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アメリカ著作局と特許・著作権局のNFTレポート(2024年3月)を一部ご紹介

米国特許商標庁(USPTO)と米国著作権局(USCO)は、2024年3月12日、「Non-Fungible Tokens and Intellectual Property」と題する報告書を議会に提出しました。
この報告書では、NFTにまつわる著作権、商標権、特許権にまつわる問題について記載がなされています。

本報告書によれば、NFTと著作権に関しては、30頁にわたって記載されています。その問題点は、以下の3つのカテゴリーに分けられますとします。
①NFTのマイニング、保管、マーケティング、および移転が著作権法にどのように関連するか
②権利者がNFT関連侵害に対してどのように権利行使するか
③NFTが著作権のエコシステムでどのような役割を果たすか

本記事では、今回は①について、簡単に内容をご紹介いたします。

まず最初に、NFTのミント段階では、3つの問題があるとしています。 

  • ミントにより著作物について新しく複製を行う場合には、著作権者の複製権を侵害する可能性がある。特に、作品をトークン化することが独占的な権利を侵害する可能性がないかという問題点があり、近時訴訟が提起されたが取り下げられたため、米国裁判所での判断は現時点でなされていません。

  • ミントされたNFTがAI生成作品である場合、その作品が著作権で保護されるかどうか問題があること。また、権利者でない者がミントした場合の保護手段が非常に薄いこと。

  • 作品とは別に、NFT自体の基になるコードがソフトウェアの著作権で保護されるかどうかの問題があること。特にメタデータやスマートコントラクトのリソース識別子などは保護されないのではないかという議論がなされています。

次に、保管段階では、多くの作品はトークンと異なる場所(オフチェーン)に保存されますが、作品がブロックチェーン上に保存される場合(オンチェーン)には、複製物が生成されます。オフチェーンに保存される場合であっても、スマートコントラクトやパラメータによっては、配布する権利や表示する権利の問題が発生することがあることや、分散型ストレージの場合には複数の複製物が生成されうることから、執行に際しても問題が生じえます。

マーケティングとの関連では、例えばサムネイルのクリックにより大きな画像を確認できるようなケースでの複製権・公衆送信権やフェアユースの問題があります。NFTの対象物が音楽である場合には、作詞作曲の権利と原盤権が双方処理できているかという問題も発生します。

NFTの移転との関連においては、それが必ずしも作品に関する著作権の移転と紐づいていないことは、従前より指摘されている点ですが、注意が必要となります。スマートコントラクトで十分な移転ができるのか、プラットフォームの利用規約の適用はどうか、転売された場合の転売先の第三者はこれらの契約等に拘束されるのか、などが問題となります。個人的に興味深い例と感じたのは、NFTの購入者はある程度その基礎となる著作物について何らかの権利・利益を期待してNFTを購入しているかと思うのですが、ある権利者が、NFT販売後、NFTに関連する作品をクリエイティブコモンズのCC0(権利留保なし)とすることにしたそうです。それにより、NFT保有者は、ライセンスの権利を失うことになった、という問題が発生したそうです。このような混乱の軽減としては、消費者とクリエイターの知的財産権関連の教育が重要である、とされています。

こちらのポストでは、①の部分について取り上げましたが、②執行に関する問題点や③著作権エコシステムとの関係(転売が行われた時に著作権者に還元する点や著作権登録制度をNFTに代用することなどの検討)も取り扱っており、日本でNFTの法的問題を考えるにあたり、とても参考となるものとなります。

NFTの登場により、著作権法に関して新たな問題を提起するものでは一般的にはなく、問題点は主に消費者の混乱と契約関連である、ということが本報告書の結論ではあり、その点はその通りだと考えられます。
AIと著作権の問題に押され、最近はNFTの議論について一時期と比べ多くが語られているわけではないような印象ですが、今までのNFTの議論をコンパクトにまとめた非常にわかりやすい報告書でしたので、興味のある方はぜひ報告書をご覧になられてください。


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