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Human|チーズ職人 藤川真至さん

CHEESE STANDの藤川真至さんと、食事にいって、ゆっくり話すことができました。

2019年7月から、僕が「料理人付き編集者」をしたい! といったことに、まっさきに反応していただいたことで、それまでは、すれ違った程度でしかなかった関係から、インタビューをしてnote に投稿したり、CRAFTSMAN × SHIP というイベントをしたり。その間、いろいろな話をしてきました。

食事のときに、「自己評価は低いんです」と藤川さんがいうので、この場を借りて、「いやいや、あなたすごいですからね!」と、このnoteで全力で否定していきたいと思います。

CHEESE STANDへの憧れ

実は僕は、前職のころからCHEESE STANDに、すごく憧れがありました。憧れというのは、うまくいえないのですが、こういう発想を自分もしたいと思ったということですかね。

ヨーロッパがチーズの本場で、その味が基本だ。新鮮な牛乳が手に入る山奥のチーズがおいしい。国産チーズはあくまでおつまみ。

そんな、30年前のままの情報と、考えることを放棄した思考停止の大多数の人に、「それって本当なの?」「街中で作られたチーズは、田舎のチーズと違う価値があるよね」という、神話に真っ向からペロリと舌を出した。そんなところが、僕にとってのCHEESE STANDの魅力でした。

仮に、「都心でチーズ作ったらおもしろいかも」と、考えることはできます。だけど、それを実行して実現させるのは、さらに難しい。イメージを実物にしてしまうのは、ほんとうにすごいことだと思います。

一方僕はといえば、果たして、編集の分野でそんなことができるのか。どんなことが神話で、どんなことがリアルなことなのかもわからなかった僕には、その入り口にすら立てなかったと思うんです。そういう意味でも、「すごい」という言葉でしか表現できない憧れだったんです。

そして、藤川さんのCHEESE STANDの出現とそのコンセプトは、チーズとの関わり方を根本から変えるような、大事件と言っていいものだったと、僕は思っています。

CHEESE STAND以外でも、たとえば、現在のオウンドメディアブームの前から「CHEESE media」(現在はCHEESE STAND media)をスタートさせたり、CHEESE STANDのセレクトショップ的な姉妹店「& CHEESE STAND」、オフィシャル4コママンガ「モッツァーマン」など、チーズと社会の接点を藤川さん独自のアイディアで増やすような提案を続けています。

チーズ職人として、毎朝3時から工房でチーズを練りながら(だから寝るのは20時頃だって笑)、PRのアイディアを実現させていく。そしてもちろん会社の経営者でもある。

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作って、届けて、売る。そこまでを強く意識している人は、チーズ職人としてだけでなく、飲食業人として、物づくりの人として、他にいなんじゃないでしょうか。まずはチーズ職人としての評価(おいしいチーズを作れるのか)があってこそ、ほかの2つができることなのですが、そういう点でも尊敬しちゃってます(僕は、編集しかできないし。。。)。

チーズと社会のかかわり方を変える

CRAFTSMANの想いを知ってもらいたい」と、藤川さんは繰り返し言いつづけています。

CHEESE STANDとそのブランドを愛する人が、互いにフラットな関係を保ちながら、プロダクトを通じて、それぞれの世界を繋げていく。僕は、藤川さんの言葉の意味は、こんな世界を目指しているんじゅないかな、と思っています。

ここにあるのは、作る人、食べる人の間に「敬意」という、人の温もりを取り戻そうとする行為。商品を売ったり買ったりする消費行動の原理を変えようとする取り組みなのではないかと思っています。

たとえば、作る人と買う人の間にある「価格」という基準を、僕たちは、社会が決めた相対的な価値のなかで判断しています。

みなさんにとって1000円の価値ってなんでしょうか? 缶ジュース6本分? 10万円の1/100? 1回のランチの限度額? これらの1000円は、一様な価値でしょうか?

お金の価値は、もっと自分自身で決めていいはずです。私たちはお金を払っているのではなく、商品を手にしたり、それを使ったりするときに生まれる心の動き、感動にお金を払っているという考え方を新しく持つことができれば、「お金の奴隷」から解放されるのではないでしょうか。

今回例に出した1000円は、僕がCHEESE STANDの商品で、一番好きな「ブッラータ」の価格です。この商品を缶ジュース6本、と思うのか、1回のランチを食べるのと同じだと思うのかは、お金の価値によって商品を測ってしまっています。しかし、ブッラータだけを見て、その製造法方法や、牛乳の質、そこにかける安全管理の徹底などを知れば、決して1000円は高くないと思うはずです(すくなくとも僕はそう思う)。

そのさまざまな環境によってお金の価値が左右されてしまうのは仕方がないことだと思います。人間はそこまで気を張っていられません。そういう意味では、お金の価値は、あなたのなかで刻々と変わっていっています。

そのお金の価値に対して、ある一瞬、CHEESE STANDを購入するときだけは、社会の価値ではなく、あなたの価値として、お金を払ってほしい。そういう世界を、藤川さんは目指しているんじゃないでしょうか。

いやいや、そういうの関係なくて、その商品がおいしいかどうかでしょう?」。そういう意見もよくわかります。ものを見る目、審美眼をもつ人にとっては、バカげたまやかしだと、失笑されるかもしれません。

しかし、そんな人がどうやって審美眼をもつことができるようになったのでしょうか。おそらく、「おいしい理由」を知ったからではないでしょうか。

この味になった意味を伝える」こと。つまり、おいしさの理由を明かにするということが、「想いを伝える」ということは、意味なのかもしれません。

それなら僕にもできることがあります。

作る側もその「想い」に、思い込みや誤解、嘘や事実誤認があってはいけません。真摯に、そして慎重に伝えていく必要があります。

料理人付き編集者として、この部分は、僕にできることだし、僕の得意とするところだと思います。これからも真摯に、慎重に想いを伝えていくことを手伝っていきたい。

そんなことを考えた夜でした。

撮影/坂田佳菜女






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