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宮本武蔵 一条寺の決斗

内田吐夢監督、萬屋錦之助主演のこの映画は、時代劇でいちばん好きな映画のひとつになりました。

なんか私の思い出ばっかりで「思い出映画館」とでも題名に変えた方がいいかなって思ったりもしたんですけど、新しく見た映画も語りたいです。

萬屋錦之助主演の宮本武蔵は5部に分かれていてとても長いです。テレビ東京で何度か放映されていたんですけど、いつも途中で挫折してしまってました。配役は佐々木小次郎がへたっぴな高倉健だったりで違和感もあるし、お通に花がないし、出来もも一つで古いしなって思っていました。

でも、第四部「宮本武蔵 一乗寺の決斗」は傑作でした。この話は宮本武蔵が名声のために京都で栄えていた吉岡一門の当主、吉岡清十郎を破り、その復讐のために少年の当主を掲げた一門を少年もろとも返り討ちをした事件を扱ったものです。

命を狙われた宮本武蔵は苦悩します。生き残るため子殺しをしなければならない。萬屋錦之助はそれを的確に演じています。武蔵は名妓、吉野太夫がいる島原遊郭に逃げ込みます。

江戸初期の遊郭の歴史考証、美術に驚きます。遊女の髪衣装は当時の屏風絵から抜け出したようです。そして、琵琶の名手とされた吉野太夫の演奏と所作も美しいです。そこに武蔵を慕う弟子の孤児が現れ、その子への執着で、ますます彼はつらくなります。

そして、決斗の場所一条寺下がり松です。場所もきちんと歴史考証されてスケールと高低が付き、墨絵のように美しいです。そこで錦之助の殺陣が切れわたります。相手するのは平幹二郎、佐藤慶の苦々しい肉体派の殺陣の名手です。私のごひいきの河原崎長一郎も出てきます。さすが、歌舞伎の前進座の出身、殺陣もうまい。

宮本武蔵はとんでもない卑怯な方法で吉岡一門をせん滅し、最後は逃げ回って逃亡するのが、原作を超えて印象に残ります。内田吐夢が満州映画に参加したときの戦争体験が色濃くただよっていて無惨な映画です。

このシリーズは3部から盛り上がってくるのだな。巌流島の戦いもなかなかいいです。武蔵の友人又八を木村功、そして、その母で息子を戦争にいざなった武蔵を恨むお杉を浪花千恵子が演じています。小憎らしくて逞しくて、ぴったりです。

萬屋錦之助は、テレビドラマの子連れ狼とか破れ傘刀舟が良かったですけど、この作品の成功が大きかったのかな。真面目に苦悩するニヒルな変な癖が鼻につきました。でも、この映画を見て納得しました。武蔵ってこんな人だったのかな、あってほしいなって思いましたもん。作品に引っ張られるって人間らしいです。


内田吐夢監督を知れて良かった。東映時代劇のホントのいい作品を知れて良かったです。

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