ビル・ブライソンで学ぶ英語『人類が知っていることすべての短い歴史』
ビル・ブライソンはアメリカのノンフィクション作家。
一番の長所は強烈なユーモアの連発。とくに旅行記が人気です。
そのブライソンが書いた科学入門の本が『A Short History Of Nearly Everything』(邦題は『人類が知っていることすべての短い歴史』)
日本では新潮文庫で入手できます。訳のクオリティも高し。
ブライソン自身が科学史を勉強しつつ、その成果を読者にシェアしていくという構成になっていて、すこぶる面白い。
扱われる分野はありとあらゆる方面におよびます。
・物理学
・天文学
・化学
・地学
・考古学
・古生物学
・生物学
・人類学
…などなど。
ユーモアは本書でも健在で、いたるところで笑わせてくれます。
英文の難易度はやや高め。良くも悪くも凝った文章になっているため、スラスラ読める洋書ではない感じ。
僕は先に日本語バージョンを読んでいたので、普通に読破できましたが。
もしこの本の英文がたとえば『サピエンス全史』ぐらい平易なものだったら、本書は洋書多読用の一冊として鉄板の科学読み物になっていたのに…という気持ちになります。
では冒頭のページを読んでみます。
ここだけでビル・ブライソンや本書のノリがわかります。
ではまず最初のパラグラフから。なお日本語訳は新潮文庫版を参考にしています。
「ようこそ。そしておめでとう。あなたがここに到達できたことを、うれしく思う。平坦な道のりではなかったはずだ。実のところ、それは、あなたが実感しているより、もう少しばかりたいへんなことだったのではないかと思う。」
make itは「やり遂げる」みたいな意味。
I suspectは「~だと思う」。I doubt(~ではないと思う)の逆の意味になるので注意。
「まず第一に、あなたが今ここにいるためには、宙を漂っていた何兆個もの原子が、精緻なやり方で、かつ絶妙の連携ぶりで寄り集まって、あなたという存在を創らなくてはならなかった。それは贅を尽くした特殊なイベントであり、過去に一度も試みられたことがなく、今後もこの一度きりしか実現できないほどだ。これから(願わくは)数十年のあいだ、この微小な粒子たちは、文句も言わずに何十億、何百億もの熟達した共同作業にいそしんで、あなたを健常に保つとともに、この上なく快適でありながら過小評価されがちな”生存”という状態をたっぷり味わわせてくれることだろう。」
長いので最初の文章から順番に解説。
「まず第一に、あなたが今ここにいるためには、宙を漂っていた何兆個もの原子が、精緻なやり方で、かつ絶妙の連携ぶりで寄り集まって、あなたという存在を創らなくてはならなかった。」
この文章の主語はどれだろうと読んでいきます。
To begin with(まず初めに)は明らかに違うのでスルー。
その次にfor youときてぎょっとするんですが、to be here nowが続くことで、全体で一つの修飾節なんだと気づきます。for you to be here nowは「あなたが今ここにいるためには」
その次にtrillions of drifting atoms(何兆個もの宙を漂う原子)が来て、これが主語か?と検討がつく。
すると次にhad somehow to assemble(集まらなくてはならなかった)と明らかな動詞パートが登場するので、やっぱりtrillions of drifting atomsが主語だったとなります。
最後のto create youは「あなたを作るために」という意味ですが、日本語訳ではこれが英文の順番通りに訳されているところに注目。
学校の英文和訳とかだと、こういう構文はひっくり返して訳すように習うと思います。「あなたを作るために、原子が集った」みたいに。
しかし翻訳ではなるべく英文の流れどおりに訳すので、このように「原子が集って、あなたを作った」とすることが多いです。
「それは贅を尽くした特殊なイベントであり、過去に一度も試みられたことがなく、今後もこの一度きりしか実現できないほどだ。」
so~that…構文の登場(あまりに~なので…だ)
新潮文庫版ではひっくり返してthat節が先に訳されていましたが、ここはあえて原文通りの順番に直しました。
「これから(願わくは)数十年のあいだ、この微小な粒子たちは、文句も言わずに何十億もの熟達した共同作業にいそしんで、あなたを健常に保つとともに、この上なく快適でありながら過小評価されがちな“生存”という状態を味わわせてくれることだろう。」
(we hope)はユーモラスな表現です。ここでクスッと笑える人は読解力が高いと思います。
主語はthese tiny particles。
その次に助動詞willが来て、動詞はどれだろうと探すとengage inが見つかります。
さらに読んでいくとandで文章がつながって、let you experienceが出現。このletも、主語のthese tiny particlesにくっつく動詞です。
抽象化すると、この文章は「these tiny particles will A and B」という構造になっているわけです。
andを解読するのは実は難しくて、なにとなにが等値されているのかをすぐに見抜くには、慣れが必要になってきます。
では次に最後の文章。
「なぜ、原子がわざわざそんな苦労をするのかは、ちょっとした謎だ。あなたを構成することは、原子レベルでみれば、別に楽しい経験ではないのだから。」
最初の文は関係副詞のwhyが使われている形。
こういう文法用語は覚える必要はなく、英文をたくさん読んでいれば「あ、このパターンか」とすぐに理解できるようになります。
Why~is…の構造が見えたら「なぜ~なのかは…だ」と理解します。
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