都市の殺人

 午前八時四十五分。相川はアラームで起こされた。
「起きてください。相川」
 少女の声と共にベッドの傍らに白髪の少女のホログラム、エイダが現れる。この実験都市の管理AIだ。
 相川はアラームを止め寝返りを打つ。
 三秒の沈黙。
 エイダが手を叩く動作をするとベッドに電流が流れ、相川は飛び起きた。彼は餌を求める魚のように口を開閉させエイダを睨む。
「これが管理AI様のやることか!」着替えながら相川が言う。
「私の行動は都市の利益のみを追求します。そのためには個人の自由など塵芥に等しいものですよ」
 涼しい顔で言うエイダを前に相川はため息を吐いた。この皮肉めいた言い回ししかできないAIに期待することが間違いだったと自覚する。
「それで今日はどこへ?」
 朝食のトーストを齧りながら相川が訊く。
「データを送信しました」
 テーブルの上の端末が鳴動し、相川は内容を確認する。
「八十八番街……治安は良さそうだが」
「あなたには特殊捜査をしてもらいます」
 トーストを持つ手が一瞬止まる。「なるほど」
 八十八番街の大通り。その中心に建つ高層マンションの六階に相川はエレベータで上がった。
 六〇八号室の扉に端末を当て開錠する。
 八メートル四方の広いワンルームだった。備え付けのキッチンや家具以外は既に片付けられている。
「エイダ」部屋の中央に立ち、相川はAIを呼び出した。
「はい。当時の状況を再現します」
 相川の視界の中心からデジタルに抽象化された情報が展開される。
 部屋の中は現在とほとんど変わらず、多少の私物が備え付けのテーブルの上に散らばっている程度で整理されていた。
 足元には黒い塊、その塊を中心に赤いイメージが広がっている。
「凶器はなく、部屋の戸締りはされていた……」
「はい。いわゆる密室です」

 サイバーパンク密室殺人の話。
 逆噴射フォーマットでミステリはやっぱり謎を提示して終わり! になりがちだなぁとなってボツ。

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