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技術派遣=悪なのか。

ネット界隈を賑わす話題として、たびたび登場するのが「技術派遣には転職・就職するな」問題です。

就職・転職するな論者の意識は「技術派遣=悪」、つまり労働者を搾取する問題のある企業であるという認識です。

非常に難しい問題ではあるものの、私は否定論者のいうような技術派遣=すべて悪、だとは考えません。その理由を以下で詳細に語っていきたいと思います。

■ビジネスモデル上の課題はある

主に、「技術派遣に転職・就職するな」の論点は以下の通りではないでしょうか。

(1)短期間でプロジェクトをたらい回しにされる
(2)プロジェクトの下流工程しか経験できない
(3)評価されない・給与が上がらない

上記の理由から、「ITエンジニアとして市場価値が上がらない、転職できない(しづらい)」と結論づけていることは多いです。

(1)~(3)はおおむね事実です。なぜならば、ビジネスモデルがそうなっているからです。

技術派遣とは人手が足りないプロジェクトにIT人材を派遣するビジネスです。人手が足りない主な理由は「人材が必要な下流工程」だからです。

具体的にいえば、開発・構築、テスト、運用・保守です。いいところ、詳細設計まででしょうか。

要件定義や基本設計は人数を必要としない(プライムSIerのメイン工程)からです。

ビジネスモデルがそうなっているので、当たり前といえるでしょう。これが良いことか悪いことかは個人の判断ですが、自明のことなので、この話だけで「騙された!」というのは違う気がします

言い方は悪いですが、転職時に調べれば分かることなので、ご自身で調べていないだけなのでは、と感じてしまいます。

■技術派遣だけが、悪者なのだろうか

しかしながら、ここで2つ主張させてください。

(1)このビジネスモデルはSIerやSESでも採用している
(2)技術派遣でも上流工程やデジタル案件はある

技術派遣=悪論者は、技術派遣のみを挙げて「悪徳企業だ」「ブラック企業だ」と叫びますが、SIer(特に3次請け以下)やSESも同様のビジネスを展開している企業があります

というか、そちらのほうが多いのではないでしょうか。

なぜならば、特に大規模案件では数社~数十社のプライムSIerが上流工程を占めており、中小企業はその下請けにならざるをえないからです。

派遣法で縛られているぶん、技術派遣のほうがマシです。もし、労働関連法に違反していたら、労働基準監督署に訴えれば、高確率で動きます

派遣は良くも悪くも注視されており、何かあれば当局に目を付けられるのです。

また技術派遣であってもWebサービス企業やDXのようなプロジェクトや技術は存在します。当たり前の話で、技術派遣の最終的なお客様がWebサービス企業であったり、DXを推進するユーザー企業だからです。

技術派遣の直接のクライアントはSIerがほとんどでしょう。しかし、SIerのビジネスモデルは「お客様のシステムを開発すること」です。では、このお客様とは?

そのため、デジタル技術案件や最先端の技術を使ったプロジェクトは存在します。

加えて、さきほど多くが下流工程と話しましたが、上流工程のプロジェクトも存在します。これは2つの理由があります。

1つは直接のお客様であるSIerとの関係性です。この関係性が良い、あるいは強いと上流工程も任せてくれることがあります。むしろ、技術派遣は直接指示できるぶん、SIerも使い勝手が良いのではないでしょうか。

(ちなみに。技術派遣はお客様=派遣元が技術派遣のエンジニアに対して、直接、指揮命令が可能です。SIerやSESは契約上、直接の指揮命令は不可です。これをやると、偽装請負とみなされ、法律違反となります。)

もう1つは技術派遣であっても、プロジェクトによっては請負(受託)案件が存在します。ここがSIer・SES・技術派遣をややこしくしている所以ですが、あくまでプロジェクトの契約形態に過ぎないので、技術派遣であってもSIerのようなプロジェクトは存在するのです。

■派遣はアコギな商売なのか

ここで派遣業界のマージン率や利益率にも言及したいと考えています。

上記の記事によると、派遣会社の平均的なマージン率は20~30%ほど。ITになると40%と紹介しています。

ちなみに。マージン率はざっくりいえば、派遣会社の取り分のこと。ただし、マージン率=会社の利益ではありません。というのも、取り分の中には従業員の社会保険料や研修費用、運営費など、さまざまな必要経費も含まれており、純粋な利益と言える営業利益や経常利益は、もっと低い数字です。

実際、大手派遣会社の営業利益は以下のとおりです。

リクルートスタッフィング:6.3%
テンプスタッフ:4.6%
パソナ:1.5%
※パソナは派遣事業の利益率が開示されてなかったため、通年の利益率を記載
※2018年決算資料より(上記の記事から引用)

他社も同じような数字でしょう。

他の業界と比べて、この数字は高いのか低いのか。

「業界動向SEARCH.COM」の情報を見ると、業界平均でもっと利益率が高いのは消費者金融で16.0%、馴染みのある玩具業界で9.1%、銀行が8.9%、ショッピングセンターが8.0%、映画が6.2%、レジャー施設が4.5%ほど。今、需要が上がっている半導体で4.6%ほどです。ちなみに、ソフトウェアは15.8%と2位でした。

人材派遣は6.0%となっており、数字的には悪くはないが、飛び抜けて良くもない、といったところでしょうか。派遣業界はそこまで利益率が高い業界ではありません。

社会保険料を支払っていない、研修やスキルアップ支援がまったくないなどの違法な行為で利益を上げている企業は別として、まっとうな派遣会社であれば、この程度の利益しかないということを理解してください。

■派遣では給与が上がらないと言われる理由

給与が上がらない原因の一つとして、プロジェクト単価が上がらない、という問題があります。IT系の技術派遣ではプロジェクト単価の60%が給与になるので、単価が上がらなければ給与も上がりません。給与を上げたければ、単価を上げるしかないのです。

ここが一般的な企業と技術派遣(を含む派遣全般)との大きな違いでしょう。一般的な企業では評価制度に基づき、高評価を得れば昇給しますが、技術派遣ではプロジェクト単価が上がらなければ、基本的に昇給はありません。

では、単価を上げるにはどうしたらいいのか。上流工程や難しい技術を使えるなど、難易度の高いプロジェクトへの参画です。有り体に言えば、スキルアップです。

技術派遣としても、(本来は)高単価のプロジェクトを請けたいと考えているので、エンジニアがスキルアップしてくれて、高単価プロジェクトを受注できるようになることを望みます。

この前提を踏まえ、エンジニアの給与が上がらない理由は大きく2つです。

(1)会社が高単価ではなく、低単価でも大量に人を入れることで利益を確保したいと考えている
(2)エンジニアがスキルアップしない、あるいはお客様から評価されない

企業は高単価を請け、利益を上げたいと説明しました。しかし、単純な売上だけでいえば、低単価の下流工程のほうが案件は多いので、そこに人を突っ込んでトータルの売上を上げたほうがよい、と考える企業も存在します。

未経験×ノースキルの若手を大量に募集している技術派遣は、その可能性が高いでしょう。彼らの考え方は「人さえいれば売上が立つ」からです。

もう一つのエンジニアがスキルアップしない、評価されないというのは、よくある話です。特に年齢を重ねたエンジニアは現在自分が保有しているスキルで単価を上げたいと考える傾向が強く、スキルアップに意欲的ではないエンジニアが少なくありません。

例えば、VBをメインとするエンジニアが、VBで高単価なプロジェクトに入りたがっているようなものです。業界の方なら分かると思いますが、VBの需要が低い現在、何かしらの理由がない限り、高単価プロジェクトはありません。

また、技術派遣=サービス業なので、お客様の要望に寄り添ってはじめて評価されます。そこそこの技術力があっても、「それは無理です」「私の仕事ではありません」と突っぱねていたら、お客様からの評価が低いのは自明の理でしょう。

以上から、「技術派遣だから悪」というわけではないことがお分かりいただけると思います。

■まっとうな技術派遣を見つける方法

では、どうしたらエンジニアにとってよい技術派遣を探すことが出るのでしょうか。「これだ!」という一つはありませんが、下記に当てはまる会社であれば、まっとうな会社だと言えます。

(1)マージン率を公開している
(2)キャリアサポートの仕組み・制度がある
(3)スキルアップ支援が充実
(4)プロジェクトがエンジニアに公開されている/選べる制度がある

(1)はむしろ、公開していない企業は危険といえます。なぜなら、派遣法によって公開が義務付けられているからです。企業サイトで公開している企業は多くなく、書類での開示をしている企業がほとんどです。

採用選考時にマージン率の開示を求めてみてください。きちんと回答しない企業はその時点でアウトと思ってよいでしょう。

(2)~(4)については、エンジニアのスキルアップやキャリアアップを真剣に考えているかどうかが分かります。

(3)はこれまで実施している企業も多かったですが、(2)のキャリアサポートでは、最近、キャリアプランナー・キャリアカウンセラーなどのキャリア支援専門のポジションを配置し、キャリア支援する企業も増加しています。

現在、抱えている全プロジェクトを公開している企業も増えており、どのようなプロジェクトが多いのかを知ることができます。また一歩進んで、プロジェクトごとの要件まで公開しており、どういうスキルのエンジニアならプロジェクトに参画できるのかまで公開している企業もあります。

ただ、これらすべてを満たしているのは大手企業のみでしょう。しかしながら、中小派遣企業だからダメだ、というわけではありません。あくまで、判断する一つの要素としてもらえれば、と思います。

■一方の論調ではなく、両方から公平に判断する

最後に。私は広い意味での人材サービス業界に属する人間です。人によっては、「自分たちの業界をよく言っているだけだろう」という意見もあるでしょう。そういう方々は話半分に聞いていただいても問題ありません。

ここで言いたいことは、「A業界だからダメだ」という短絡的な意見に惑わされないでほしいということです。

たしかに、派遣業界はビジネスモデル上の問題はあります。しかし、ビジネスモデルを理解し、受託(請負)案件を増やしている技術派遣もあり、努力している企業も存在します。また、法律も常に改正され、違法企業を排除しています。

技術派遣=悪という論調は、自分が技術派遣に転職して失敗した、業界の一部を見てダメだと言っている方ばかりです。かなり偏った意見だと、私は思います。

(もちろん、よくない会社に転職された方が苦しんだのは事実ですが)

一方で技術派遣側から反論すると、叩かれる絶好の材料になってしまうので、発言する企業はほとんどありません。それはフェアではないなと思い、今回、このような記事をアップしました。

あくまで公平な情報から、あなたにとって最適な転職を実現していただきたいと考えています。その一助になれば幸いです。

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