸ばすだけ。奇怪な世界をぜひとも作り続けてほしい。そしてそう言った演劇が好きな人はぜひともかれらを応援してほしい。

ヤバイ芝居
(1971生。ヤバいくらいに演劇を観ない観劇アカウント。since2018秋。Twitterでヤバイ芝居たちを応援していたら九龍ジョーに指名されて『Didion 03 演劇は面白い』に寄稿したのが、人生唯一のスマッシュヒット。
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公社流体力学
(永遠の17才。2015年旗揚げの演劇ユニットであり主宰の名前でもある。美少女至上主義を旗印に美少女様の強さを知らしめる活動をしている。やってることが演劇かどうかは知らんが10代目せんがわ劇場演劇コンクールグランプリ。毎年ここでやっている、
岸田國士戯曲賞レビューは諸事情あって個人のnoteでやったのでよろしく。あと、来年1~3月毎月公演やるのでよろしく。note。)

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