旬

くだもの

 朝の連ドラ「あさが来た」をみてると、明治時代はくだものが新しかったことがわかる。没落した主人公の姉は、親からみかん山をゆずられるし、娘の初恋にりんごがからむ。

 りんごといえば、島崎藤村の詩、「初恋」は、まだあげそめし前髪の林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり、と歌い上げている。

 明治のころ、改良されたくだもの、新しい栽培法が続々と輸入された。その新しいりんごと、西洋からきた恋愛という観念をもとにしたのがこの詩だ。そして、病院というものも明治がはじめてだ。脚本家は、初恋、お見舞いと思いついたので、りんごを出したのだろう。あたらしい朝、あたらしい生き方にくだものの瑞々しさが似合うのだ。そういったエピソードが多くのひとの胸をうつのは、どこか明治というものがそういうものだという潜在意識があるからだ。島崎藤村の詩がとおに忘れられても、そのはつはつしさとりんごは結びついている。そして入院しているひとにくだものを送る新しい習慣も意味が忘れられても続けられている。


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