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北欧の深い森と山々にやってくる朝「ではない」らしい


春は曙、やうやう白くなりゆく山ぎはすこし明かりて、紫立ちたる雲の細くたなびきたる


清少納言の随筆「枕草子」の冒頭は、街の東側を比叡山などの山々に囲まれた、京都(平安京)の景色を彷彿とさせます。山々の稜線が少しずつ明るくなり、やがて朝日がゆっくりと顔を出し、時間をかけて明るくなる。周りを山に囲まれた地ならではの、朝の風景かと思います。

グリーグの代表作である劇付随音楽「ペール・ギュント」。その中でもとりわけ有名なのが「朝」です。

森にゆっくりと朝日が差し込み鳥達がさえずる、穏やかな朝を思わせます。曲に使われている音もシンプルそのもので、余計なものがありません。澄みきった響きがします。

画像はイメージです

グリーグは北欧のノルウェーの人


ノルウェーをはじめとする北欧の国々には、長年の氷河による侵食で造られた深い谷と、それに伴って形作られた細長い入江(フィヨルド)があちこちにあります。外洋の波の影響がほとんどない静かなフィヨルドと、それを取り囲む深い山々と森。

静かで美しい景色をグリーグは好み、街外れの自然の中に自宅を構え、徒歩で山に、あるいはカヌーでフィヨルドに繰り出していたそうです。

かの国ではきっと、日本の京都に負けず劣らず、朝はゆっくりと明けるものなのでしょう。

↑グリーグの自宅(トロルハウゲン)

劇中の「朝」は、北欧の朝ではない


「朝」に使われている和音はシンプルそのもので、(音程が合っていれば)非常にスッキリとした曲です。音楽だけ聴いていると北欧の澄んだ空気を湛えた朝そのものです。

しかし、実際の舞台は北アフリカはアルジェリアの砂漠のど真ん中、という設定です。

砂漠というと、遮るものは何もありません。朝から夕方まで容赦なく太陽が照りつけ、蠍や蛇といった野蛮な生き物が跋扈し、昼と夜との寒暖差も激しい…。穏やかに過ごせる環境ではありません。

どうもグリーグの朝のイメージというのは、砂漠の朝というよりも、北欧の朝のイメージに寄っているようです。当時のヨーロッパの人々が旅行するのはせいぜいイタリア、ギリシャまででしょうから、無理もありません。

それを思うと、インターネットもない時代に蝶々夫人、トゥーランドットといった、極東の国々を題材にしたオペラを書く、イタリアのオペラ作曲家プッチーニのリサーチ能力は優れたものです。音楽もそれとなく東洋を思わせるものですし、登場人物の名前もちゃんとそれらしいものがついています。

朝ではなく「朝の気分」

ここではまず、ペールギュントのあらすじを振り返ってみましょう。まずは先日のnoteをご参照ください。

主人公のペールはアフリカで奴隷の売買で大金を稼いだものの、全財産を載せた船を客に騙し取られて無一文になります。

モロッコの砂漠の真ん中にひとり取り残されたペール。ここはどこ、私は誰、この後どうすればいいのと、浦島太郎よろしく虚無感に苛まれます。豊かで美しい音楽に似つかわしくない、侘しい場面で演奏されるのが「朝」なのです。

仕事で成功を収めた矢先に無一文になってしまった主人公のペールにとって、砂漠の過酷な気候など、もはやどうでもいいことです。酷暑の中、思い返すのは何年も帰っていない遠く離れたノルウェーのことばかり。

長く、複雑で壮大な「ペールギュント」の音楽を作るのは、グリーグにとって難儀な仕事でした。グリーグは仕事を進めるにあたってあれこれ考えた末に、物語の情景に対してではなく、登場人物の心にフォーカスして音楽を作ることにしたのです。

グリーグの「朝」は、オーケストラが演奏する楽譜には「Morgenstimmnng」と書かれています。つまり、単なる朝ではなく「朝の気分」というのが正しい訳です。舞台の情景ではなく、主人公ペールギュントの心にフォーカスしたのが、曲のタイトルからも分かります。何もグリーグは舞台と関係の無い、見当違いな音楽を作ったわけではないのです。

北欧の爽やかな朝か、砂漠の真ん中で虚無感に苛まれる朝か、どちらを想像するかは皆様の自由です

オーケストラとしては爽やかな北欧の朝をイメージ頂けるようにしたいのですが、いかんせんシンプルな和音で曲が作られているので、音程がしっかりとはまらないと、爽やかさが出せません。

しっかりと音程を整えて、砂漠の不快な気候ではなく、北欧の森の風景をイメージ頂けるよう、演奏したいと思います。

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アンサンブルSAKURA第40回定期演奏会
日時:2023/11/19(日)12:30開場、13:00開演
⚠️⚠️通常より開演が1時間早まっています。ご注意ください⚠️⚠️

会場:浅草公会堂
指揮:高石治
入場料:1,000円
曲目:
グリーグ/ペールギュント 抜粋
シベリウス/フィンランディア
シベリウス/交響曲第1番



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