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旅のお供に。

ここ4年ほど、毎日リュックに入っているもの、複音ハーモニカ 3本(C, C#, Aがそれぞれ一本ずつ)。

 もともと旅のアイテムとして、大学に入学してすぐくらいのときに買った。公園などで練習するため、リュックに入れ放しのころが多かったところ、いつの間にか財布, IPadと並んで、欠かさずリュックに入れるお守りのようなものになった。(吹かなくても、リュックの中に無いと何だかソワソワして、落ち着かない)

 普段は公園や、河原で。
登戸でシェアハウスをしていたころは、登戸駅下りてすぐの河原に転がって、1時間ほど寛ぎながら、吹いて帰るのが日課だった。


もう一つのリビングだった、登戸の河原。

 旅行のときは、バックパックの中へ。神奈川から東京までの自転車野宿旅、無人島、インドにバングラデシュと、パッキング前に必ず忘れないように確認する荷物の一つである。

 毎日、真面目に吹くというよりかは、何か気持ちの変わり目で吹きたくなることが多い。旅の道中ののどかな景色、夕焼け。あるいは寂しいとき(実はこれが一番多い)や、悲しくなったときに。自分の心を、自分の音色で落ち着かせることも多い。

 目を瞑れば、より自分だけの世界に浸ることができるし、目を開ければ目前の自然、小さな鳥が音色に呼応してくれるし、心も柔らかくなる。
 日常のなかのちょっとしたリラックスの時間として、非日常の景色を体に染み込ませるために。全ての時間の相棒となってくれる。

 最初は一本だったハーモニカは、違うキーのものが数ヶ月おきに買い足され、気づけば6本になった。そのうち、よく使う3本をレギュラーメンバーにしている。


野田知佑に影響され、水上(探検部のカヤック)にも持って行っている。

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 小さなころから耳、音感は比較的良い方だったが、楽器には心理的に抵抗があり、距離を取って生きていた。おそらく、学校の音楽の先生が怖かったからだと思う。

 受験が終わりつつも、しっくりくる居場所がまだ見つからないなか、どこかでいつか聞いたハーモニカの音色が頭に残っていた。類似の曲を聞くうちに、自分でも奏でてみたいとふと思った。大袈裟な楽器をやる勇気はなかったが、この小さな楽器なら友達になれそうな気がしたのだった。

 ハーモニカには三種類あり、それぞれ音色や演奏方法が異なる。三種の詳細は省くが、今回はそのなかの複音ハーモニカというものを選んだ。2枚のリードが震え、一吹きで綺麗な和音が出るもの(他のハーモニカはリードが一枚だけ)。小さな楽器だが、息の使い方で様々な音色、曲調が表現できる、ポケットに入るオーケストラとも呼ばれる。


苦手な楽器を買うのには勇気がいる。


 家族には聞かれたくない(それは今でも恥ずかしくてやれない)が、ハーモニカの小ささなら、どこか別の場所でこっそり練習できる。(4年経った今でも、家族の前で吹いたことはない。)とりあえず、近くの公園で練習を始めた。久々に楽器を触るのにはなかなか勇気が必要だった。が、やってみると意外にも自然で、何より心地よいものだった。歌とは別に、自分の意で音色ができていく純粋な楽しさが、それを一番支えていた。

 一年生の後半になって、大学で徐々に心的、物的な自分の居場所を見つけ始めたが、ハーモニカも余暇に吹いて、少しずつ曲数が増えていった。

 探検部で無人島探査を夏にしたとき、初めてハーモニカを家の外へ連れ出した。夜中に海辺で1人で吹いていたところ、部同期の女子が音色を気に入ってくれて、気づいたら付き合っていた。
 そんな初めての恋人とは3ヶ月ほど、12月で別れた。それ以降はしばらく寂しい時間を過ごした。今はもう未練はないが、当時は寂しさを紛らわせるために、河原で1時間ほど吹いて家に帰った。その期間、自然と曲のレパートリーが増えていった。


一年ほど経ったとき、少し良い現在持っている機種(右)に買い替えた。音色が少し柔らかい。
左には一年、二年のときの思い出が凝縮されていて、今も保管している。

 それが無くても、結構自分は寂しがり屋さんなのかもしれない。
旅先では、1人のときが長く続くと、なんだか寂しいというか、満たされない感じになってしまう。誰かと強く共有したいときが、時々ある。そんなときは、ハーモニカがないと、ちょっとどよーんとなってしまうことがある。だから絶対に持って行き忘れないようにしている。
 最終的に、子供のころからずっと嫌いだった「楽器」と、初めて友達になれた。

 

 先日大切な人が、長い旅へと出発していった。手紙に添えて餞別の品に一本の複音ハーモニカ。体験を押し売りするつもりはなかった。でも、一年に及ぶ長旅で、きっと良い相棒になってくれるはずだから、前々からあげると決めていた。

見送る前に込み上げるいろんな気持ちと一緒に、お茶の水へ。二種類ほどに絞って、お店のサンプルを試奏して決めた。(店の中で他の人も居るなか試奏するのはやや勇気がいるので、そこは手短に済ませる)

最終的に選んだのは、僕が最初に買ったのと同じハーモニカだった。
客観的に考えると、選別の品としてハーモニカを渡すのはかなり謎部類になるが、渡したときは嬉しそうに受け取ってくれた。

 遠く離れていても、贈ったハーモニカの音色が、地球の裏で見る風景、思い出の一シーンを彩ってくれたなら、それで嬉しい。来年、また会う頃には何か2人で一曲吹ければいいなと思ったり。そのときは、僕も上達しているんだろう。

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