見出し画像

英語マスターに必要な莫大な時間と、その実現方法

ずっと英語を勉強してるけど、なかなかものにならない。そう思っている人は多いだろう。あなたもそう思ってこのノートにたどり着いたかもしれない。

私はシンガポールに住んでいる。外国人在住者は非常に多い。「日本人は英語ができない」が、シンガポールに住むほとんどの人の認識だ。

なぜできないのか。

まず、学校英語で育ち、TOEICの点数をあげることを目指しているのなら、根本的に学習のしかたが間違っている。これについては、以下のノートを参照していただきたい。

第二に、勉強量(トレーニング量)が圧倒的に足りない。このノートでは、ペラペラになれるまでに必要な時間と、私なりの裏付けデータを紹介し、それだけの膨大な時間を確保するための提言で締めくくる。


どれくらいの時間が必要か〜Deliberate Practice理論

英語は勉強するものではない。訓練するものだ。スポーツや楽器と同じだ。ひたすら訓練。

超一流になるための訓練方法が、K. A. Ericssonが体系づけたDeliberate Practice理論だ[1,2,3,4]。超一流のヴァイオリン奏者やチェスの世界チャンピオン、テニスの世界ランキング一桁台の人など、世界の様々な分野のトップパフォーマーの訓練のやり方を研究することから導かれた。その結論が「世界一流になるためには、一万時間の積み上げと、その後十年にわたるDeliberate Practiceが必要」だ。

Deliberate Practiceのキーポイントは三つ:

1. 特定のスキルに特化した訓練
2. フィードバックの受け入れ
3. 反復

英語での特定のスキルとは、例えば論文やビジネス文書を英語で書くスキル。それを実際に人に読んでもらい、赤ペンを入れてもらう。それを自分なりに書き換える。これの繰り返しだ。これを常日頃からやっていくと、やがてビジネス文章でも学術論文でも、恥ずかしくない文章をほぼ自力で書くことができるようになる。

他のスキルとしては、会話、ディベート、歌の歌詞が聴けるようになるリスニング、あるいはイギリス英語の聞き取り、インド人の英語の聞き取り。仕事に必要な専門用語、社交パーティーで恥ずかしくない知識を英語でなど、数え出したらキリがない。

言葉の習得に早道はない。耳から入ってきた音を言葉として脳が認識し、思考回路がそれを処理し、自分の言葉で発するという、一連の処理を母国語と同程度のスピードでできるようになるには、ひたすら訓練だ。効率のよい勉強方法はない。

これを一万時間積み上げ、さらに10年訓練を続けるのがDelibarate Practice理論だ。

一万時間で3歳児の言語レベル

画像5

生まれたての赤ん坊が言葉を覚え、やがて自分でも言葉を発するプロセスを考えてみよう。起きている8時間は常に言葉を意識している。毎日休みなく一年365日ずっとだ。積算すると、3年で約一万時間になる。3歳児の言語能力はみなさんご存知ですよね。

毎日2時間勉強している学生さん、週に1日くらいは、勉強しない日もあるだろう。一年のうち休みの期間は勉強しないこともあるだろう。こう考えると、一万時間に達するには19年必要になる。

仕事も家庭も忙しい社会人にとって、週に4時間勉強時間を確保しているのは、すごいことかもしれない。しかしそのペースで一万時間に達するのは71年だ。

3歳児の言語レベルに達するには程遠いというのがおわかり頂けたと思う。

画像1

「さらに十年」の根拠

以下のグラフを見て欲しい。青線は母国語の習得プロセス。起きている間はほぼ常に言葉を使っているとした積算時間だ。グレーの線は、6年生からインターナショナルスクールへ転校したケース。学校では全てが英語だ。宿題もかなりあるから、英語に触れている時間は非常に長い。

では日本の中学〜高校で英語を学習している時間がどれだけあるか。頑張っている人で週に10時間としよう。夏休み中もこのペースで勉強したとする。年間で520時間だ。しかし残念ながらこの大部分が、日本語で英語を勉強している時間なので、英語そのものの訓練時間、つまり英語で考えて英語で理解している時間は非常に少ない。多めに見積もって週に2時間だろう。これがオレンジの線になる。

画像2

Figure 1. Estimated accumulated hours of language practice vs. age in different conditions.

次に、以下の図を見ていただきたい。青線が示すのは、母国語のコミュニケーション能力が年齢相応に上達すること。グレーの線は、6年生からインター校へ転校したケース。英語コミュニケーション能力は急速に向上し、高校を卒業するまでには、ネイティブレベルに達する。そこからさらに大学で読み書き討論を積み重ね、一人前となる。ここまででちょうど十年だ。

画像3

Figure 2. Conceptual diagram of English communication proficiency vs. age, comparing native speaker, English learner in Japanese school system, English as Second Language (ESL) learner.

その莫大な時間をどう確保するか?

私がお勧めするのは、先ほどリンクしたノートにも書いたが、英語を一緒にやるパートナーをつくること。できれば職場など長時間一緒にいる相手が良い。そういう人が複数いれば理想的。同時に、自分に対する強いコミットメント、生活の整理、英語を使う場所の戦略などが必要だ。

画像6

私の場合は、アメリカに単身で渡って仕事をし、またいまでもシンガポールでの外資系職場での英語づけ環境に恵まれている。しかしアメリカから日本へ帰ってきても英語の勉強は相当やっていた。どのくらいやっていたかを仕事とプライベートに分けて思い出し、下のグラフにあらわした。

積み上げ棒グラフは、一週間の時間(16 x 7)のうち、仕事での英語、プライベートでの英語、その他を色分けした。折れ線グラフは積算値だ。

画像4

Figure 3. Average hours/week in English at work and in private, and their cumulative effect, my own case.

お分かりのように、仕事で英語を使っている割合が圧倒的だ。そうでないのは、1994年にアメリカでの一人暮らしのとき。このときのことはこちらのノート。2000年に家族でアメリカ暮らし。2004年以降は、通勤途上で仕事に関連する論文を読むことが習慣となり、インターネットで何かを探すのもまず英語でとなった。2009年ごろからは、さらに、論文書き、読書も英語の本を優先するようになった。2012年からは、シンガポールに住んでいるが、移住そのものは英語時間を増やすファクターにはなっていない。

積算時間に注目すると、仕事での英語時間が一万時間に達したのが1999年。この時私はすでに、P&Gへ転職したあと。採用の面接は英語であったが全く問題ではなかった。当時のTOEICスコアは確か860点だったように記憶している。

プライベートでの英語時間に着目すると、時間の積み上げはだいぶおそい。一万時間に達したのが2009年だ。やりはじめてすでに16年経過している。

つまり日本の社会で、日本人ばかりの環境でフルタイムで仕事・勉強している人は、相当なコミットをもって英語の時間を確保しなければならない。それが私の2009年以降のペースだ。読むもの(本、ニュース、テレビ、論文、ネット)、見るもの(映画、YouTube)、聞くもの(ネット、ニュース)、話す相手(家族意外の周りの人)全てを英語にして、5年でやっと一万時間を超える。

だから英語を一緒にやるパートナーをつくることで時間を確保することができるようになる。この考えを発展させると「職場を英語化する」という発想になる。考えてみてはいかがだろうか?ビジネスチャンスも格段に広がるはずだ。

この記事を面白いと思っていただけたら「♡マークのスキ」を押していただければ嬉しいです。(非会員でも押すことができます)

Reference
[1] Ericsson, K.A., Deliberate Practice and Acquisition of Expert Performance: A General Overview, Academic Emergency Medicine, 15 (2008) 988-994
[2] Ericsson, K.A., Prietula, M.J., Cokely, E.T., The Making of an Expert, Harvard Business Review, Jul-Aug, 2007

ほか下記の本では、Ericssonの研究を一般向けに紹介している。

[3] Colvin, G. (2008). Talent is Overrated - What Really Separates World-Class Performers from Everybody Else. London: Portfolio
[4] Gladwell, M. (2008). Outliers - The Story of Success. New York: Little, Brown

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?