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城壁のある丘で見たこの街の素顔 その地はリヴィエラまたはコート・ダジュール  #2

 日の出前に海で泳いだ後、マセナ広場の東側の旧市街を通り、城壁のある丘(Bellanda Tower)まで歩いた。豪華なホテルが立ち並ぶ西側に対し、東側は庶民的で、中央のサレヤ広場では毎日8時から市場がたつ。7時半には、すぐにでも開店できそうな花屋や、トラックから重そうに肉が入ったケースを運び出している肉屋、大きなトリュフを並べている八百屋で、もう活気づいていた。市場を抜けると、数十メートル先の突き当たりの崖の下に、鉄の手摺がついた狭い階段が見えた。その上が見晴らし台である。
やっと崖の影から太陽が出した時には、すでにあたりはだいぶ明るくなっていた。Niceでは、水平線からの日の出は臨めない。日の出を見に海に出てくる人はいないわけである。 晴れた日に上ったばかりの、橙色を帯びた朝日に照らされたら、ベージュの壁に煉瓦の屋根をのせた家並みは美しく輝くのだろう。

 展望台の奥の山道が登っていく。この丘の向こう側が見えるかもしれない。
しかし、登りきったところはオリーブの木立で囲まれた公園になっており、眺望はよくなかった。犬を連れた人たちが、思い思いに愛犬を遊ばせ、中学生らしき男の子のグループが、リュックを背中に談笑していた。ここは観光客はあまりこない、地元の人の憩いの場のようだった。目に飛び込んできたのがキティちゃんの遊具だった。

日本だったら100円入れると3分間前後にゆれる、今でも場末の商店街にあるような、あの遊具である。ここでキティちゃんに会うとは・・・。

 Niceの目抜き通りでは、さすが芸術のとと思わせる、Orli IskiやJaume Plenzaの近代的なオブジェから、アポロン像の彫刻が、誇り高く設置されている。フランス人の沽券にかけても、表通りに、日本のキティちゃんなど置くことはできないのだ。ところが、地元の人が集う公園では、実際に人気があり、需要があるものが優先して置かれ、その結果、キティちゃんが鎮座している。フランスで、日本のコミックやゆるキャラが、人気を集めているとは聞いていたが、こういうことだったのか。
ギャップがほほえましい。シルクのドレスで上品に着飾った女性の胸元から、ユニクロの下着をちらっと見てしまったような、親近感を覚えた。
 愛犬を遊ばせている人たちの姿も、東京の自宅近くの公園で、「あら、みーちゃんひさしぶり」と言いながら集まる日本の愛犬家たちと同じだった。
 まったく違う環境で、まったく異なる人種の生活の中にみつけた共通点に、なんだかうれしくなって、坂道を下りる足取りも軽かった。そろそろ市場もオープンしている頃である。

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