遠方よりレストランを望む

パンフレットに《十九世紀の要塞》という記述があるいじょう、どこか近くに《レストラン》もあるはずだなんて考えながら
扉ごとに色のちがう表札に気をとられていたし
馬車とすれちがい、馬車においぬかれ
どの交差点までもおなじくらいの距離がのこった
郊外からは不燃物が集まり、野球場ではちょうど好機に代打が起用されていた

《木星は環のない土星》、そういう名のカフェを出てぼんやりするとそこが湾岸通りである
ひと種類の番地しか持たず、標識もなければめじるしもない
どこに行ったとしてもきっとだれもどこにも行けない
通説によれば、そこに《普通列車》と呼ばれる船が着き、そこから《島のかけら》と呼ばれる島をめざせばよかった

おもいおこせば、おいぬいてゆく馬車のかげに広告を見たり、不燃物のなかにはお皿だろうかお碗だろうか、破片らしきものも混じっていた。
なにもかもがなにかを指し示し、そのなにかを遠ざける
ほんとうに島なのか、いったいどの島が《島のかけら》なのか
そもそも《レストラン》とはだれなのか

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