傘下の季節

西久保遥

傀儡のような風が千も消えていく
開かない窓がはめ込まれた踊り場で
雨だけが言葉を真似るような真昼間に
コップのふちをくるくると回る絶望が口をきく
私は頭の端の蝶番に手を伸ばし
音を立てて思考を閉じた
螺旋階段を降りていく

海から一番遠いのは凪だった
頭の欠落した帽子は感情を持て余し
死ねば恋のように激しく息を吹き返した
文字だけの本を絵本と言い張る子供が
常夜灯を倒して夜を海に放る
傾斜のない
直線の先に直線を繋げた大地をどこまでも
足音の絶えない晩秋をどこまでも
紐を辿って歩いていたら
あなたの靴が埋まった場所を蹴った
壁に手をやって頭を反らす
ここもよく見えているらしい
恋人たちが缶を置いて立ち去っていった

体の隅々から悲しみは集まってくる
誰だか眠くならないと言った人は
今は雨の降る日にだけ眠り続けている
電線を揺らす鳥たちを起こさないで
あれは誰かの記憶なのだから
引き出しを開けると奥から転がりでてくるように
私の中のあなたもまた取っ手のないドアを探している
ごつごつと急ごしらえの街を駆け抜けた
水たまりにガソリンの虹が浮かんでいる


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