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春-Catnip-いないいない



ヒメちゃんは、死んだ。



こんなにも暖かな、

春の1日に


母に看取られて、


ひめちゃんは2度と動かない。










思い入れのあった

セラピスト向けのセミナーの開催を終えて



そのなかで最後にたどり着いたテーマは


「いのち」

だった。






わたしは自分のなかに

まだ

いろいろな憤りが存在しているのを


感じる。






ひとまわりして

到達する場所は、


いつも必ずおどろくほどに

シンプルで



それはことばにすると

とても平たく、


そこに全てが詰まっている。







わたしのなかには、

たしかに「いのち」が燃えており、


そのちいさな炎が

繋がれたそんざいが


息子のたおであり、







そして




ひめちゃんの身体から


その火は、


静かに

燃え尽きた。







わたしはどうしてここにいるのだろうとか、

そんなことが頭をよぎった。






臀部を失ってからの10日間、


よく頑張ったとおもう。







彼女は



変わらずに美しい毛並みのまま

まだやわらかく、

冷たくなりきらぬまま


眠ったように箱の中で毛布にくるまっていた。








母は、ねずみさんのオモチャを

箱にいれて、


「ひめちゃんねずみさんと遊んでおいでね」

といった。





わたしは、


冷蔵庫のなかの小さなジップロックに入った

またたびを

ひめちゃんのお腹の前に置いてから、




ジップロックが開けられなかったら困るなとおもって

ふくろをあけて



箱のなかにその硬い茶色の実を


ばら撒いた。








どこの景色もうららかな陽気に満ちて、




オレンジ色のポピーは

道路の傍に


たったひとり、


幸せそうに咲いていた。

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