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批評ができると、人生が面白くなる。「批評の教室」北村紗衣 著

映画のレビューアプリ「Filmarks」を見ていると、たまに「すごい深読みをしているな」というレビューに出会うことがある。物語で描かれている小物や流れている音楽、監督の趣向など、知らなくても楽しめるけど、知ったらより楽しめるようなことについて書かれているレビューを読むと、自分もそういったレビューが書けたらいいのになと思う。

「批評の教室」は武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授の北村紗衣さんによる、批評初心者のための入門書だ。批評のステップを「精読」「分析」「書く」の三つに分けて解説している。どうすれば文芸作品を始め、広告やファッション、さまざまなプロダクトに至るまで、言葉では語られていない意味を見出すことができるのか、その問いにとてもわかりやすく答えている良書だ。

では、本書を読み終わって批評ができるようになるとどうなるのか。そもそも批評をするとはなんなんなのか。本書の言葉を借りれば、批評とは、「作品の中から一見したところではよくわからないかもしれない隠れた意味を引き出すこと(解釈)と、その作品の位置付けがどういうものなのかを判断すること(価値づけ)」だ。批評・批判というと、その語感からネガティブな印象を抱く人もいるかもしれないが、批評とは自分がどう思ったかを言語化することであり、対象を貶める行為では決してない。批評とは、「面白い」とか「綺麗」といった感覚で得たものを、解きほぐす行為なのだ。

批評をする上で、対象の周辺知識を知ることは欠かせない。逆に言えば、批評をすればするほど知識が身につき、作品をいろんな尺度から見れるようになる。それはストーリーラインだけを追うよりもはるかに充実した体験だろうし、一つの作品を何度も何度も楽しめる、ということでもある。さらに、Aという作品で仕入れた知識が、実はBという作品とも繋がっていたと気づくと、脳は一気に活性化し、喜ぶ。

そこでは語られていないことに気づくスキルは、何もエンタメコンテンツを楽しむときだけに発揮されるものではない。たとえば、プレゼン資料や新商品の企画書などを精読すれば、相手が何を伝えたくて、何を伝えたくないのか気づくかもしれない。また、取材やユーザーインタビューの場では、相手が繰り返し使う言葉や、無意識に大事にしている視点に気づくことで、本人も気づいていなことに気付けるかもしれない。

批評は、自分の読み取れる世界が広がり、深まることだ。これまで興味を持てなかったことにも興味を持てるかもしれない。さらに、批評を続けることで自分の価値基準が明確になり、自分が何者なのかについてもより知ることにもつながるだろう。






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