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最近聴いてよかった音楽 23/04

ここ数か月で聴いて良かった音楽です。新旧混合。


The Pilgrim, Their God and the King of My Decrepit Mountain / Tapir!

RYMをちらりと覗いていたところ、結構な話題になっていたので聴いてみたアルバム。フォークロックながら、大変電子音楽的なミニマルさが見られる作風。サティのジムノペディをベースにした曲が入っているあたり、アンビエント系のエレクトロから影響を受けた節も多そうだ。サウスロンドン出身ということもあり、最近のBC, NRにも近い空気感も漂わせている。

正直音楽性そのものには目新しさはさほど感じなかったのだが、面白いと思ったのは配信では"ACT"を冠する楽曲ごとに別ディスク扱いにすることで三分割していたところ。アルバムタイトルが"The Pilgrim, Their God and the King of My Decrepit Mountain"と三つの要素で構成されているが、それぞれをコンセプトに三分割しているのである。これは今まであまり見なかった手法。サブスクならではのコンセプトアルバムと言えるだろう。


Ambient Ensemble / Nick Schofield

名作Glass Galleryで、主にアンビエント界隈でその名を馳せたNick Schofield氏の新作。以前まではピアノを主体としてエレクトロで飾りつけを行う(そしてフォロワーが大量発生した)作風だったが、今作はEnsembleと銘打っている通り電子音ではなくクラシカルなアンサンブルを中心に奏でられている。

Obscure Recordsを彷彿とさせるようなポストクラシカル~サウンドトラックだが、それ故か架空の映画のサントラを聴いているような気分になる。実はサントラ気分なアンビエント作品は結構あるのだが、これはその中でも飛びぬけてサントラ臭い。無い映画の場景は勿論、架空のエンドスクロールやエンドスクロールで帰る人まで見えてしまった。


Shade of Yesterday / DJ Harrison

アンダーグラウンド・ヒップホップで活躍しつつ、グラミー賞も獲得している大物プロデューサーによるカバーアルバム。ロックやソウルなど、彼が幼少期から愛する様々な名曲がカバーされている。

原曲にかなり忠実なアレンジでありながら、リズムの重さやブレなどは最近の宅録音楽のそれである。なんでもほとんど自分で演奏しているらしい。バラバラのジャンル・バラバラの音楽家の手による楽曲で構成されていながら何とも言えない統一感があるのは、全て同一人物による演奏であるからかもしれない。

個人的に好きなカバーはドナルド・フェイゲンの"IGY"。原曲にもある密室感をさらに強調したような演奏だ。


汽笛の海 / tiroru

先輩がやっているレーベルKAOMOZIから出ていた作品。KAOMOZIの作品はいくつか聴いたが、最もアンビエント色の濃い作品ではないだろうか。

個人的にKAOMOZIはニューアカ復古のレーベルと思っているのだが、今作も例にもれず哲学的な世界が続く。サ柄直生に通じる、優しいながらやや狂気的な音楽性は既定路線からゆるゆると逸脱していくような、ニューアカらしく言うなら「逃走」を感じさせる音楽だ。私は逃走する意志さえ忘れるような反努力人間であるのでやや羨ましく思う。


Shabadon, Krogvich, Sage

正式発表はもうちょっと先らしいが、既に名作なのでご紹介。大物音楽家にしか許されていないメンバー名だけのユニット名から察せられる通り、この三人はアンビエント通の間ではよく知られた存在。この三人が組んだというんだからさあ大変だ。

既に出ている作品も指折りの楽曲ばかり。ユニットを組んでいることから息ピッタリのShabasonとKrgovichのバンドに、Sage印のコロコロしたアンビエントサウンドが乗っかっていく。大変素晴らしいアルバムになることは確定である。非常に楽しみ。


Poinciana / Smith-Glamann Quintet

友人が呟いていたので知ったアルバム。ハープとアコーディオンという何とも不思議な取り合わせによるジャズ作品である。

奇怪な組み合わせと思いきや、これが非常に合う。楽器の妙とNYのレコード会社によるプロデュースのせいか、音楽性はエキゾチカに近い。バンド隊の主軸はアコーディオンらしく、それ故アルゼンチンのようなラテン味があり大変楽しい。気付けばアルバム一枚が終わっている。

一時期これしか聴いていなかった。万人にオススメしたい。


Chorus / Mildlife

ユニオンの紹介によるとMildlifeはサイケデリック・ジャズ・グループらしい。サイケデリック・ジャズという語を初めて聞いた。

しかし蓋を開けてみると、なるほど確かにサイケデリック・ジャズである。ボコーダーを活用してノリノリのソウルを繰り広げるのはエレクトロファンクっぽさがあるが、そういったものより即興的・前衛的な空気を感じる。

一番近いのはHerbie HancockのHeadhuntersの世界観。あの作風でさらにHerbie Hancockがアルバムを作り続けていたら……というIFを見ているような音楽である。70年代のソウルに90年代のアシッドを放り投げたような、難しいこと考えないで楽しめる良作。


Voices of the Rainforest / Kaluli People of the Bosavi Rainforest

フィールドレコーディング入門を先日ようやく手に入れたので読んでいたところ出てきたアルバム。フィールドレコーディングのみならず、全音楽史に遺すべき名作と思う。

パプアニューギニアに住むカルリの人々の一日を一時間に編集した録音である。朝の鳥の声から昼間に聴こえる作業の歌、夜に行われるお祭りの音などその場の空気がパッキングされている。

この作品は現地の人が実際聴いている音を再現するために、カルリの人にテープレコーダーの音量バランスを操作させて録音したという。サウンドスケープがそのまま立ち現れるようなこの作品は、実際に暮らす人が監修しているからこそ生まれたのかもしれない。


Sparrow's Arrows Fly so High / すずめのティアーズ

今年の個人的最重要アルバムである。民謡ユニット・すずめのティアーズによる1stフルアルバム。

ブラジル風のギターにギリシャ風のハーモニー、その上で歌うのは日本の民謡、とてんこ盛りの要素をまるで最初からあったかのように違和感なく成立させているのは神技。その上日本民謡にウクライナ民謡をマッシュアップしたりするなどさらに要素を載せていく。少しスコットランド民謡の風味も感じるがこれはベースラインの妙だろうか。世界中で民族音楽が盛り上がりつつある中、これは弩級のバンドである。

今のところ私の今年のベスト。是非聴いてください。


Sinseerly Yours / Thee Sinseers & Joey Quinones

今の時代に純粋無垢なオールディーズを極めているバンド。メロディラインやアレンジは勿論のことジャケットや音像に至るまで、60年代の音楽と区別できない

私は古典的なスタイルでも基本的に新しい文脈や発想があれば評価するが(大土蔵録音とか)、今作には一切そういう新しさはない。だがここまでクラシカルに執着されたものを出されるとさすがに倒錯を感じてしまう。本人たちは本当に好きでやっているのだと思うが、その狂気的な純粋さは本人のあずかり知らないところで文脈を産んでいる。


Genki Rock / emotionals3k & Sg Lily

ロリコアやHyperpopをよく出しているFull Metal Recordsから出ていたアルバム。ご多分に漏れずこれもY2Kな雰囲気を纏ったアルバムである。

しかしゲンキ・エレクトロではなく"genki rock"である。前衛色はあまり強くなく、00年代風味のgenkiなポップスを作ることに注力している。その結果、2000年代前半に漂っていたあのプラスチックな空気感をY2K作品の中でも特に表現できているように感じる。

最近のY2K音楽に草臥れてしまった人には是非これを聴いてもらいたい。「ああ、自分が本当に聴きたかったのはこういうのだったな……」と思うはずである。



その他近況


・ゲームサントラの金字塔・塊魂がサブスクに来た!その調子で塊魂シリーズ全作品お願いします。


・BUDDAH BRANDもサブスク解禁が話題になったけれど、どうやらあれは違法アップロードだったらしく消されてしまった。なので同時期にサブスクに来たwonderboy/不可思議を聴きましょう。こっちも日本語ラップの大名手です。


・大滝詠一EACH TIME40周年です。めでたいね~


・WWW一般開放時から更新を続けている激ヤバ音楽ブログを教えてもらったので共有。


・最近下に貼った現代音楽を見つけて衝撃を受けた。楽器を「育てる」なんて全く新しい試みじゃないか!

・音楽なんてもうやり尽くされているからなあ……なんて思っていた自分を恥じた。様々に開拓の余地があるんだなあ。

・これには音楽家も大絶賛……と思いきやそうでもない。賛否両論、いや否よりでさえある。

・なんでも、楽器を傷つけるのが憎くて仕方ないらしい。引用欄を見ると怒っている人ばかりである。

・ここに現代音楽衰退の理由を見た気がした。楽器を壊すなんて大衆音楽では半世紀前にジミヘンがやったことで、今や既に陳腐化してしまってさえもいる。なのに現代音楽では忌避感を持って受け止められているのである。

・しかもこの作品では闇雲に壊しているのではなく、この加工後演奏するらしい。言うなればプリペアドピアノに近い行為である。それでさえ否定してしまうのは、ちょっとどうなのだろうか。

・まあプリペアドピアノさえも忌避感があるという話を聴いたことがある。実際私も中学校の頃、音楽室のピアノにプリペアドしかけて怒られた。

・こんなに規則だらけなら優秀な音楽家もポップスの方に流れてしまうよなあ……と思ってしまった出来事であった。

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