ニトリでひまわりちゃんに会った

今日ニトリへ生活必需品を買いに行ったら、会えて嬉しい人に会えた。

彼女のひまわりのような笑顔を見て安心した。

何故、ひまわりを連想するのかというと、彼女のLINEのアイコンがひまわり畑だから。

でも彼女の佇まいそれ自体がひまわりっぽいなと思う。

彼女は准看護師の専門学校の同級生であった。働きながら通学して資格を取れる為、高校卒業したてのコから40代後半までの幅広い世代が、クラスメイトだった。 

彼女、ひまわりちゃんの自己紹介は鮮明に覚えている。教壇に一人ずつ立ち、簡単に皆自己紹介をした。最初の人が名前と年齢と看護師を目指した動機を述べたので、以降も右にならえで自己紹介が続いた。

ひまわりちゃんは、32歳。実家は東北で、熊本のお婆ちゃんの家に居候しながら病院で看護助手として働いていますとのことだった。

「何故看護師を目指したのかというと、、、、」動機のところで彼女は声を詰まらせた。目が泳いで口を真一文字に結んだ。気のせいか、涙ぐんでいるように見えた。

「入院した時に、、、。看護師さんに救われたから、、、です」精一杯言い切ったという感じであった。先生も優しげな微笑みで拍手をしていた。

ひまわりちゃんはちょっと負けず嫌いの頑張り屋だった。

必死に知識を吸収し、試験の過去問も単独でかき集めてきてクラスメイトとは共有しなかったし、成績の順位もこだわっていた。

ひまわりちゃんは自分のことを話さない人だった。

でも、親しく話す何人かは常に周りにいたし、明るくてちょっとツンデレなとこが可愛いなって感じだった。男女問わず、彼女の周りには笑顔があった。

周囲も私も、彼女の秘密主義なところは当時は気付かなかった。

後になって、あぁそういえば彼女は自分のこと話さなかったよねーなんて思ったのだ。

彼氏は、地元にいるらしい。

遠距離恋愛だけど、なかなか会えないからダメかもしれないんだって。私は特別ひまわりちゃんと仲が良かったわけではないので、他のコから伝え聞いた話だ。

熊本に来てまだ半年らしいのだけど、必死に、熊本に馴染もうとしてる感じだった。

通学も通勤も、どこへ行くにも、白のロードバイクを颯爽と漕いでいた。

一年生の後半から病院実習が入ってきた。二年生になったらほぼ実習だ。辛い辛い実習を何クールこなしただろう。ようやく、これが最後の実習だという途中でその悲報は告げられた。

泣き出さんばかりの表情で、担任の先生が告げた。

「ひまわりちゃんが、皆と一緒に卒業出来なくなりました。先生も一生懸命、学校と掛け合いましたが、ダメでした。なんと言っていいか分かりません。」

実習先へ早朝向かっている際、雨が降った後の道路の縁石に滑って、ロードバイクから転倒したらしい。右腕を骨折して救急車で運ばれたそうだ。骨折した腕では実習は続けることは不可能と判断され、単位が不足する為イコール卒業できないというのが、彼女に突きつけられた現実であった。

ひまわりちゃんは、口を真一文字に結んで、強い瞳で皆に挨拶した。一年遅れますが、必ず私も看護師になります。

なんで?!彼女はとっても頑張ってたのに!!先生!!どうしてもダメなんですか?!

私も含めて、教室でクラスメイトは何人も泣いた。


卒業してそれぞれが更に進学したり、就職したりして、丸一年経った頃、あの大震災が起きた。熊本大震災だ。

前震の28時間後の本震の直後、これはやばいと身ひとつで外へ飛び出して、子供達と避難所へ向かう私の携帯にLINEが来た。

画面を見ると、差出人は、あれから交友がなかったひまわりちゃんからであった。

「外へ逃げる前に、お風呂に水を貯めて下さい。これから、必ず水が止まります。これは、東日本大震災を経験した私が断言します。まず水を貯めて下さい」

少しの間立ち尽くしてしまった。

そうだったのか、、、。そうだったのね、ひまわりちゃん。被災してお婆ちゃんを頼って熊本まで来たのに、まさかまた被災するなんて。ご両親は?ご健在なの?それとも?

そういえば、入学式の後、そのまま講堂で映画を見せられたよね。これから看護師を目指すあなた方へ見せたい映像ですという紹介の後見せられたのは、東日本大震災直後の、津波が何もかも飲み込んだ後の、生々しい映像だった。次々と病院代わりの倉庫のような場所に運ばれてくる泥水だらけの患者。黒色のトリアージをつけられて判明するようにほとんどが遺体だ。切迫した医療の現場と医療者達。目の前で大事な人を亡くしていく人々。映画は、実にリアルに震災を再現していた。

ひまわりちゃんは、一体どんな気持ちであの映画をみていた?暗がりの中、小さな肩を震わせて嗚咽を堪えている女の子が遠くに見えていた。映画が終わって、皆が退出している時も、いつまでもうずくまっていた。あれは、ひまわりちゃんだったのね。

神様は、どうしてたった一人の女の子に、こんなにも、こんなにも、これでもかこれでもかというほど試練を与えるんですか?酷過ぎやしないですか?彼女が背負ってきたものの重さは計り知れない。

あの時、おかげで私は引き返して風呂に水を貯めました。余震に怯えながらも、水を貯めてる間に外へ持ち出す物を準備出来ました。ありがとうひまわりちゃん。

ようやく、今日ひまわりちゃんにきちんとお礼を言えました。よかった。   


お値段以上、ニトリ。


#エリコの思い出語り