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新潟、2022.6.19のこと

4年ぶりのキナーレは「MonET」になっていた。頭上の空は毎秒変わっていくけれど、エルリッヒの空は4年前と同じ空だった。書くことがそれだけで記憶を保存できる訳ではないにせよ、書かないと消えていく一方なので、とりあえずまた書き始めることにした。

目〔mé〕《movements》は新常設された作品で、全体を見ると大量の羽虫の群れのよう、部分を見るとその一つ一つが文字盤のない秒針でカチカチと蠢いている。
一定のスピード以上で歩きながら鑑賞すると、秒針の蠢きが知覚できない。一つ一つの動きはそのくらい小さい。立ち止まって見つめてはじめて、バラバラのリズムで刻まれる時間が視覚化される。
対象に対して外在的な点を固定しないと観測ができない。生活について言えば、忙しなく動いているとは時間の流れを忘れてしまう。いつも立ち止まってから気づく。

反射的に思い出すのはフェリックス・ゴンザレス=トレスの《perfect lovers》だった。二つの時計の針が、文字盤の全く同じ位置を指す作品。隣で「同じ時を刻む」という事。だから完璧な恋人。けれど、いつか針の動きは互いにズレはじめ、それをまた調整し直し、やがていつか電池は切れる。おそらくどちらかが先に。

そんなことを想起するなら、《movements》は全てバラバラに動いていて、「完璧な恋人」ならぬ「不完全な群衆」みたい。でももしかしたら、この中の何処かと何処かで、「同じ時を刻んで」いる秒針もあるかもしれない、という事を想像する。
それを探すためには、立ち止まらないといけない。

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