見出し画像

「答えのない問題」の見つけ方

世の中には、答えのある問題と答えのない問題がある。

社会の一員として他人に価値を提供できる、つまり金を稼げるためには、答えのない問題を見つけ、それを解決することが必須条件だと私は考えている。

多くの人に「答えのない問題」が見えるようになってほしい。私が最近「科学リテラシー」ばかりつぶやいているのはこのためだ。

しかしこれがなかなか簡単ではない。学生のインターンと一緒に仕事をしていて思うことだ。やり方さえ教えれば素晴らしい仕事ができる人でも、誰もやったことのない仕事となると、考え込んでしまって一歩も踏み出せない。いくら私が「私も答えを持っていない。とりあえず何でもやってみて」と言っても動けない。

答えのない問題が見える人は、世の中の一部の人だけなのではないだろうか、という気がしている。そして答えのない問題に正面から取り組める人は、その中でもごく一部なのではないか、という気もする。これまでに、答えのない問題の重要さに気づき、行動パターンが変わった人には出会ったことがない。はじめからそのセンスや思考、行動パターンが備わっている人か、備わっていなくて、いくら言ってもわからないかのどちらかだ。

どうやって分からない人に理解してもらえ、行動を変えてもらえるかが、私の週末の執筆活動の原動力でもあり、非常に苦労しているところだが、今回は図を使って説明してみる。

答えのある問題の解法

答えのある問題は、以下のように図示できる。三角形の底辺が今いる場所、つまりスタート地点。星が答えだ。

答えのある問題

ビジネスで言えば、今の売り上げX億円が底辺。2年後の売り上げを1.5倍にするのが星だ。2年で星に到達するにはどうしたらいいか?こんな企画案を任されたとする。様々なやるべきこと、できることが考えられる。販売の増員、セールスのやりかたを共有、製品価格の最適化、製品のバリエーションを増やす、工場には不良率を下げてもらう、などだろうか。

担当者の評価は、星に到達するまでの時間だ。だからそれに集中する。決めた目標だけを鋭く見据え、そこに集中するのは良いことだと教えられてきた。受験勉強はその典型だ。

答えのある問題の問題点

この考え方の限界は、他の可能性が見えなくなること。目標にこだわるあまり、他に大きなビジネスチャンスがあってもそれが見えなくなる。「今のビジネスそのものが意味がなくなるほど新しいビジネスとは何であるか」と考える余裕はない。

歴史を振り返れば、それまで当たり前であったビジネスが、ある日突然消滅することの繰り返しだ。これをDisruptive Innovationという。馬車は自動車になり、真空管はトランジスターになり、大型コンピューターはパソコンになった。写真フィルムはデジタルになった。現在進行形で言えば、小売業はネット通販に、テレビ放送はYouTubeやNetflixに、カメラはケータイ電話で十分だ。

答えのある問題を、答えのない問題として捉える

コツは、星はあくまでも仮の目標でしかないと考えること。仮の目標として、そっちの方向へ行けばブレークスルーにつながると信じれることが大切。だからこれは目標というよりはビジョンだ。

この先を読む前に、考えてもらいたい。あなたにとってのビジョンは何?自分自身の人生のビジョンでもいいし、組織に所属している人なら、その組織のビジョンでもいい。無いなら今考えて、実際に書き出してみることをおすすめする。

先ほどの例を使ってみよう。「2年後に売り上げを1.5倍にする」という目標が与えられても、あくまでもそれを仮の目標と考え、もっと良いゴールはないかと常に目を見開いておく。そうすれば前述したような、その業界を根本から覆すようなアイデアを芽の段階で自分のものにできるかもしれない。そうすれば売り上げは10倍か100倍になるかもしれない。これが本当のイノベーションというものだ。

これを図を使って説明してみよう。下の図の三角形の底辺は長い。これはスタート地点さえ手探りで探すしかないことを表している。では何から手をつけるか?

答えのない問題

何でもいい、人がやったことのないことをやってみることが大切。何かをトライして、そこから学ぶことの繰り返しだ。ほとんどが予想通りにならないはずだ。失敗から学ぶことで一歩づつコマを進める。誰もやったことがないのだから、うまく行かないのは当前だ。何歩か進めて、振り出しに戻らなければならないこともある。その「何歩か」は数時間のトライアルかもしれないし、数ヶ月にわたる実験かもしれない。しかし戻ることは時間を無駄にしたことではない。「何がどうしてダメか」を学んだとポジティブに考えれば良い。

三角形の外側に出ている矢印は、予想もしなかったことや計画外のことを表している。そこから何を学ぶかも姿勢次第だ。

やがて目標に近いものが出来てきたとき、その目標自体が間違っていることに気づくこともある。それは問題をより意味のあるものに再定義できたということだ。実際にはほとんどの場合がこうなる。しかしよりよい目標に気づくこともある。これは試行錯誤を積み重ね、最初に仮定した目標の近くまで来た人にしか見えないものだ。

このプロセスを経ることはイノベーションにとって必須だ。このやり方でしかイノベーションにはなり得ない。

イノベーションをするかしないかは生死の分かれ目

イノベーションは何もiPhoneなどのモノである必要はないし、アマゾンなどのビジネスモデルに限ったことでもない。社会福祉や行政など世の中の仕組みも常にイノベートされるべきだ。

いつの時代もイノベーションを先導するか、他人にやられて市場から退場させられるかのどちらかだ。デジタル写真を自社とは関係ないものだと相手にしなかった、フィルムの巨人KODAKは市場から消滅した。

これからの時代、社会の中の個人も同じ運命になる可能性が高い。つまりイノベーションに貢献できるか、同じことを繰り返す人になるかだ。同じことを繰り返す人は遅かれ早かれ機械とコンピュータに置き換えられる。(参考記事:問題解決力 〜 激変するグローバル社会で価値ある個人となるために

まとめと次回予告

キーポイントは、あくまでも考え方だ。最初に与えられた問題に真面目に取り組むと同時に、その周囲を高い空から俯瞰するつもりで、よく見渡すこと。そうすると答えのある問題からでも、予想外のベターな方向が見えてくることだってある。これをするかしないかがイノベーションが求められる現代社会では生と死の分かれ道になる。

次回は、答えのない問題に取り組むやり方をサポートする、Scientific Literacy(科学リテラシー)という価値観、そして実践するためのScientific Inquiry あるいは Scientific Method(科学的手法)と呼ばれる方法についてよりわかりやすく説明するつもりだ。


私がこれまでに書いてきた関連する記事は以下のとおり。ご参考までに。

新型コロナと太平洋戦争の恐るべき類似〜悲劇を繰り返さないために今できること
無知を活かすリーダーシップ
PDCAサイクルでは何故イノベーションが生まれないのか?
サイエンスの重要さは歴史を見れば明らか
文系にもできる、サイエンスでどんな問題も解決

Photo credit: NASA https://www.nasa.gov/mission_pages/apollo/40th/images/apollo_image_11a.html

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?