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佐藤佐吉演劇祭『見本市』Bグループ  クロスレビュー (AとCもちょっとだけ)

まだ無名の若手劇団を観て評価をする演劇クロスレビュー。
コロちゃんのせいで、本来の企画はこれで3回目のスローペース。大変だね。
今回は佐藤佐吉演劇祭が無名の劇団に絞って一般公募した企画、見本市の
Bグループ(食む派、SHIMAISHIBAI、蔭山あんな)をレビューする。
ルールは演劇を観て10点満点で評価。以上。
レビュワーは公社流体力学とヤバイ芝居。
 
Intro(ヤバイ芝居)
おひさしぶりの正調演劇クロスレビュー。「まだ知られていない劇団を世に知らしめる」べく立ち上がった(と理解している)演劇クロスレビューにうってつけな佐藤佐吉演劇祭2022企画『見本市』。コンセプトは「活動最初期の演劇人ショーケース」だって。期待にドキがムネムネだよ。なのに「ヤバいくらいに演劇を観ない観劇アカウント」はBしか観られなかった。性根を叩き直せ。始めます。

食む派
『パへ』

脚本・演出 はぎわら水雨子
出演 日下七海(安住の地) 鳥島明(はえぎわ)
 歩き方教室にやってきた女性。そこで出会ったのは事故の影響で、パフェをパへと発音してしまう男。彼と過ごす歩き方教室での日々と、犬との生活が描かれる。
 
(ヤバイ芝居)
個人的には排気口の公演やWSで俳優として知ったはぎわら水雨子だが印象として作家として活動するのに疑いはなかったのでユニット旗揚げにも驚かないし実際その作品の完成度の高さにも驚きはなかった。それでも『はえぎわ』の鳥島明と『安住の地』の日下七海の参加には驚いた。正直言えば(企画の趣旨から言えば)反則だ笑。天井からぶら下がった「パへ」(パフェ)はシンボリックな美術だと思っていたら降下してきて芝居の中で食べられる瞬間の演劇的仕掛けが最高の決まり具合。コンテンポラリー演劇のギミックを巧みに使いこなす手腕も申し分ない。演じられる場所の論理として最も様になっていたと思う。フレッシュ感だけ欠けるが笑、本格的始動のプロローグとしてドキがムネムするしかない。6点。
 
(公社流体力学)
 旗揚げなのに前評判が高かったのは、俳優としての経歴ゆえか。実際、観てみるとその経験値からか今回の参加劇団の中で最もクオリティの高い作品となった。役者陣はキャリアのある実力派。ぶら下がるパフェは象徴的な物かと思いきやテーブルに落下して小道具になるギミック。それに加え犬のおもちゃと戯たり小道具の使い方ひとつで笑いを生み出す。歩く身体性と言葉を同期させる。歩くテンポのずれで男女が分かれを表現する、愛情でも友情でもない奇妙な関係の終わりとしてドラマティックに描く。そしてラスト、死んだ愛犬の遺骨を食べる所はギョッとするも、別離の表現と意表を突く行為を同時に成立させる。クオリティ高し。しかし現代口語演劇という枠からはみ出さない優等生ぶりが、今一つ。
6.5点
 
合計 12.5点

SIMAISIBAI
『エレファンドッグシンドローム』

作・演出: 藤井千咲子
出演: 藤井千咲子、重松文
とある施設に囚われている女、46番。彼女の担当官はとある人物を探している。それは48番がどうしても再会したい人物らしい。名前くらいしか情報がない中、何とかして探し出そうとする。
 
(ヤバイ芝居)
YABAISIBAIとしては 全く未知だったが名前だけでSIMAISIBAIは注目せざるを得ない。冒頭の原始的儀式を思わせるビートと叫びでグッと引き込まれたが美術と登場してきた作業着の人物を見て「殺処分」の話と気づいてしまうと展開に興味がいってしまい『かわいそうな象』とのマッシュアップになるほどねと思いつつ直接的な作劇にちょっとダレてしまった。ストレートな力押しなら成立する気もするが中盤のお笑い的な演技がノイズというか貫くべきドラマツルギーと齟齬を生じるのでは?と考えてしまうのは文体の問題なのか生理の問題なのか整理はついていないのだけど。でも個人の感想でしょ?と言われたら反論はできない。この作品に感動した観客に対して自分の論理をきちんと説明できるのか?。4点。

(公社流体力学)
 冒頭のパーカッションに合わせて叫ぶシーンで、パンク演劇が始まったとワクワク。ツカミとしては10000点。しかしそれは冒頭だけ、本編はドラマ演劇。脚本自体はよく出来てる。囚人と看守の話として見せるも設定や探し人の正体など謎を設置し、それを最後に回収することによって飼い主とはぐれてしまい再会を望むも殺処分される犬の話と判明、タイトルの意味もそこで分かる。叙述トリックを演劇で行う高いハードルをクリアしている。しかし、ならばこれに合った演出はオーソドックスな物じゃないかと思う。冒頭もそうだが、様々な演出技巧が取り入れられているが、それがドラマに貢献しているかというと疑問。しかし、旗揚げなんだからやりたいこと全部乗せする熱意は良い。
6点
 
合計 10点

蔭山あんな
『放流する(かえす)』

作・演出 蔭山あんな 振付:中嶋千歩
出演:原裕穂、大森菜生、中嶋千歩、蔭山あんな
とある家で少女はおかあさまと共に暮らしていた。そこにカエルが上がりこむ。少女はカエルに嫌悪感を示すが、話しているうちに奇妙な友情のようなものを感じる。
 
(ヤバイ芝居)
タイトルだけでZ世代だなあとおっさんの俺は雑な認識。それなのに舞台は80s小劇場のそれだった。まったく影響は受けていない筈なのに溢れる遊戯性(この言葉が80s言語)とアナーキー加減がおっさんの俺でも観ていない『青い鳥』を思い出させた(観ていないのにね)。基本は寓話として観ていたのに構造よりは発する言葉に持って行かれるところがZ世代(もうどういう意味で使っているかよくわからない)ぽくて面白いなあと。だから放流する(かえす)なら蛙よりは鮭だよとか考えるのが北海道育ちのおっさんで東京(関東でいいけど)なら蛙が圧倒的リアリティなのもスゲー理解はする。蛙のリアリティって何なのだろう。約30年前に初めて上京した時に初めて見た巨大なアマガエルを思い(以下略)。
6点。
 
(公社流体力学)
 冒頭は人工音声と合わせた奇妙な身体性のダンス。このまま進むのかなと思ったら本編はドラマになる。私にはつながりが今一つ理解できなかったが、本編も奇妙なのでミスマッチは感じない。ことわざである井の中の蛙をモチーフにして、最後に少女が家を出ていくところを井戸を出る蛙としてポジティブに表現。カエルも、世界を放浪する存在として描かれ人間が逆にカエルによって井戸から解き放たれ(放流され)るという、自然に教わる的教訓話として成立。でも説教臭くないのは素っ頓狂なセリフや絶叫が次々飛び出し、全体的に珍妙なナニコレ感が充満しているからだろう。ダンスと本編の接続の弱さとか未熟な部分はあるが、イロモノの手触りは十分あり見本市の中で一番未知の可能性を感じた。
6.5点
 
合計 12.5点
 

Outro(公社流体力学)
 
という訳で、結果は
食む派『パへ』 12.5点
SIMAISIBAI『エレファンドッグシンドローム』 10点
蔭山あんな『放流する(かえす)』 12.5点
 
 と、レビュー的には食む派と蔭山あんなが1番の評価となった。
Bグループはアバンギャルドな味わいの演出技巧を凝らした作品が集合しているグループだった。ここが一番最初にチケットが完売したということは、一番見られたグループということなので。変な作品が多くの人見られたのは良いことだなぁと思う。
 
執筆者プロフィール
ヤバイ芝居
(1971生。ヤバいくらいに演劇を観ない観劇アカウント。since2018秋。Twitterでヤバイ芝居たちを応援していたら九龍ジョーに指名されて『Didion 03 演劇は面白い』に寄稿したのが、人生唯一のスマッシュヒット。
noteを始める。)

公社流体力学
(永遠の17才。2015年旗揚げの演劇ユニットであり主宰の名前でもある。美少女至上主義者で美少女様を崇め奉っている。やってることが演劇かどうかは知らんが10代目せんがわ劇場演劇コンクールグランプリ。5/29から
『粘膜少女戀愛綺譚』という作品をやります。私のnote

演劇クロスレビューは執筆者を募集しております。東京近郊在住で未知との遭遇に飢えている方を求めております。(一銭にもならない活動ですので、その点はご了承ください)



Bonus Track(公社)
 
さて、本編はもう終わった。
でも、見本市はAとCグループもあるのである。しかし、全部見たのは私一人でクロスレビューはできない
でも、無名の若手大集合で2グループ仲間はずれなのは悲しい。
なので、おまけとして私単独のレビューとしてお届けしたい。
じゃあ個人のnoteでやれよという話だがまとめた方が読みやすいじゃん。あと、クロスレビューの主宰私なんでいくらでもイカサマできる。でも、差別化のためにちょっと文字数は少ないよ。
 

Aグループ

紙魚
『劇的なるものめぐってまごつく二人』

脚本・演出:濱吉清太郎
出演:植木あすか、押川綾乃
女性二人が自身の生活や思いについて独白する。女性の言葉として様々な引用が語られていく。
 
 大量の引用で構成された作品。しかし演劇の教養がないので私は何一つ理解できなかった。しかし、退屈を感じなかったのは身体に映像に矢継ぎ早で様々な演出をぶつけてくるからだろう。下手したらスノッブに落ちてしまう中で、ものすごい運動量を役者にさせる。高速のセリフで役者は噛みまくるが、噛みまくったまま声を発し続ける。そうする内に言葉に生命力が宿る。圧倒的なエネルギーが引用を生き物にする。
6点
 
 
 

ヴァージン砧
『復刻版』


作・演出: 香椎響子
出演: ながはまかほり(劇団あばば)、古川はる
 保育園に持ってきちゃいけないおもちゃを子供が持ってきた。これを知られたら対立している先生が台頭することを恐れたので、証拠隠滅どころか目撃した子供も消そうとする。
 
 日常的なシチュエーションから血みどろの展開になり唐突にSF要素が盛り込まれる。ブラックすぎて笑えない話をしっかりコメディとして仕立て上げる。演出はシンプルでも話のギミックで引っ張り上げる。ながはまかほり演じる暴走する保育園教師が嫌われそうなところをパワフルに演じて魅力的。見本市の中では劇団のキャリアがあるためか、クオリティは高いけど小ぢんまりしたものを感じてしまう。それが美点でもあるが。
5.5点
 

オドルニク
『夜の踊り方』


作・演出:中西一斗
出演:田中優真、玉木葉輔、中西一斗、田和匠、澤井一希、方波見瑠璃子
 旅行中の男3人は鍾乳洞で遭難してしまう。2人が喧嘩をし始めて仲裁に入るも、彼らに鍾乳洞に住む存在が襲い掛かる。知らずの内に禁忌を犯してしまっていたのだ。許されるためには試練を受けなければいけない。
 
 熱血バカ芝居。ゲラゲラ笑うがちょっと待て演出の手数がすごい。暗闇の表現を最初は照明が懐中電灯のみという状態でして、明転してからは男3人の目隠し状態という形で行う。洞窟に住む存在は姫だけセリフありで後はセリフなし。でも存在感がすごい。試練がこれイロモネアのパロディじゃんと分かる場面の鮮やかさ。最後は、友情をテーマにした感動で終わる。このままテアトロコントに出れるクオリティ。次のダウ90000はここだ。
7点
 
 
Cグループ

南極ゴジラ
『ニュウマン=オズボーンの旧人類博物館(臨時休業)』

作・演出 :こんにち博士
出演:九篠えり花、和久井千尋、井上耕輔、吉田絵夢、ユガミノーマル、瑠香、TGW-1996、瀬安勇志、端栞里、こんにち博士
 人類が滅びた後に、新人類によってつくられた博物館。人類の失敗を集めた部屋では所蔵品たちが博物館オーナーの子供が行方不明らしいと話していると、その子供が展示室に忍び込んでいた。
 
新人類は雌雄同体であり、それを男優と女優が2人で一つ同時発音で演じる。ぬめぬめした感じを身体だけで表現。手塚治虫的SFを演劇で作り上げる技術力。火が人類最大の失敗とされて、その火と新人類が戯れる美しさ。そこに関わるのが特徴のない21世紀の女子(彼女も所蔵品)というのもいい。終盤の全てが融合する場面もいい。ただ、他の収蔵物がセリフは多いが話に関わらず、子供・火・女子の3人で成立してしまうのは脚本の甘さ。
5.5点
 

キルハトッテ
『バター』

作・演出:山本真生
出演:吉沢菜央、林美月、森崎陽
 ホットケーキを作る男女。バターが足りないなと思うと、バターが何者かから届けられる。それを女はこのバターはかつての友人だと思う。バレエ教室で美しかったあの子。あの子がどうしてバターになったのか。
 
 美しい子が平凡な子に抱く重たい友情。ちびくろサンボの虎がぐるぐる回ってバターになるという要素を解体と再構築し、友情を求めるあまり虎になってしまった女の子は食べられることを望む。マジックリアリズムで描かれる青春、ラストってカニバリズムだよねというとこ含めて耽美的だがアングラに進まずスタイリッシュにまとめる。あまりにも男性の役割が少なかったのが勿体なかった。あと、バレエがもっと美しかったら加点してた。
 
6.5点
 

海ねこ症候群
『海月』

作:坪田実澪 演出:作井麻衣子
出演:井筒彩夏、河合陽花、作井麻衣子、坪田実澪
 見知らぬ少女たちに囲まれる。しかし、どうやら少女たちは彼女の友人らしい。彼女と友人たちの日々が描かれる。そしてやがて、とある別れがやってくる。
 
 不可解な現象が起きるのでSFなのかなと思ったが、最後に震災演劇であり生者が死者へ手向ける鎮魂の物語だった。しかし、地震とか3.11等のワードや説明は一切せず震災演劇だと気づかない人もいそう。このさりげなさに好感。終盤の海と波、亡くなった友人の曲を歌って終わる物語。良い物語を観たなという満足感はあるが、見本市で一番オーソドックスな作りで教科書通りだなぁ。でも、それは欠点ではなく私の好み。
5.5点
 


という訳で、私個人ではオドルニク『夜の踊り方』が一番。
 奇麗にまとまっているものよりは破綻していても、新しさを感じる劇団が好きなのでこういう評価。勿論正反対の意見はあるでしょう。
 この企画最大の驚きは、全団体5.5点以上である。私の中で5点以上が面白い作品なので低評価の団体が一つもない。まぁ匙加減一つと言えばそうなんだけど、明確につまらない、退屈な団体がいなかった。色んなショーケースを観てきたがこの打率はすごい。(普通は何団体か4点より下がいるのに)。
しかも、無名の劇団だらけで、方向性もそれぞれ違うのに。
そのうち、この中のどれかが有名劇団の仲間入りしてもおかしくない。

舞台写真の載った記事があるから最後に貼るね


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