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専門科より先に救急科専攻医プログラムに進むべき理由

読者ターゲット

救命救急医として向上心を持って働きたいと思っている研修医

この記事を読むと達成できること

救急科専門医プログラムを先に専攻すべき理由を知ることができる。

執筆動機

・救命救急医でないにも関わらず、学生や研修医相手に安易な助言をする他科医師が昔から存在しており、それらに対するアンサーを書きたかったから。
・救命救急医として生きていくなら、救急科専門医プログラムを先に専攻すべきだと思う理由を研修医に知って欲しかったから。

そもそもサブスペシャリティを何のために身につけるのか

救急救命医にとって他の専門を学びに行く理由は大きく分けて2つあると思っています。
1つは純粋に「出来るようになりたい、やってみたい」という気持ち。
もう1つは救命センターで働く上で必要だから身につけなければいけないという使命感です。
正直なところ前者であれば順番はどちらでもよくて、その時の縁だったり自分の気持ちを大切に選べばよいと思います。

今回の記事では後者をモチベーションとしたサブスペシャリティ研修について述べていきたいと思います。

念のため補足ですが、あくまで救急救命医として向上心を持って働きたいと思ってる研修医に向けて書いています。必ずしも医師がみな強い向上心を持つ必要はないと思っていますし、仕事として割り切ってらっしゃる先生もいるかと思います。
この記事で書いた内容を皆様に押し付けたいわけでは決してありませんので、その点はご理解いただければ幸いです。

最初の1年は救命センター所属が好ましい

初期研修の頃から救命センターで長く働いていたとしても、救急救命医として責任の伴った勤務が始まるのはやはり専攻医になってからです。
責任のある立場として少なくとも1年間は、救命センターの蘇生の現場で働いた方が良いと思います。

最初は何も出来ませんから、無力感を覚える日々でしょう。
しかしながら、それがとても良いと思うのです。
「○○が出来ないと、△△をやらないと患者さんが死んでしまう」という強い危機感の伴った実体験が皆さんを学習へと駆り立ててくれます。
私自身、後期研修医1年目の頃は無力感を日々感じていました。

上級医を待ってくれない、他科専門医を待ってくれない症例だってある

私が救急科に進んで最初に直面した壁はECPR適応症例でした。
ショック適応波形で搬送されECPRの適応となる症例は時間との勝負になります。最初のうちは上級医の先生と一緒にやると思いますが、いつどんな理由でバックアップがなくなるかはわかりません。
重症例が同時に複数人搬送されてきたり、院内急変が起きてしまった場合など、自分がリーダーとなって対応せざるを得なくなることだってあるでしょう。
したがって、VA-ECMOの導入を安全に行うための修練は、出来る限り早く経験する必要があると思います。

次にインパクトがあるのは気道確保です。救急外来での気道確保は手術室で行う気管挿管とは異なり、様々な理由で条件が悪くなります。喉頭鏡での気管挿管が失敗した場合にどのような手段で気道確保を行うか、あらゆる事態を想定しておかなければなりません。もちろん原則は適切なBVM換気、丁寧な喉頭展開からの気管挿管ですが、場合によっては気管支鏡下での気管挿管、輪状甲状靭帯穿刺・切開、ECMOバックアップなど引き出しをたくさん持っておく必要があります。

他にぶち当たる壁としてはDCSを要する重症外傷があります。REBOA挿入や蘇生的開胸・開腹術はあなたの成長を待ってくれません。こればかりは救急救命医として適切に行えるようになる必要があります。外科医じゃないから、内科系だから、という言い訳は患者さんの前で通用しません。

出来なければいけないと思うスキルの幅は徐々に広がっていく

救命センターで働いていくうちに、前項に挙げたような救命医としてのコアな能力は徐々に身につくことと思います。
するとどうでしょう。

「他科領域のスキルだけど、救命医が担当している・担当することがある分野」も学ばなければいけないことに気づくと思います

施設によって特徴はあると思いますが、救命センターで働く中であなたは様々な課題に直面するはずです。
私が過去に所属していた施設では、心臓血管外科医、脳外科医、整形外科医のアクティビティは非常に高かったのですが、腹部外科医のバックアップ体制が十分であるとは言い難い環境でした。
したがって、体幹部外傷の中でも特に腹部外傷を少しでも自分で対応できるようにならないと、いつか助けられるはずだった患者を死なせてしまうという強い想いがありました。
そういった想いがサブスペシャリティを学びに行く上での大きなバネになったように思います。
この問題意識×目的意識は、最初から他の専門科に進んだ人には持つことのできない感覚だと思います。

自分でやらなくてもいいけど、出来るようになっておいた方が良いスキルも学びたくなる

「やらなければいけない」「できなければいけない」を学び終えると、次に勉強したくなるのは「できるようになっておいた方がコマンダーとしてマネジメントしやすくなる」領域の修練です。

例えば、吐血症例で緊急内視鏡をする場合、可能であれば内視鏡を専門とする医師を呼んだ方が私は良いと思っています。これは単純にクオリティの問題です。
だからといって「自分はできなくて良い」というわけではないと私は思います。症例に応じて、「事前にどんな検査があると望ましいのか」、「気道確保はした方が良いのか」、「準備物品は何が必要か」、「場所やセッティングはどうするのか」、「処置中の管理はどのようなものが望ましいのか」、「治療困難な場合、どのあたりが撤退ラインなのか」 こういったマネジメントに必要な情報は相手の立場に立ったことがあるからこそわかるものが多いです。

「自分がやるわけではないから必要ない」ではなく、「自分がやるわけではないけど、出来るようになっておいた方が見える世界が広がる」という視点を持つことがとても大切です。

それでも最後は好きこそものの上手なれ

ここまで長く語ってきたのに元も子もないことを言いますが、本当に最後は「学びたいという気持ちや学びに対する愛情」が物を言うと思います。

学びのきっかけは使命感や義務感で良いと思います。しかしながら、持続的に修練するためには、やっぱりその分野を好きになって楽しく夢中にならないといけません。

この域に達したら、研修の順番は結局どうだってよくてその時の縁だったり自分の気持ちを大切に選べばよいと思います。

でも、この境地というのは救命医として至らない自分を目の当たりにし、強くなるために修行した結果としてたどり着いたからこそ俯瞰できるものでもあります。

ですから、救急救命医を志す研修医の皆さんには、是非とも最初に救急科専門医プログラムを選択していただき、自分に足りないパーツ探しを始めてほしいと思います。

最後までお読みくださいましてありがとうございました。


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