見出し画像

新譜"Code Grey EP"をリリースしました

12月24日、Bandcampでおよそ9年ぶりとなる自作曲3曲を収録したEP作品をダウンロード配信しました。ジャンルはテクノです。

わたしは高校生のころ(90年代)からアマチュアで音楽を作り続けていて、その活動は断続的であるものの、基本的には途切れず続いてきました。2012年には「Body Inform(ボディ・インフォーム)」というレーベルを始めて、物理CDアルバムを作って同人音楽イベント「M3」などにも参加していたのですが、しかし14年に3枚目のアルバム"Nightsenses"を出してからは、コンピレーションに単発で楽曲を提供したり、SoundCloudなどに作りかけのトラックをデモとして公開するばかりで、個人名義でのまとまった形の作品発表からは長らく遠ざかっていました。今回の作品は、その沈黙を破ってのものです。

本作はフリーダウンロードにしていますが、Bandcamp側の仕様で無料はレーベル月間200DLまでの制限があるため、いずれかのタイミングで有料に切り替える可能性があります。

今作について

間が空いてしまったことに特に深い理由はないのですが、敢えて言うならば、ハードウェア機材だけでほぼ完結していた以前のマッチョな制作環境から大きく変わり、再びAbleton LiveベースのDAW環境に戻るにあたって、どういう音楽を作りたいかを整理して、どうすれば実現できるかを研究していたら、これだけかかってしまったという感じです。その甲斐あって、作りたい音への足掛かりも、いまの環境での要領を掴んだ手ごたえもあるので、これから当分は一定のペースで制作を進めていけそうです。

タイトルの"Code Grey EP"は、この9年の間に出会ったGrey Area(グレー・エリア)と呼ばれるスタイルの音楽に少なからぬ影響を受けていることを示しています。これはAuxiliaryとSamuraiというふたつのレフトフィールド・ドラムンベース・レーベルのコラボレーションのなかで生まれた概念で、85/170bpmというドラムンベースの骨組みを解体してゆくと、127.5bpmの4分の3拍子のテクノとクロスオーヴァーする瞬間があるという、白でも黒でもない「グレー領域」の発見に基づいている。

世界観としても、ミニマルでシリアスであるという点でこの手のドラムンベースとテクノには響き合う部分が多く、2015年のPresha、Sam KDCとASCによるこのGrey Areaの提唱以降、彼らだけでなく多くのアーティストがこの独特のグルーヴの可能性を探る実験を続けています。例としては、今年だけでもPfirterの"Acceptance"、Lemnaの"N19"、LSSの"Oneiric (Sam KDC Remix)"、Uunの"Out Of Time"などがある。

わたしも個人的にここ5年間くらいのDJテーマにこれを据えていて、テクノのセットを組むときは必ず一か所はハーフタイム・ドラムンベースと三拍子テクノを重ねるポイントを作るようにしてきました。2020年に早稲田の茶箱さんから配信でお送りしたMusic Unityのセットでもそうだし、21年の暮れに録ったミックスの24分くらいからの展開もまさにそう。DJツールとして予測不能の面白さがあると思うし、まだまだ発見されていないリズムパターンがこの領域に潜んでいるという予感があるのです。

なので、これを創作に生かしたいという思いはずっとあって、そのための理想の音を実現するには何が必要なのかということを、ここ数年間で自分なりに煮詰めてきました。Ableton Liveのこともまた、ゼロから勉強し直すつもりで片っ端から教則動画を見ては試したりしていた。なので、実験的なループ単位で作り散らかしてきたという意味では、ずっと制作は続けていたのだけど、今回はアレンジメントを含めて最終的な形に残すことができたので、足掻いているところからまずは一歩踏み出せた、という感じです。

いずれは、テクノとドラムンベースが同じ価値観もとに有機的に溶けあうような曲を作りたい。ただ、ひとまず今回は最初のアティチュードの表明という意味で、分かりやすく異なるbpm帯のふたつの要素をくっつけて見せることを目的としました。途中で急に変わったように聞こえるけれど、最初から最後までbpmは同じ。遅いものと速いものを、4(あるいは2)と3のシンコペーションとして相互にスライドさせる構造にしたかった。

完成したものを聴いてみると、使う機材がハード・ソフトともに様変わりしても、自分が作りたい音は10年、20年経っても変わってないなという自己評価です。たぶんサウンドデザインの世界観は同じ。そこへ至るアプローチの方法と、最終的な仕上げの工程を大きく変えたので、それが多少なりとも「次の段階」のものとして成功していたらいいなという思いです。

各楽曲についてのプロダクション・ノート

A "Code Grey"

前述のとおり、数年間にわたって実験を繰り返してきたので、テストはもう十分、いざ作るとなったら完成までは早かった。この曲は2、3日で仕上がった。作りかけの段階から何か掴んだ手ごたえがあって、最終的に狙い通りのところへ落とし込むことができたお気に入りの曲です。低音域の処理も上手くいき、それなりに強度のあるループにできたので、抜き差し以外に凝ったアレンジもあまり必要なかった。表現したいことができた。

ランダムなピコピコしたシンセは、バーチャル・モジュラーのCardinal上でMarblesとPlaitsを使ったシンプルなパッチを作って鳴らしています。慣れてくるとヘタなソフトシンセよりも圧倒的に早く作りたい音作りができて、これは確かにモジュラーシンセに凝る人がいるのも分かる。パッドと歪んだシンセのフレーズはいずれもLive標準のAnalogを元に作りました。

B1 "Prism"

同じコンセプトで少しアプローチを変えたもの。もともと4拍のキックに3拍とか5拍、9拍で繰り返すシーケンスを重ねるというのはテクノの常套手段であるわけだけど、全体の基準を4分の3拍子としての展開づくりはやってみるとけっこう難しい。ループ作りとはまた違った、アレンジの組み立てで脳の普段使っていない部分がチリチリする楽しさを久しぶりに味わった。

デジタルリリースされるシングルEPにおいて、A面やB面という表記は実質的にはあまり意味のないものだけど、本作(と続くリリース)においては明確な意味合いを持たせたいと思っています。それはメインとサブの関係であり、主題に対する発展形や別ミックス、あるいはよりコアな解釈だったり逆にチルアウト的なもの。

B2 "Bipolar Dub"

3曲のなかで一番最初にできた曲。四つ打ちじゃないものを作りたいというところから、85bpmの遅いノリを基準に、時々170bpmのドラムンベースが見え隠れするような組みかたにしてみました。遅いビートと速いビート、同一軸上の対極にある概念を繋げるという意味で、Bipolarというキーワードは初めから今回の制作の念頭にあったものでした。

この曲はシンセとドラムで2系統のCardinal VCVパッチが活躍しています。ランダムなゲートシーケンスによる隙間を埋めるようなドラムが効果的に使えたので、今後の制作でも試してみたい手法です。同じ雰囲気の曲なら生音っぽいサウンドも合わせやすいかなと思っていて、長尺のサンプリングやそれを基にしたグラニュラー系の遊びも取り入れてみたい。

今後の活動予定

今回、まず一度作品としてアウトプットすることを優先しましたが、体制を整えることができたので、今後も継続的に作りたいものを作って発表していくつもりです。何しろあまりにブランクが長すぎた。昔はできなかったことでも、今ならできそうなことがたくさんある。

制作依頼やリミックスのオファーも徐々に受けたいと思っているので、まずはポートフォリオの充実を目指したいところですが、何かあればご相談ください。DJもやっていきます。

Body InformレーベルのBandcampはこちらから。https://bodyinform.bandcamp.com/

個人のSoundCloudアカウントはこちら。
https://soundcloud.com/epxstudio

Xのメインアカウントはこちらです。
https://twitter.com/epxstudio


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?