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わたしはわたしの傷であり、あなたはあなたの傷である

ジョー・ブスケという詩人がいた。彼はフランスのナルボンヌで生まれた。ブスケは21才のときに第一次世界大戦に参加して、負傷。半身不随になり、以降の人生をすべて、鎧戸を締め切った寝室のベッドの上で過ごした。この記事の表題は、ブスケのつぎの言葉に由来している。 個体性とは傷である。その人の傷が、その人を個体として成り立たせる。こうした息を呑むような主張がブスケの魅力だ。このテーゼはどういう意味だろうか。個体性とは、あなたとわたしを分かつものだ。あなたの傷をわたしは分からないし、あ

    • シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』の読書ノート

      高校には大きな図書室があって、私の一番好きな場所だった。岩波文庫や講談社の学術文庫がほとんど全部揃っていて、帰宅部だった私は、窓際に並んだ机で毎日のように本を読んでいた。 自分の背丈を超えて並ぶベージュ色の背表紙の中から、『重力と恩寵』という断想集を手にとったのは2年生の時だった。タイトルから難解な哲学書を想像していた。想像に反して、それは人の魂や、神学、ギリシャ悲劇、不幸、労働などのテーマについてのメモ書きをまとめたような本だった。読んだ当時のノートが残っている。 表題

      • あんまり人の誕生日に暗い本ばっかり送りつけるべきではない

        これは友人の誕生日におくった3冊の本の短いブックガイドです。3冊とも、本屋で平積みされる本でもなく、著者も知らない人、タイトルもなにか難しそう、なんだこの変な本、と思われて終わるのも悲しいので、説明書きを付そうと思って作ったのがこのnoteです。 1. 永井玲衣『水中の哲学者たち』 わたしは、どんよりとした苛立ちに心を浸しながら「どうか世界がこれ以上速くなりませんように」と祈った。(『水中の哲学者たち』P.101) この本は三冊の中で一番新しく、つい先月発売された。著者

      わたしはわたしの傷であり、あなたはあなたの傷である

      • シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』の読書ノート

      • あんまり人の誕生日に暗い本ばっかり送りつけるべきではない