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聴覚に障害のある方々にオンライン講座をどのように届けたのか。トライしたことやその先のこととか

国立大学法人筑波技術大学産業技術学部にて、就活に関する講座を届けさせていただいています。
スタートから7年が経ちました。

平時(1月まで)は対面型の講座が行われていますが、今年度は感染症対策のため、前後期の一部を除き、多くがオンライン型の授業に変わりました。

これまでに、他大学でもキャリアやコミュニケーションに関するオンライン授業を複数回担当してきました。
しかし、こちらの大学には特徴があり、オンラインによる講座の進め方にはより工夫が必要でした。

大学職員や先生方も、オンライン授業には慣れていますが、このちょっと複雑な構造のオンライン講座には大きな不安があったことと思います。
正直、私も不安を抱えながら方法を考える日々でした。

そのために何をどのように準備したのか、また、当日運営して課題と感じたことは何だったのか、などを記録として残したいと思いました。

これは、就活講座の中身についてではなく、当日PC画面にそろった人たち全員の挑戦の記録です。

筑波技術大学とは?

筑波技術大学は、視覚・聴覚障害者のための高等教育機関です。
私が担当している産業技術学部は、聴覚障害のある方々が学ぶ学部です。
日々の授業は、手話、口話、字幕、板書、視覚教材などを用い、内容を伝える工夫をしています。
先生方は手話で授業を進めます。

すなわち、学生のほとんどが聴覚に障害がある方々です。

平時の対面型講座運営を整えてくださる方々

ところで、私は手話が使えません。
小5のときに、近所の地域センターで聾の方と知り合い、月に何度か手話を用いて対話をした記憶があるのですが、どうやって覚えたのかも忘れました...。
簡単なあいさつや名前くらいしか届けることができません。
学内では手話のできない聴者(聴こえる人)の私は、完全なマイノリティです。

1月まではどのように講座を届けていたのか。
私が登壇させていただく際には、以下のような方々が講座の運営を整えてくださっています。

・手話通訳者の方(2~3名)
私の話を手話で学生に届けてくださるほか、学生が手話で話したことを、通訳して私に伝えてくれる役割です。
約15分ごとに交代をしながら同時通訳をしてくださいます。

・PC要約筆記[字幕]担当の方(3~4名)
私の話をそのまま文字起こしをして、字幕に投影してくださいます。
学生の手話を手話通訳者さんが訳した言葉も、文字に起こします。
私の話のほうがスピードが速いですから、一文ごとに役割交代をしながら字幕をタイピングしてくださいます。
交代のタイミングはなんと「阿吽の呼吸」なのだそうです。すごい。
なんとなく「次、私じゃね?」という感じなのだそうです。
無言のチームワーク。
私の話がすべっていたとしても、そのまま文字起こししてくれます。

・会場設営担当の方
学生の位置から、講師、手話通訳、字幕の映るスクリーンが見えやすいように、教壇やスクリーンの設営、学生と私用の字幕モニターの位置を決めたり、配線や照明を整えてくださいます。

・先生方と職員の方々
就職委員の先生、授業のコマを分けてくださっている先生、
ご自分の学科の学生が参加している先生は、授業の様子を見にきてくださる方もいらっしゃいます。
また、私との橋渡しを担ってくださっている職員の方々も見守ってくださいます。 

大事すぎる打ち合わせとリハーサル、そして雰囲気

大学の皆さんも、講座をハンドリングする私もゴールはひとつ。

「学生に内容を届け、就職活動への一歩を安心して踏み出してもらうこと」です。
これは対面時も同じです。

そのために、まず運営の方々に向けて私ができることを考えました。
これはもう、私から複数回の打ち合わせやリハーサルをお願いすることしかないのでは、という結論に至りました。

先述した通り、運営の皆さんは聴覚障害のある方への対応のプロフェッショナル集団です。
私は講座運営のプロフェッショナルですから、両者で力を合わせれば強いはず。
未曽有の状況にも、お互いに気を配りながらも、忖度なしで意見を出し合う環境を作りたいと思いました。

お互いに気を遣いすぎると、遠回しな言い方や不必要な遠慮が発生し、結果として大事なゴールが目指しにくくなることがあります。
ここはズバッと言ってもらったほうがいい。
私の講義中でも、「汐見さんちょっと待って!」という場面が発生したら、マイクオンにして「汐見さんに業務連絡です!」と割り込んでもらうようにお願いしました。

数回の事前打ち合わせに加え、配信テストを兼ねたリハーサルを行ったほか、メンバーのTeamsチャットに入れていただきました。
打ち合わせ後の懸念点も、ここでやりとりできました。

配信方法と大学側のセッティング

こちらが学生が見ているPC画面。

★就職活動準備講座1

左が私。
右が手話通訳者の方と、その下に字幕(PC要約筆記の方々担当)。
大学側にてOBSを使って画面を合成、ZOOMで配信しています。

私は自宅からの配信、大学職員の皆さんは、ひとつの部屋に集って配信をしています(※配置は私のイメージ)。
今回、PC要約筆記(字幕作成)の皆さんは、PCからの音声を頼りに、教室外から遠隔参加だったそうです。

配置図

準備段階で心配していたこと、工夫したこと

①学生の認知負担への対応
聴覚に障害のある方にとって、視覚から得る情報はとても重要です。
相手が人の場合には、感情や話の意味を得るために、表情や口型をよく見ます。

教室では、広角かつ奥行を余白として情報を得ることができていました。
しかし、オンラインでは奥行の余白がないままに、平面上で「話者の表情・口元」「手話」「字幕」「チャット」に目を移さねばなりません。
しかも手元には資料が。
これらに目を配るのは、想像を絶する疲労度なはずです。

<工夫>
・画面共有は使わない
・ワークの進め方も、あらかじめレジュメに記載
・レジュメの解説は、ページごとにまず読んでもらう
 読んだら「手をあげる」ボタンを押してもらい、解説に移る

音声を頼りにしている方もいらっしゃいます。
できる限りクリアな音声を届けたい。
補聴器を使っている方もいらっしゃるので、なんとしてもハウリングは避けたいです。
(リハーサル段階で盛大にハウリングしました。すみません...)

<工夫>
・コンデンサーマイクを使用。イヤホンで自分の音声もモニタリング
・ゆっくり話す

②学生への指示やお願いごと
対面時は、学生に話しかけたいときには、目の前に行って手を振るなどができました。
しかし、オンラインでは呼びかけてもサインが届きません。
チャットで呼びかけても、ひょっとしたら気づかれないかもしれません。

また、ワーク時間の終了などを伝えるときには、教室の照明のON/OFFを繰り返すことで気づいてもらっていました。
これも、オンラインでは難しいことです。

<工夫>
・指示やお願いごとは、チャットにも書く
 想定している指示内容は、あらかじめメモしてコピペで素早く送る
 例)P.5を読んでください。読んだら「手をあげる」を押してください
・ブレイクアウトセッション時のチャットは、Teamsを使用
 (しかしブレイクアウト中は使う人がいなかった...)

残った私の課題

①私が字幕を追えなかった
対面時には、私の手元にもモニターがあり、字幕が出終わってから次の話をするように心がけています。
オンラインでは、2台のPCからアクセスし、1台はギャラリービューで学生全員の顔が見える配置、もう1台はスピーカービューで字幕が読める配置にしました。

字幕を読み切れると思っていました。
万が一の誤字にも対応できると思っていたのですが、見るところが多すぎて、字幕の内容は全く追えませんでした。
雰囲気で、「いま字幕終わったっぽい」と感じながら進行しました。

「学生の様子」「レジュメ」「チャット」「手話」「字幕」。
私自身の認知負担もなかなか大きいことに気づきました。

できるだけカメラ目線でお届けしたいという心理のもと、でもしかし、学生の様子、手話や字幕の終わりを見たいという欲求が、視線を定めることを妨げたような気がしています(推測)。

②私のリードミスにより、学生を困らせてしまった
就活に関する内容のため、学生同士のワーク時にも、丁寧な言葉で手話をしてほしい意向がありました。
そこで、「今日は敬語で話してください」と伝えました。

これにより、「け、敬語!無理!」となった学生が大勢いました。
結果として、チャットを選択する方が多く出てしまい、ワークが時間内に終わらない方が出てしまいました。

これ、完全に私のリードミスです。
もう「ごめんなさい」しかありません。
「丁寧な言葉を心がけてください(若者言葉は控えるの意)」と伝えればよかったです。

2回目の講座内で指示ミスをしたので、学生には3回目の冒頭で謝りました。
3回目は学生ごとの判断で、手話とチャットを使い分けていました。

③学生の手話の読み上げ通訳をするかしないか詰めていなかった
手話通訳の方は、私の講義を学生に向けて通訳してくださるほかに、学生の手話を私に通訳してくださる役割も担ってくださっています。
対面時は、私の耳元でささやいてくださいます。

この打ち合わせを忘れていました。
オンラインだと私の耳元でささやけません。
読み上げると、学生に丸聞こえになるわけですが、手話と字幕を見ながら、かつその中でも音声を頼りにしている学生に、読み上げがどのように伝わるのかを検討せねばなりませんでした。
(手話+発話で話している学生がいたとすると、そこに通訳の音声が被ります)

ここは次回以降も課題です。

④その他
運営上の課題として、
・字幕が速いと追いきれない
・字幕が小さいと読めない
・手話が読み切れない

などの声をいただきました。
デバイスの種類により、見え方も異なります。

学生の様子を見て気づいたこと

以下は、本番の就活にも必要な観点ですので、もしよければ参考にしてください。

①自分がどう見えているかを意識してみる
特に手話を使う方同士の対話は、手話が見切れないようなカメラ位置を意識しましょう。
手話が見切れていることに気づかないまま進めると、結局相手には伝わりません。
学生同士でフィードバックをしあう中で、自分がそこに注力していなかったことに気づいている方もいました。

ダメなことではなく、新しい環境での新しい学習です。
視覚で情報を得られる方にとって、オンラインは日頃自分がどう見えているかが自分でわかるツールです。
これは聴こえる人も同じことです。

②接続が不安定だと、手話が途切れることがある
これ、仕方がありません。
聴者同士の対話でも起こることで、その場合は音声が途切れます。

不測の事態には、今できることは何かを考えてみてください。
通話相手からそのことを伝えたり、提案することもできます。
途中で話を止めるのは悪い、という心理が働くかもしれませんが、わかったふりをして、結局話が理解できないのでは、コミュニケーションは成立しません。

オンラインはチャットで補完できるので、併用するといいですよね。
聴者同士の対話でも使えます。

③原稿を読んでいると、手話が速くて読み取れないことがある
聴者同士の面接でもあるあるです。
原稿を棒読みすると、早口になり、表情も動きませんから、感情や意図が伝わりません。
手話も同じでした。
これ、すごく勉強になりました。

表情や手話の大きさなど、全てを使ってあなたの大切な話を伝えきってください。

そして、相手に伝わるように、相手を見ながら自分も見ながらゆっくりと。

④発話をする方は、マイクの音量を事前にチェック
聴者の協力者がいる場合には、事前にマイクの音量をチェックしましょう。
最初の音量設定が極端に小さくなっていると、発話が聞こえません。

講座の時に事前にチェックをしたい場合には、少し早めにログインして、その旨を伝えてください。
一緒にチェックしましょう。

⑤指示への反応など、教室運営に協力してくれると盛り上がる
対面時も同じです。
聴いていること、見えていること、理解できていることへの反応を出してくれると、話者は安心します。
うなずいてくれるだけで、話者はリズムがつかめてきます。

実際、私は反応をしてくれている学生を心の中でロックオンし、その方の反応から勇気をもらいながら講座を進めていました。

手話や字幕を読み終わってからの反応で構いません。

そして、出した指示は遂行してくださると嬉しいです。
キャンパスに通えず、全国からアクセスしてくれている皆さん、学内の寄宿舎からアクセスしてくださっている皆さん、なるべく全員で前進したい意向があります。
指示が遂行できていないと、次の講義に移っていいものか、不安になりました。

しかしこの運営方法による講座は、学生にとって情報過多で認知負担が大きいため、できる範囲でゆっくりで構いません。
仕事は、まずは受けた指示を遂行するところからスタートしますから、それができるかの確認もしています。

皆さん、協力をしてくださってありがとうございます。

チームチーティングに感動

学生の皆さんは気づいていたでしょうか。

実は音声が出ない時間があったり、字幕画面の合成作業に時間がかかってしまった部分がありました。
(ブレイクアウトセッション後は、OBSの合成画面設定が解除されるので、もう一度組みなおす必要があります)

そのときに、チャットでその旨を案内してくださったり、字幕が映らない時間も、私の話がチャットに反映されていました。

これは、運営の方々や先生方が、「ここは私の出番!」と自らアクションを起こしてくれた結果です。

トラブルがあっても大丈夫。
離れた場所からでも、全員が同じ目標を持ったチームであることを感じて、感動しました。

学生の皆さんが、日々の活動でさまざまなトライアンドエラーを繰り返していることと同様に、私たち働く人も失敗や挽回を繰り返しています。

今回は、そのことも学生にしっかりと見ておいてほしいと思いました。
失敗は一瞬は怖いかもしれませんが、挽回する力を発揮することが大事なんです。

聴覚障害のある学生を、オンライン就活で採用する人事の方に知ってほしいこと

オンラインでの就活が積極的に採用されるようになり、オンライン面接ツールを使用する企業が増えました。

ツールは、人事の方に向けて、スケジュール管理や面接評価の記録が残せる便利なものとして開発されています。
面接を受ける方も、わざわざ会場に行かなくてもよいので、移動がなくなったオンライン面接の恩恵を受けている方も少なくないでしょう。

一方で、聴覚障害のある方は、このオンライン面接ツールで困ることがあるとも伺いました。
ツールによって聴こえ方が異なるそうなのです。
これは、わずかな音声を頼りにしている、聴こえづらい人にとってはなかなか焦るものです。

オンライン面接ツールは、学生が無料で事前に試せるものではありません。
しかも場面は面接。準備を整え、緊張が走っている場面...。
そこで想定外の「聴こえない」が発生したら焦りますよね。
聴者の私も、オンライン開始時に音声のやりとりができないと、慣れた相手とのミーティングでもかなり焦ります。

ゆえに人事の皆さんには、学生が日頃使っているオンラインツールをヒアリングしておいてほしいのです。
万が一のときにはそちらに切り替える、もしくは最初からそちらで面接を行う、などの工夫があると、学生は安心して面接に臨めると思います。

学生の皆さんも、相手の対応を待つだけはなく、自分がいちばん安心して臨める場面を、自ら提案していただけたらと思っています。
リスク管理は仕事でも必要な観点だからです。

今回は学生の就職活動を前提に書いていますが、学生以外の方でも同じことがいえると思います。

おわりに

冒頭で、「学内では手話のできない聴者(聴こえる人)の私は、完全なマイノリティです。」と書きました。

しかし、教室や大学構内を一歩出ると、聴こえる人と聴こえない人(聴こえづらい人も)の立場は逆転します。
聴こえる人がマジョリティの世界では、聴こえない人はマイノリティな感覚を得ているかもしれません。

私が学内でマイノリティであることをどのように感じているかを言語化してみると、

・私だけが置いて行かれているような気がする
・みんなと違う
・到底この中には入れない

のような感覚です。

これは、日頃学生の皆さんが、学外で感じていることではないかと思っています。
手話は自分で努力すれば獲得できるスキルですので、私自身のマイノリティ感は、自分の努力で補うことができるものです。
一方で、障害そのものは努力や工夫で補える部分と、そうでない部分があります。

以前に、「障害者とは、障害のある人のことを指すのではなく、障害がある人が前進しようとすることを阻む人のことではないだろうか」と、信頼している人から問いをもらったことがあります。

私はオンライン講座に切り替わる以前から、大学職員の皆さんや、学生の皆さんに、私自身の仕事を助けてもらってきました。
私が前進しようとするのを助けてくださることに、障害のあるなしは関係がないことを日々感じています。

オンラインに切り替わり、PC画面上に学生の顔が並んで見え、私の話にうなずいてくれたり、私の失敗にも「気にしなくていいですー!」と手を振ってくださる学生の皆さんに、私は救われています。
私にも「伝わっているのだろうか」の不安が常にあるのです。
あなたの反応を糧に、前進しています。
私もそうありたいと思います。

学生たちは、何を感じてくれていたのでしょうか。
こういうとき、ゲスト講師はちょっと寂しさが残ります。
学生の成長を、先生や職員の皆さんに託し、出会った学生たちが前進できることを信じて、私も今日もなんとか。

でもやっぱり、学生の皆さん、職員の皆さんにお会いしたかったですよ。

図らずも、わからないことだらけの世界に飛び込むことになったこの時期ですが、前期を経て、様々なオンライン授業を受けた学生はすでに、オンライン授業の先生なのではないかと思っているこの頃です。
このあたり、学生にとっては将来の仕事においても、テクノロジーの進化と共に、その課題を提案できることになるので、不便さを感じながらも必要な体験だったと思います。
(4年生は就活がいきなりオンラインになり、それどころではなかったですよね...)

◇◇◇

今回は、外部の聴者の講師とのオンライン講座運営について書きました。

筑波技術大学では、情報保障(障害のある人が、情報を得る際にそのままでは情報を得られないとき、必要な支援を行って情報が得られるようにすること)を行っています。

しかし、学外の日常にそのような情報保障はないのが現状です。

また、聴覚に障害のある人と一概に言っても、
 聴こえない人/聴こえづらい人
 手話を使う人/手話を使わない人
 発話をする人/発話をしない人

など、障害の特徴や、コミュニケーションの手法は人それぞれです。
しかもこれらは、見た目でわかるものではなく、周囲から気づかれないことがあります。

だからこそ、初めてコミュニケーションを図る際には、お互いにどうしていいかがわからずに、躊躇することがあるのかもしれません。

でも、そこを越えると相手を知ることができます。
そのとき、使える手段で対話をしてみてください。
聴こえない人は、どうやったら対話がしやすいか、聴こえる人に教えてあげてください。
ひょっとしたら、関係性が慣れてくると、あなたが聴こえないことを忘れられてしまうかもしれません。
「私にも教えて」というアクションを何度もしてください。
聴こえる人は、相手とのコミュニケーションをあきらめないでください。

そこに至る過程も含めて、全てが大事なコミュニケーションであり、信頼なんです。

そして私たちの挑戦は、この先も続きます。
工夫をしながら一歩ずつ。



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