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言葉のみが残る


甃(いし)のうへ

あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音(あしあと)空にながれ
をりふしに瞳(ひとみ)をあげて
翳(かげり)なきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍(いらか)みどりにうるほひ
廂(ひさし)々に
風鐸(ふうたく)のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃(いし)のうへ

桜が散るころ、必ずこの詩を思い出す。コーラスをやっているとき、曲をつけた萩原英彦の女性合唱曲を何度も歌った。覚えているのを割り引いても、いい詩だと思う。桜がちらほらと散るなか寺の横の石畳の道を歩く女学生。もう、アニメにでも出てきそうな日本の風景。

三好達治の詩はこちらの方が有名かな。

太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。

次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

雪国の大雪風景だと思われているけど、関西ですごした若き日を舞台にしてるらしい。関西は雪がほとんど積もらない。まあ、雪にふりこめられ眠くなるのは一緒だけど。
命の輝きとしての桜と女学生。死の象徴として寺。死につながる寒さの中の布団のぬくもり。

三好達治は大阪の人だ。没落した家の母違いの弟のいる複雑な家庭に育ち、士官学校をしくじり、詩人仲間の荻原朔太郎の妹に恋をした。でも、そんなことは忘れられていい。
本人も時代も消えてしまって言葉だけが残る。そこには皆の心にあるかもしれない体感だけだ。


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