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メンヘラの相手は休み休みにしてくれ~チャイコフスキーのファゴットへの偏愛???~

8/18に開催するアンサンブルSAKURA第40回定期演奏会は、一昨年の7月に開催した第38回定期演奏会以来となる、チャイコフスキーの作品をメインとする演奏会です。

SAKURAのファゴットの団員が、なにやらチャイコフスキーに対して色々言いたいことがあるそうで、話を聞いてみました。


チャイコフスキーというよりも、SAKURAの選曲委員に物申したいですね。

メンヘラ(チャイコフスキー)の相手は本当に大変だから、頻繁に選ばないでくれ

それというのも、チャイコフスキーという作曲家は、交響曲において、プレッシャーのかかるソロをファゴットに多く書くのです。技術的にも大変演奏しづらく、それなりの演奏技術がないと取り組むのが辛い作曲家です。チャイコフスキーの交響曲を演奏するのが好きだというファゴット吹きは、楽器を真面目に練習したことがないのではないかと、まずは疑います。ちょっと信用できないですね。

もちろん、観客として見聞きする分には最高ですよ。バレエとか、チャイコフスキーがいなければここまで発展してませんよね。特にくるみ割り人形とかワクワクする音楽が目白押しで、類い稀なメロディーメーカーです。本当に素晴らしい才能だと思います。

それはさておき、チャイコフスキーの何が大変かというと、例えば、一昨年SAKURAでも取りあげた小ロシアと悲愴。どちらも冒頭はファゴットのソロが印象的な作品で、ファゴットがこけたら曲の雰囲気をぶち壊します。伴奏なんてあって無いようなもので、プレッシャーのかかるソロです。

悲愴の冒頭など低い音域の音が連続していて、リードの選択、調整を間違えると音が途切れる危険が高まります。しかも強弱が細かに指定されていますから非常にやりづらいです。

↑交響曲第2番

↑交響曲第6番

悲愴の160小節目なんて「pppppp」ピアニッシシシシシモ、なんていう良くわからん弱奏を強要されますし、しかもその直前はクラリネットという、音量を絞るのが得意な楽器が音量を徐々に絞ってくる訳です。バスクラリネットで置き換えることも多いですが、ファゴットで吹く場合はクラリネット奏者が適切に音を絞れるよう、フェルトを楽器の先端に詰めて音を絞る(ミュートをする)などの対策を施す必要があります。通常では行わない対応であり、非常にプレッシャーのかかる場面です。

ファゴットは、金管楽器のように大きな音を出すことは出来ず、かといって悲愴のような極端に小さな音を出すのも不得手です。楽器、マシンとしての性能が低く、欠点の多い残念な楽器ですから、こうした極端な指示を出されると難儀します。

5番の第1楽章の最後、低いシの音の伸ばしも嫌ですね。ここも音量がppの指示ですが、弦楽器の中でファゴットの音はどうしても浮いて聴こえてしまいます。こうした低い音は音量の制御が難しく、これをppで吹けというは、無茶な話です。



1番(冬の日の幻想)も沢山のソロが沢山ありますね。冒頭のトレモロはトリルよりも音の高さの差が大きいですから、まずは正しい音でトレモロを演奏できるよう、運指を探すところから始めないといけません。


交響曲第4番も大変な曲です…

とにかくチャイコフスキーの交響曲は、曲の成否を決める大切なソロが、ファゴットに多く割り振られています。今回SAKURAで取りあげる交響曲第4番も例によって大変なソロが盛りだくさんです。

中でも、第2楽章の最後のファゴットソロはその最たるもので、楽譜には「(消え入るように)」と書かれており、曲の最後に向かって段々と音量を小さくする必要があります。

この小さくするよう指示されている音というのが、左手親指のウィスパーキーだけを抑える、ファの音(ヘ音記号の基準となるファ)なのです。

基本的に木管楽器は指やキーで抑えている音孔が少ないほど音が制御しづらい(反面、大きな音を出しやすい)のですが、この音は抑えているのがたったの1ヵ所だけなので、楽器の音程、音量のコントロールが難しいのです。

プロ、アマ関係なく、ファゴット奏者から嫌われている


とにかくここまで不平不満を並べ立てましたが、それだけチャイコフスキーの交響曲は、ファゴット吹きにプレッシャーのかかる場面で苦手なことを強いてくる「嫌で、不快で、重たい」存在です。曲をものにするために要する手間隙が他の作曲家よりも多く、さながら「私に注目(注力)しないと、なにしでかすか分からないわよ(※)」と脅迫されている気分です。本来、こうした技術的なプレッシャーよりも、作品の魅力が上回って練習に励もうという気持ちが湧いてくるものですが、チャイコフスキーの場合はさにあらず。演奏する側でプログラムの中にチャイコフスキーの文字を見ると気が滅入ります。他人の演奏を聴くのは、いいですけど。

※チャイコフスキーは同性愛者だったという説があります。また、繊細で精神的に不安定な人物だったとも言われています。

元N響オーボエ首席奏者の茂木大輔氏の「オーケストラ楽器別人間学」にもこのチャイコフスキーとファゴット奏者のことについて記載があり、N響のファゴット奏者に対して「不快作曲家」を挙げて欲しいと聞くと全員から「チャイコフスキー」と即答されたそうです。

アマオケの場合、その嫌な、苦手な作曲家を半年練習し続ける訳ですから、ストレスもそれなりです。かく言う私奴も、前々回のオールチャイコフスキープログラムの際、演奏会直前は首から下の全身に蕁麻疹を患い、大変な思いをしましたね。演奏会が終わったら何事もなかったかのように治りました。

本日、天気晴朗ナレドモ浪高シ

ここまで気が滅入るだなんだ、色々言いたいことを言ってきましたが、夏の暑い盛りの時期に、わざわざ私どもの演奏会に足を運んで聴きに来て頂く皆様には、これまで述べてきた奏者の側のこまかな事情、不平不満というのは一切関係ありません。

オーケストラとしてチャイコフスキーの4番をやると決まった以上、最大限の努力を行い、足を運んでくださった皆さんのために、この曲を仕上げるのは、実に当たり前のことです。

頑張ってさらおうとか、いい演奏をしようとか、その程度の意思では、チャイコフスキーの交響曲からくるプレッシャーに勝てません。一音たりとも討ち漏らさない、返り討ちにしてやる、そのくらいの殺意に似た覚悟で懸命に取り組むことで、ちょうどバランスがとれると思ってます。

最終的には「天気晴朗ナレドモ、浪高シ」という気持ち、心構えで本番に臨めるようにしなければいけません。

前々回の小ロシア、悲愴の回で発揮したパフォーマンスのさらに上を行けるように、リードも、また、件の第2楽章のソロも周到に準備を進めて迎え撃つ所存です。

どうぞご期待ください。

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アンサンブルSAKURA第41回定期演奏会≪オーケストラの休日≫
日時:2024/08/18(日)13:00開場14:00開演(予定)
会場:IMAホール(都営大江戸線光ケ丘駅前)
指揮:高石治
入場料:1,000円(当日券あります)

曲目:
軽騎兵序曲/スッペ
パノラマ(眠れる森の美女)/チャイコフスキー
葦笛の踊り(クルミ割り人形)/チャイコフスキー
情景(白鳥の湖)/チャイコフスキー
威風堂々第1番/エルガー
「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲/マスカーニ
禿山の一夜/ムソルグスキー
交響曲第4番/チャイコフスキー

公式HP
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公式note(毎月第2,4日曜の練習日更新、演奏会前は毎週日曜更新)
https://note.com/ensemblesakura

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