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できれば3ヶ月に一度くらいのペースで金沢の鈴木大拙館で涙を流したいと思っている

#このデザインが好き

谷口吉生さんという建築家がいる。ものすごくディテール(細部)にこだわった設計をされる、銀髪の紳士だ。本来どうでもいいことだが、ご本人の見た目までかっこいい。

谷口吉生さん。イケメソ

谷口さんの設計作品は丸亀源一郎美術館、豊田市立美術館、土門拳美術館、法隆寺宝物館などなど可能な限り見て回ったのだけど、その中でも一番好きなデザインがここ。金沢市内にある、鈴木大拙館の、思索空間。

左の白い箱が思索空間と呼ばれる部屋。池に面している
思索空間に座ると見える水盤やその向こうの山

初めて2018年に訪問した時は、大学の後輩で、金沢にUターン移住をした友人Kに案内をしてもらった。出張の後に半日有給を取って観光をして帰ったのだけど、夏の暑い日で、思索空間で涼みながら1時間半くらい静かにおしゃべりをしながら過ごした気がする。Kに会うのも10年ぶりくらいだったから、話すことはたくさんあって、普通の観光客は5分くらいで満足して通り過ぎるスペースなのに、なかなかの長期滞在。

そこで、彼の育児生活(男性で、公務員をやっていたのに、当時は3人の小学生以下の子供の世話をするために育児時短就業をしていた)の話を聞いたり、私の労働生活(女性で、お母さんなのに、フルタイムで働いてベビーシッターやらお手伝いさんやらをフル活用していた)の話をしたりして、お互いそれぞれ世の中の平均からは随分ずれてるけど、ずれ幅でいうと似たようなものだし、どっちも家族2.0だね、なんて話をした。すごく遠いようで、共通項もたくさんあった。子供たちが伸び伸びしていることとか。

気がついたら、日頃の疲れからなのか、涙がボロボロでて止まらなくなっていた。Kとの会話で母親としての後ろめたさを勝手に味わっていたせいもあったけど、そっと心を撫でて、涙を出させたのはあの谷口さんの設計された空間の力だと思う。Kは昼間から公共の場でボロボロ泣いている私にハンカチを差し出すでもなく、ワンピースの裾で涙を拭く私を実にいい距離感で放っておいてくれた。あるいは気がついていなかったのかもしれない。

ちなみにこの空間で特に粋なのが、水盤の中にポンプのようなものが仕込んであって、2−3分に一回、ボコンと水紋を発生させる仕掛け。ずっと水紋を見ながら消える頃までに呼吸を繰り返していると、またボコン。広がる輪っか。呼吸。雑念を山へ返す。呼吸。呼吸。涙。ボコン。輪っか。放念。そして呼吸。

あの日、「私はこの部屋に3ヶ月に一回くらいのペースで訪れ、涙を思う存分流したい」って割と意味不明だけど強く思った。

あれから5年経って、実はまだその夢は完全には実現できていないのだけど、2018年以来もう金沢は7-8回訪問しながら私なりの応えを模索している。この夢(と言ってもいいと思う)は金沢に町家を買えたらきっと叶うはずなので、良い出会いにがありますようにというのと、これはもはや時間の問題だぞ、という気合の念もここに記録しておく。



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