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1000年続く「美しさ」を残したくて。ジンという嗜好品に込めたもの

「君は一体、どこへ向かっているの?」

これは、私たちの新しいブランドE CA QUI(エカキ)のプロダクト公開直前に、10年来の友人から投げかけられた質問。

たしかに、フリーランスとして独立してからの私は「編集者」と名乗りながらも仕事を中断して1年弱も海外に滞在しちゃうような突拍子もない行動を取り、かつては旅行コンテンツばかり作っていたのに、SDGsや働き方、お茶、ガストロノミー、伝統工芸、ものづくり、ファッション……と扱うテーマの一貫性のなさも年々磨きがかかっている。

そこに突然「クラフトジンを作ります!」ときたのだから、私をよく知る人だったとしても、大きなクエスチョンマークが浮かぶのは無理もない。この問いかけをしてきた彼も、きっと同じだったのだと思う。

でも、私の答えは意外とあっさりしていた。

「私はさ、美しいものを残したいんだよね」

その思いは美大で絵を描き、美しいものを生み出せる人たちを間近で見続けた時代から、ずっと変わらず私の中にある。

人生を賭けるなら美しいものを守り育てることをしたい。美しいものを残すための自分らしいアプローチを探して、10年以上、ずっと足掻いてきた。

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日本の土地土地に根付く、美しい風景や町並みや暮らし。
長く継承されてきたものづくりの、無駄のない美しさ。
ただ栄養を摂取するだけでない、食や嗜好品に人が見出してきた価値。

私は世の中の美しいものの中でも特に、こういうものにめっぽう弱い。人から人へと継承されてきた研ぎ澄まされた叡智や、五感をフルに使って感じ取るものが多いように思う。

それらは知的好奇心を駆り立てて、いつだって見たことのない景色へと私を連れて行ってくれる。

この9月にリリースしたE CA QUIも、自身の「美しいものを残したい」という欲望の途中にある挑戦として位置づけている。

私の愛する美しいものたちは、残念なことに生きていくために必要不可欠なものではない。そのうえ理解するのにある程度の教養が必要だったりすると、誰もが楽しめる身近なものにはなりえない。

しかし、楽しむ人が少なければ静かに途絶え、この世から消えてしまう運命を辿るしかない。

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そんな人々との距離感と、私の愛するものたちの行く末の暗さに、絵を描いていた10代のころからずっと寂しさを感じていた。(そして絵は描くのを辞めてしまった)

でも、美しいものを見たとき、芳しい香りを感じたとき、新しい味わいを知ったとき、人は言語を超えた新しいなにかを発見し、誰かと共感しあい、愛でることができるのだ。その言葉になりきらない経験の数々を、人生をかけて静かに澱のように自分の中に沈殿させてゆく行為は、一度知ってしまえば後戻りできない麻薬のような魅力がある。

生きるために必須なものではないけれど、知識や楽しみ方のコツが必要ですこしハードルが高いけれど……でも、その愉しみを知ってほしい。そのために、いかに日々の暮らしに近づき寄り添い、少しでも気軽に体験を積み重ねていってもらえるのか。

E CA QUIを一緒につくった谷口萌と再会したのは、そんなことを自分の中で考えたり、こねくり回したりしていた頃だった。

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彼女は、素材の選択肢が多く懐の広いジンの可能性を見出し、自分で漬けるだけで簡単に作れる面白さを伝えたいというアイデアをすでに持っていて「一緒にやらない?」と声をかけてくれた。

浅草のホテルで「これは恵理をイメージして作ったジンだよ」と、お茶をベースにしたジンを飲ませてもらいながら「これは私がずっと探していた“人の暮らしに寄り添う美しさの体験”のひとつになりうるんじゃないかなぁ」とぼんやり感じた。

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深く話していくにつれ、海外のラグジュアリーシーンに身を置き、働いてきた彼女と「五感の中で最も記憶に残る“香り”の価値」や「エデュケーショナルな体験こそ面白い」という感覚がピタリと一致するのを感じて、これはちゃんと世の中に送り出したほうが良いものだなと自然と覚悟のようなものが決まった。

E CA QUIのジンは、素材を自らの目で見て確認して漬け込む。そうすることで、できあがったお酒を飲んだときに「この香りはカルダモンだ」「ほのかに花の香りがするかもしれない」と気付きやすくなる。

こうして自身の体験を通して香りに自覚的になることで、嗅覚は磨かれ、知識も積み重なってゆく。そうすると、もっと複雑な香りやお酒の嗜みを楽しめるようになる。そんな入り口のような存在になってくれたらと思っている。

そうやって「美しき経験」を自身の中に少しずつ沈殿させてゆくことで、人生を楽しむ人が1人でも増えてくれれば、きっと私の愛する美しいものたちは形を変えながら100年、1000年先も残り続けてくれるはず。

そんな願いと共に、E CA QUIのジンを世に送りだしています。



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