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テクノと私(4):「レコード」が好き

前回からの続き

真のテクノの世界を知るにはもはやCDではなくレコードを買うしかない、となった高校生の私は、家電量販店でオーディオテクニカの6,7千円の安いレコードプレイヤーを買いました。この時点では「ちゃんとしたターンテーブルを買ってDJをやりたい」という気持ちはまったくなくて、ただ買ったレコードに針を落として再生できれば何でもよかった。

ちなみにこれは1998年ごろの話ですが、いまも状況としては同じようなもので、もしこれから好きな音楽をレコードで聴いてみたいという方がいれば、まずは数千円台の手軽なプレイヤーをお薦めします。

最初に買ったレコードはダフト・パンク(Daft Punk)の"Burnin'"でした。

Daft Punk "Burnin'"(1997)
キュンキュンいう音が特徴的なハネたディスコ風テクノ

▽ ▽ ▽

私の通っていた高校は東白楽にあって、あのあたりでいうと東横線白楽駅から続く六角橋商店街にいくつかのCDやレコードショップがあった。初めてレコードを買ったのは、そのうちのGOKURAKUというお店。あれから20年――まさか今はもうないよなぁ…と思ってGoogleマップを見てみたら、なんとありました。

白楽のGOKURAKU RECORD
ちょっと正気を疑う店構え(おそらく当時のまま)

今はどうだか知りませんが、当時は薄暗い店内に雑然といろんなジャンルのアナログレコードがあって、店番をしていたのはメガネをかけた若いのか年行っているのかよくわからない、話しかけづらーい感じのお姉さんでした。棚の一部にテクノの新譜コーナーがあって、手に取ったのが前述のダフト・パンクのレコード。実はこの曲のことは買う前から知っていました。

98年当時、相変わらず同じ音楽を聴く趣味の友達が学校にいなかった私は、主な情報源を始めたばかりのインターネットと音楽雑誌、そしてそのほかに自宅で加入していたケーブルテレビMTVの「AMP」という番組に求めていました。この番組はエレクトロニック・ダンスミュージックを中心としたプログラムで、そのころ盛んに作られていたプロモーションビデオ(PV)を積極的に流していました。それこそ、前回の記事で紹介したケンイシイの"EXTRA"のPVもこの番組で初めて見たし、上で紹介しているダフト・パンクのPVもこの番組で見て、レコードを買う前からのお気に入りだったのです。

AMPでは、アンダーワールド(Underworld)やプロディジー(The Prodigy)、ケミカル・ブラザーズ(Chemical Brothers)のような他の番組でもよく聴くメジャーなものから、およそここでしか流れないマニアックな音楽まで、いろいろ取り上げていました。流れていたPVのなかで特に印象的だったものをいくつかピックアップしてみます。

Aqualite "Ride The Rhythm" (1995)

この曲は本当に大好きで、私にとってはこれぞテクノというような曲だった。反復によるアシッドな陶酔、奥へ奥へと目まぐるしく進んでいく映像。あまりにも90年代なCGもかわいらしく、今観ても自分の趣味趣向はまったく変わっていない感じがする。当時は相当探したのに音源が手に入らず…、08年にデジタルリマスターが出てようやく買えるようになりました。

Laurent Garnier "Crispy Bacon" (1997)
※映像に暴力表現を含みます

抜群に凝ったカルト・ムービー風の実写PVを作っていたローラン・ガルニエ。脳にじわじわ効くサウンドと映像の緊張感がたまらない。この曲が収録されたアルバム"30"を買うために横浜HMVから何から探して歩いた思い出。

Future Sound Of London "We Have Explosive" (1996)
夢に出たねこれは

Prana "Boundless" (1996)
サイケデリックトランスの妖しい魅力

Autechre "Second Bad Vilbel" (1995)
金属のごとく硬いブレイクビーツとノイズの心地よさ

Aphex Twin "Ventolin" (1995)
ギュイイイーーーンギャギャピーーー

部屋を暗くして、これらの怪しいビデオを延々と再生していた高校時代…。

寂しいことに、今のテクノは90年代に比べて、PVにあまりお金をかける時代ではないのですよね。その意味でも、貴重な番組だったと思います。

▽ ▽ ▽

ちょっと脱線しましたが、改めてレコードのいいところ、美しさみたいなものについても触れておきたいと思います。レコード/アナログ/ヴァイナルなんて呼びかたもしますが、ここ数年でまた再評価されていますよね。

レコード店の一例(2007年の渋谷Spice Record)

持ってみると分かるけどズッシリ重いし、取り回しは良くないし、保管に苦労するし、USBメモリひとつに何千何万曲と入る時代にあって、昨今のブームは物珍しさのほうが先に立っているのかもしれません。私も今や3,000枚前後(きちんと数えたことがない)に膨れ上がってしまったコレクションを完全に持て余し、その多くは押し入れに死蔵されているというような状況です。デジタルに比べて音がいいとか悪いとかも、正直なところあまり分かりません。

でもね、好きですレコード。まず、プラスチックの板に刻まれた溝を針で引っ掻くと音が出るってすごくないですか。単に電気的に増幅するだけで、あんな音になるなんて!そしてレコードはとっても美しい。

刃先のような独特の鈍い光を放つ溝

カッティング技師の名前がエッチングされている
"NiLZ"は2011年に亡くなったUKのNilesh Patel氏のサイン

プロモ盤の一枚一枚に押されたディストリビューターの判も味がある

レコードに針を落とすのってすごくわくわくします。その瞬間に「ウワーッ!」という曲もあるし、何度も聴いて愛着が湧いてくる曲もある。所有物として絶妙に感情移入しやすい大きさ・サイズ感があるなあと感じます。

個人的には新譜をレコードで買うことはまったくなくなってしまった昨今ですが、高校時代にドキドキしながらあのレコード屋に行き、MTVで見て欲しかった作品を手にしたときの憧れのようなものは、いまだに引きずっています。だから聴く機会が減ってしまったとしても、集めたレコードは手放せませんね。

▽ ▽ ▽

さて、GOKURAKUで2枚目に買ったレコードというのがこれがまた…その後の方向性を決定づけるチョイスだったのでした。続きは次回の記事で。

(テクノと私(5):「ハードミニマル」が好き につづきます)

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