1、アナルプラグは突然に。

2019年1月某日。
Amazonから小包が届く。
少しだけ重い「それ」の中身を、私は知っている。


平成最後のアナルへの挑戦が
今、始まる――


 私はTwitterをやっている。オタクだからだ。
そしてオタクのフォロワーにはオタクしかいない。そのオタクたちの輪の中で、「初任給(アルバイトも含む)でフォロワーにアナルプラグをプレゼントする」という儀式が流行っていた。
 「やれやれ、まったく、頭のおかしい人たちだな」と私は傍観していた。

……そのときの私は、まさかその儀式の贄になろうとは思っていなかった。



 「バイトの初任給が入った。誰かアナルプラグ送っていい?」
フォロワーのオタクが呟いた。
 「いいよ」
私はそう答えた。

 何故?聞くまでもないさ。

 オタクが懸命に労働し手に入れた初任給でアナルプラグを誰にもプレゼントできないまま、その呟きが電子の海に流れていくさまを想像すると、学生時代に何度も味わった、あのなんともいえない心がギュッと締め付けられるような感覚に陥ったのである。(陰の者ならわかるはずだ。)
  誰にも貰われないアナルプラグなんて、この世にあってたまるものか。

私は義の人だった。
誰かが悲しむさまは見たくなかった。
ただそれだけだ。
オタクの笑顔のため、私は自らの肛門を差し出した。

――私の肛門で誰かが救われるのならば、
それで良い。

 しかし、オタクに住所を教えるのは少し抵抗があったため、Amazonの欲しいものリストの機能を活用した。私が欲しいものリストにアナルプラグを追加すれば住所を知られぬまま私の手元へとアナルプラグは届く。天才的ひらめきである。大学を中退して本当に良かった。
 アナルプラグ童貞(いや、挿入されるのだから処女と書くべきか)である私にはどのアナルプラグが初心者向けなのかわからず、とりあえずアナルに優しそうなアナルプラグを選んだ。

「Paloqueth アナルプラグ アナル拡張5本セット 吸盤付き 円錐状 ローション付属 (黒)」
(リンクを貼るとアフィリエイトのようなので貼らない。各自で検索して、Amazonの閲覧履歴にアナルプラグの痕跡を残していただきたい。)

 何故このアナルプラグを選んだのか、今はもう覚えていないが、おそらく自分の肛門がどこまで耐えられるのかを試したかったのだと思う。それと吸盤付きというのに惹かれた。部屋中に貼り付けたいなと思った。おもしろいじゃん。しかも5つもあるなんてコスパがいい。
 ローション付属とはいえ、5つもの難関を突破するにあたって付属のローション量では心もとなかったため、ローションと、衛生上の理由のためコンドーム(徳用)を欲しいものリストに追加した。

 全部あわせるとおそらく3000円くらいにはなっていたはずだ。オタクの初任給から3000円も奪い去るのはどうかとも思ったので、特にそのアナルプラグ以外のものも送れとは記載しなかった。もしかしたら他のオタクが面白がって送ってくれるんじゃないかとか適当なことを考えていた。まあいざとなれば自分で購入すればいいし。

 しかし、届いた小包の中にはアナルプラグ・ローション・コンドームの3種の神器が煌々と光を放ちながら座していた。
 初任給を手にしたオタクは私のためにアナルプラグ・チャレンジのためのセットをまとめて購入してくれたのだ。オタクの時給なんてせいぜい950円くらいだろうに。


私は涙した。
オタクもまた義の人だった。
そして決意した。
オタクの義の心を無駄にしない、と。


私はアナルプラグに、
負けたりなんかしない。


2019.03.12

ジュース買います