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隠れ家過ぎてむしろ心配な高田馬場の白カレー。

「エチオピア」、「シャンティ」、「ブラザー」、「プネウマ」、「プネウマ」etc。

酒とラーメンの街、高田馬場はカレーの街でもある。上に書いたのは、全てカレー屋の名前だ。そんな数あるカレー屋の中でも一際お気に入りで、いろんな意味で愛してやまない店がある。「白カレーの店 1/f ゆらぎ(エフブンノイチ ゆらぎ)」だ。

その名の通り、白カレーをウリにしたカレー屋だ。ホワイトシチューのような見た目でありつつ、しっかりとスパイスがきいていてまろやかな辛さを醸し出している。数時間は煮込んでいるであろうルーには、具がこれでもかと溶け出している。あまり水を使っていないのかわからないが、市販のカレールーを使ったルーよりもドロっとしていて、旨味成分が凝縮されている気がする。

トッピングも充実していて「コロッケ」、「ウインナー」、「チーズ」、「カツ」の4種類。僕はいつも、「白カレー」に「チーズ」と「カツ」を加え、そこに福神漬けをたんまりとのせていた。おそらく、その一食だけで相当なハイカロリーだったと思うが、カレー・カツ・チーズの三位一体にはどうしてもあらがえず、いつもこのセットを頼んでいた。

カツは肉厚でサクサクの衣身に纏っており、これがまた白カレーとよく合う。カレーとカツなんて、合わないわけがないんだけど。

なぜ、「白カレーの店 1/f ゆらぎ」に出会ったのか。そのきっかけをはっきりとは覚えていない。「白カレーの店 1/f ゆらぎ」は、24時間明かりと騒ぎの絶えない高田馬場ロータリーから伸びる早稲田通りを一本奥に入った神田川沿いにひっそりと店を構えている。

ちょうど神田川を挟んだ向かいにあるカフェでバイトをしていて、たまたま見つけたのかもしれないし、「高田馬場 カレー」でググって見つけたのかもしれない。でも、確かに誰かに教えられた訳ではなく、自分で見つけたことだけは覚えている。しかも、友人の多くがその存在を知らず自分だけの「隠れ家」を見つけた気になって、高田馬場に住んでいた7年の間、何度も足を運んだ。

「白カレーの店 1/f ゆらぎ」に初めて訪れたとき、僕以外に一人も客がいなかった。一歩挟んだ大通りにはあれだけ大量の学生がいるというのに、それとは対照的に店は店長のかけるラジオだけが静かに流れていた。その光景は何度足を運んでも変わらなかった。数十回はこの店に訪れたはずだが、一、二回しか他の客と鉢合わせなかった。席の数は十席近くあるのに、だいたいいつもガランと空いている。こんなに美味しいカレーを出しているのに、なぜ人が来ないのか不思議でしょうがなかった。

店に行くたびに人が居ないものだから、いつか潰れてしまうのではないかとヒヤヒヤしていた。今日が最後の白カレーになったらどうしようと思っていた。「隠れ家」的に自分だけのお店だぜ、と思いつつ、もっと布教しなければならない、少しでも足を運んで存続させなければならない、という謎の使命感のアンビバレントな感情を抱いていた。そんな思いが、この店をよりいっそう好きにさせているのかもしれない。

同じ通り沿いにあった早稲田生が愛していたラーメン屋「べんてん」はいつも大盛況なのに潰れてしまった一方で、全く客入りが伸びているように見えない「白カレーの店 1/f ゆらぎ」は潰れることなく、今でもマイペースに運営している。

ところで、この店についている「1/f ゆらぎ」とは、これ自体が一つの言葉で、快適性に関係のある音やモノの揺れを表しているらしい。例えば、ろうそくの火や人間の心音、さらには神経細胞が生体信号として発信している電気信号の発射間隔も「1/f ゆらぎ」のリズムだそう。

ひょっとすると、この店の存在自体がなんらかの不思議な「ゆらぎ」を生み出して、店を存続させているのかもしれない。今の状況が終わっても、また美味しい「白カレー」で来る人の心とおなかを心地よくさせて欲しい。


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