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出会いの瞬間

"ついにCathyさんに会える!!"

自分から出会いを掴んだものの、いざ、お会いできるとなると、想像しただけでソワソワし、興奮していた。
数日前からなかなか眠れず、旦那に「祈っててよ!!!」とわけのわからないプレッシャーをかけていた。


会える前日、Cathyさん(キャシーさん)からこんな連絡が入った。
「東京駅に16時42分に着きます。調べたら、あなたのお店がある秋葉原までは電車で4分ですね。秋葉原に17時に会いましょう。1時間くらい大丈夫です。」

私は「奇跡だ!」と思った。
なぜなら、秋葉原には、社内でマザーハウスストリートと自称呼んでいる昭和通りがある。笑
駅から7分歩くと、マザーハウスのジュエリー店、最後の一品を扱う一品店、そして、バッグを扱うマザーハウスの本店が並んでいる。

「言葉というのは分かりやすいけれど、商品はもっとずっと多くのことを語る」という自分の信条を、ずっと信じてきた。
だから、キャシーさんが「商品を見てくれる」ことに立ち会えるならば、それは最高の紹介になると思っていた。

そして、そこで商品が彼女の心に届かなければ、背景のストーリーにどんなに共感いただいても、まるで意味がないなとも思った。
本のために会うが、私は、18年間、デザイナーとしてやってきた自分自身が試されているような感覚もあった。


彼女がこれまで手がけてきた本は、実は絵本が多い。
その中でも所謂エッセイや自伝系は片手ほどの数しか翻訳をしておらず、非常に厳選されている。

それにも関わらず、彼女の翻訳に定評があるのは、こんまりさんの本が1300万部売れたということが少なからず事実としてあるからだ。日本では考えられない部数だ。

断られてしまう可能性を大いに抱きながらも、限られた時間内に、キャシーさんにとって価値のある話をしたいと心に決め、駅に向かった。


時間ぴったりに改札から、白髪のショートヘアで、トランクを持ち、辺りを見渡す女性が歩いてきた。
エレガントという言葉がぴったりな雰囲気の女性だった。
私はストーカーのごとく、事前に色々と検索をしていたので(笑)すぐにキャシーさんだとわかった。

「Hello!!! So nice to meet you!」と私が言うと、彼女はさらに素敵な笑顔を見せて挨拶してくれた。

この出会いの最初の一瞬から、私の直感アンテナは発動していた。

「この人は素敵な人だ」と心から感じ取った。

言葉でうまく表現できないんだけれど、私は良くない習癖と思いつつ、これまで散々痛いめにあってきたので、自分が付き合いたい人、付き合うべきじゃない人は、出会い頭で瞬時に心が信号を出す癖がある。

勝手に内心盛り上がりながらも、
「この通りには、お店が並んでいるんです。3店舗あるのでご案内します。」と、私は彼女のトランクを引っ張りながら、ジュエリー、お洋服、そして本店へと向かった。


キャシーさんは、開口一番に静かな声で言った。

「普通は、著者から直接、お話をいただかないのですよ。」

「え・・・。ああ、、、そ、そうでしたか?」

「はい。普通は出版社を通しますし、通したとしても著者とは直接会わないで進めることも多いです。こんまりさんには一度もお会いしたことがありません。」

「え・・・・。そうなんですね・・・。私、そのような出版業界の慣習やプロセスは、全くの無知です。ただ、キャシーさんが翻訳してくれたら素敵だなって思ったので連絡しました。」

キャシーさんの言葉からは、彼女が私の猪突猛進な言動に若干呆れているようにも感じ取れ、構造的に何か間違ったことをしてしまったのかな、と思った。


しかし、数分して、バッグの本店に到着した時、キャシーさんがウィンドウを見ると急に私より早足になり、中へ入っていった。

彼女は、お店の一番前に置いてあった小ぶりなバッグを手に取ると、

「素晴らしいわ。色使いも。デザインも。これがバングラデシュで作られたものとは、とても感動しています。」と言ってくれた。

「え!嬉しいです!!!」

私は嬉しすぎて、子どものように、正直にそう言った。
まさかここまでプロダクトを気に入ってくださるとは思いもしなかったが、キャシーさんが手に取ったバッグやストールは、彼女の雰囲気や品格に、ぴったりのもの達ばかりだった。

私はさまざまなバッグの背景を説明しながら、本店の棚に飾ってあった「バッグの向こう側」という本を取り出した。

これは、私が個人の趣味で作った「(自社工場の)職人の写真集」だ。

(誰が読むんだ!?)という類のマニアックな本だが、職人みんなの、カッコ良くて、かわいい姿をどうしても記録に残したいという気持ちがあり、日本からプロのカメラマンにバングラデシュに来てもらい、素敵な紙で印刷して、自社出版したのだ。

職人の本をめくりながら「こんな工場で作っているんです。」とみんなの顔や工場の風景を見せた。

キャシーさんは、ゆっくり頷きながら、とても丁寧にページをめくっていた。


「それから、これが訳していただきたい本です。“裸でも生きる”というタイトルで、日本では10万部程度講談社によって出版されました。」と私は彼女に本を渡した。

「なるほど。“裸でも生きる”というタイトルってなんだか面白いですね。何万字あるんですか?読ませていただきます。」

「11万字くらいです。」

「あなたが書いたんですか?」

「はい。日記みたいなもので、お恥ずかしい文章ですが。」

本を書いた時は「きっとそこまで売れないし、記録用だ」と思って書いていた。だが、いざ、自分の乱文をプロフェッショナルなキャシーさんに読んでもらうことになると、今更ながら非常に恥ずかしい気持ちが湧いてきた。
内容が稚拙すぎて、却下されてしまうかもしれない、と心配していた。


けれど、キャシーさんはお店を再びぐるぐると見て、ストールや、小物も手で触って、しっかりとした口調で語り始めてくれた。


続く。

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