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自然界の天才、トビムシからインスパイアされた超撥水技術

水をはじく、それはとても身近にも思えますが、多くの研究者が日夜研究するとても面白い分野でもあるんです。

そして生き物の中には、生まれながらにして、水をはじく能力が非常に高い種族がいます。

今回はそんな超絶水をはじく特徴を持った生き物から着想を得た超撥水材料について紹介したいと思います。


超水をはじくトビムシの表面

研究者たちが着目した生き物はトビムシという昆虫です。

実際のところそんな簡単に語れるものでもないようですが、今回はあまり関係がないので流してしまいましょう。詳細は以下のサイト参照

とにかく、トビムシの表面は非常に特異的な構造を持っており水をはじめとする多くの液体を完全にはじく特性をもっています。この特殊すぎる特徴を人間が利用できるようにしようというのが紹介する論文の目標です。

そもそもどうしてトビムシの表面が着目されたのか?

それはトビムシの表面が普通の撥水素材と逆の構造を持っているという点になります。

逆の構造とは?ってなりますよね。

まず、一般的な撥水材料は空気を収める小さな空間を持った微細な突起構造になっています。これはハスの葉の表面なんかも そうですね。

しかし、このような表面に微細な突起がたくさん生えている状態の場合、環境からの衝撃などによって壊れてしまいます。加えて、凹凸構造がナノスケールになってしまうと濡れと乾燥の間に水の毛管力によって自発的に破壊されてしまうという課題も出てきます。


それに対して、トビムシの構造というのは平らな表面に穴が開いた構造になっています。

そうです、無数の突起が出ているのではなく、無数の穴が開いている構造なんですね。その分、耐久性が高く、人間が一般利用するのに向いていると考えたわけです。

泡を使った材料作り

初めに、トビムシを模倣した撥水材料というそれだけでキャッチーな研究なのに、その作り方から面白いので紹介したいと思います。

普通小さな構造を作るときというのは超精密な装置を使って作ることが多いんですが、ここでは泡を使って微細構造を実現しています。このような方法を自己組織化といいます。

自己組織化という言葉はあまり聞きなれないかと思いますが、とてもわかりやすい例でいうとラーメンの小さな油が一か所に集まってくる現象がまさにそれです。

小さな油は勝手に集まってくるとなるべく密になるように並びます。最終的には一塊になりますが、その手前までが自己組織化、または自己集合や自己集積と呼ばれる現象です。(科学的には言葉の定義がありますが、ここではざっくりと表現しています。奥が深いので興味があれば是非検索してみてください)

参考文献より引用

そんな自己組織化という自然現象を利用して同じサイズの泡を規則正しく並べます。当然泡を扱うときは液体ですが、その後固めて固体化させることで、規則的に穴が開いたような表面構造を作り上げることができます。

応用に向けて

研究グループの目的はあくまで私たち人間が使える素材を作ることです。つまり少し不調になっても再度使えるようにならなければなりませんし、耐久性も高くなくてはなりません。

基本的に、水をはじく素材といっても表面に強い圧力がかかってしまうとさすがに限界が来てしまいます。圧力が高すぎると水が微細な穴に入り込んでしまうという状態が出来上がります。

仮に、1度入り込んだ水が出ていかなくては、再利用ができないですよね。ということで、研究グループは圧力を強くしたり弱くしたりして、このトビムシ模倣シートが再利用が可能なのかどうかを調べました。

すると、圧力が低くなると再度、元の状態に戻り、最低5回は再利用できることがわかりました。

次に、この新素材の摩擦に対する耐久性を調べました。サンドペーパーを用意して表面をこするというまあまあ過酷な実験を行いトビムシ模倣の穴空きシートとビーズが規則正しく並んだ凹凸構造を持つ素材の比較を行いました。

その結果、やはりビーズで構成された凹凸構造よりもトビムシを模倣した穴空き構造の方が摩擦に対する耐久性が高いことがわかりました。これは最初に研究グループが想定していた通りですね。本当にお見事です。

実際に、ビーズで構成された凹凸構造では、危惧していた通り表面の突起であるビーズが壊れて外れてしまっていたようです。

さらに、研究グループは酸とアルカリに対する耐久性も調べています。ここまでやるのかと驚きですが、その結果も問題ありませんでした。

1MのHClと1MのNaClという理系なら慄くほどの強酸・強塩基に数日つけてもほとんど特性が変わらないことを確かめています。これは結構すごいですね。普通ここまで過酷な環境に数日さらしていたら溶けてボロボロになりそうなものですが、そんな心配は不要のようです。

最後に

今回はNature コミュに掲載されてたトビムシを模倣した超撥水シートの論文を紹介しました。

生き物の表面というのは非常に興味深く、様々な分野に応用されていますね。今回紹介したオムニフォビック表面というのは今後の科学においてもかなり注目の材料と思えます。

トビムシというあまり見慣れない生き物が進化の過程で習得した能力を利用して、将来全く濡れない服や靴などが作られる未来もあるかもしれませんね。

参考文献

Well-defined porous membranes for robust omniphobic surfaces via microfluidic emulsion templating

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