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なぜ記者はスクープを求めるのか スクープが必要なワケ



■記者とライターの違い

お笑いコンビ・ダウンタウンの松本人志さんが週刊文春の報道を受けて、芸能活動を自粛しています。週刊文春は松本さんから性被害を受けたとされる複数の女性の証言を掲載し、松本さんや所属する吉本興業側は真っ向から否定。長年お笑い界の頂点に立つ松本さんをめぐる報道だけに、コメンテーターやSNSなどの”外野”からは様々な意見が飛び交っています。

ここでは、週刊文春による報道の是非について議論するつもりはありません。報道が事実であれば松本さんは何らかの説明や謝罪が必要で、誤報であれば週刊文春は責任を取らなければいけません。松本さんは22日、週刊文春の発行元・文藝春秋に対し、名誉毀損による損害賠償と謝罪広告の掲載などを求めて東京地裁に提訴しました。

私はスポーツ新聞社とテレビ局で計15年間、記者やデスクを経験し、3年前にライターとして独立しています。はっきり言えるのは、記者とライターの仕事は似ているようで全く違います。そして、記者にはスクープが必要であり、求められていると考えています。

記者とライターの違いについては改めて詳しく説明する場を設けますが、端的に言えば「記者は情報を商品にしている仕事」、「ライターは情報を分かりやすく伝える仕事」だと個人的には感じています。

■スクープを狙わない記者は「失格」

記者は社名を名乗り、名刺を渡せば、大半の人に会って話を聞ける仕事です。また、担当が明確に決まっていて、その分野に関して詳しく知ることができます。例えば、スポーツ新聞社のプロ野球担当であれば、各球団に番記者がつきます。一般紙やテレビ局の社会部であれば、警察本部の刑事部や交通部、所轄など担当が決まっています。

会社の規模によって、各記者が担当する範囲には違いがあり、担当以外の取材もします。ただ、担当を任されている以上、日頃から人脈をつくり、発表される内容以上の情報を持っていなければプロとは言えません。つまり、記者にとっての商品は情報であり、情報を取れない記者は失格と言わざるを得ません。

皆さんが、イタリア料理店に行ったとします。その時に出されたパスタが、自宅で食べるレトルト食品と同じレベルの味だったら、シェフはプロ失格と感じるはずです。情報を商品にする記者に求められるのは、インターネットで調べられる程度の情報や公式な発表をなぞっただけの情報ではなく、他の人には入手できない価値のある情報発信になるわけです。

そう考えると、スクープを追い求めない記者は、記者と呼べません。スクープを狙わない記者は、職務を放棄していると言えます。では、スクープには、どんな意義やメリットがあるのか。私自身の経験から、いくつかお伝えします。ただし、スクープは真実であり、誤報ではないということが大前提です。

■スクープのメリット①

まずは、売上への貢献です。マスメディアは非営利団体ではありません。同業他社との競争に勝ち、売上や利益を上げることが求められています。その時、他社にはない独自情報は大きな武器になります。実際、週刊文春が社会的な関心が高いスクープを報じた号は大幅に売上が伸びています。

スクープは単発でも威力を発揮しますが、繰り返すことで媒体の信頼度アップにつながります。最近は新聞やテレビが週刊誌の後追いをするケースばかりですが、中でも「文春砲」という言葉まで一般的になった週刊文春の存在感は圧倒的です。人々が情報を欲する時、「文春砲に期待」とうたわれるほど信頼感や期待値が高くなっています。

スポーツ新聞のケースは、どうでしょうか。単独スクープが1面に掲載されれば、駅やコンビニでの売上は伸びます。中・長期的にはスクープを連発していると、他社との競争で優位に立てます。お気に入りの選手が試合で活躍した翌日、ファンは番記者による裏話を期待します。スクープを取れる記者は情報収集能力に長けているので、選手が活躍した時に備えて「いい話」をストックしています。スクープ以外を報じる紙面でも売上に貢献できます。

■スクープのメリット②

それから、スクープを取れる記者や媒体には、価値の高い情報が集まるメリットもあります。担当記者が決まっている新聞やテレビの場合、大半のスクープは、どの記者によるものか関係者の間で予想がつきます。記者の能力は把握されているわけです。

例えば、与党の政治家が野党の情報を求めているとします。自ら直接動くのは難しいため、記者に探りを入れるケースがあります。その時、情報を持っていない記者と接触はしません。なぜなら、時間を費やしても有益な情報を得られないからです。

選ぶのは価値の高い情報を持っている記者。そして、その記者は接触してきた政治家の質問内容などから新たな情報を得ることができます。情報を持っている記者には、情報が集まってくる仕組みになっています。

これは媒体でも同じです。週刊誌に価値の高い情報提供が集まってくるのは、それだけスクープを取る力があると判断されているからです。

■本当に意義のあるスクープとは

スクープと言っても、芸能人のゴシップ、スポーツ選手の移籍、政治家の不正など様々なジャンルがあります。本当に意義のあるスクープは「報道しなければ埋もれていた事実」だと、私は考えています。

著名人の結婚や妊娠は、遅かれ早かれ、当事者が公にします。翌日に結婚発表する情報を入手して、スクープとして大きな顔をするのは違和感があります。一方、警察や政治家の不正を暴くスクープは、隠されたままでは国民の不利益になるため、評価されるべきだと思っています。

話題になっているスクープを見ると、熱愛や不倫といったゴシップが大半を占めている印象です。売上につながあるメリットが大きいので、週刊誌はゴシップに注力します。裏を返せば、読者がゴシップに高い関心を持っているためです。スクープは社会を映す鏡にもなっています。



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